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【実話怪談】皆殺し年賀状

「結婚しました。」思わぬ年賀状が、佳苗さんの元に届いた。
差出人の杏子さんは地元の同級生だ。小学生の頃には親しかったが、中学に上がってからは何となく遊ぶグループが分かれてしまって卒業以来、疎遠になっていた「元友達」。東京の、今の佳苗さんの住所を誰から聞いたのか知らないが、わざわざ結婚を知らせてくれたのは意外だった。丸っこい手書きの文字で、大学時代から付き合っていた「正文さん」という相手と結婚した旨と、披露宴は親族だけで行なったので招待できず申し訳なかったという侘びがつらつらと書かれていた。
……佳苗さんは少し、妙に思った。結婚報告の年賀状なら新郎新婦の晴れ姿の写真でも刷ってありそうなものだが、絵も写真もないただの葉書に手書きの文章だけという素っ気なさだった。
それでも佳苗さんはお祝いを送らなきゃと思っていたが、書き漏らしたのか年賀状には住所や電話番号の類いがなく、何かのついでに実家の親に訊けば良いやと思ったきり、忘れてしまったという。
それから二年経って、また杏子さんから年賀状が届いた。男の子を授かったという報告だった。「翼」と名付けたそうだ。しかし今回も写真はなく、住所も書かれていなかった。
今度こそはと、佳苗さんは実家の母親に電話して杏子さんの家の住所を尋ねた。
昔の連絡網に電話番号が載っているはずだから、かけて聞いてみるね――母からの折り返しは、三十分ほどでかかってきた。
『最初、いたずら電話だと思われて怒られちゃったわよ。どうなってるの』
佳苗さんの母は困惑した様子で言った。
『杏子ちゃん、結婚どころか四年も前に亡くなったって。自殺だったそうよ』
「結婚しました」の年賀状が届く二年前に? 佳苗さんも訳が分からなかった。
とりあえずは、地元の同級生の誰かの悪質ないたずらだろうという話になって電話は終わったが……手元の年賀状を眺め、割り切れない気持ちだった。
その翌年の正月、また年賀状が届いた。
裏に跡がめり込むほど強い筆圧で、こう殴り書きされていた。

「みんな死にました。正文も死にました。翼も死にました。杏子も死にました。ぜんぶお前のせいです」

それきり、「杏子さん」から年賀状が来ることはなくなったという。

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