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しくじり商品研究室:セブンカフェドーナツ

商品を企画する際に、ヒットに導くのは難しいのですが、反対に失敗要素を極力減らしていくことなら比較的実行しやすいです。
ここでは、失敗した商品の原因を知ることで、失敗要素を減らす参考になればと思います。
(トップ画像引用元:https://www.7andi.com/company/challenge/1706/1.html

セブンカフェドーナツの例

コーヒーのお供を狙って商品展開も・・・

コンビニコーヒーと言えば、セブン-イレブンだけでなく、コンビニ各社で販売されている、もはや定番となった商品ですよね。セブンカフェドーナツはそんなコーヒーとのセット購入を狙って、2014年から展開がされました。展開もレジ横とかなり気合感じられます。
しかし、当初は好調に推移していたものの、その勢いはすぐに止まり、翌2015年には低迷してしまったようです。2016年にはリニューアルを行っていますが、売上は改善しなかったようです。
この理由について調べてみると、ネットでは次のような要因が出てきます。

  • ドーナツブームが終わり、市場規模が縮小していた。

  • ドーナツはコーヒーと一緒に持ちにくく、ついで買いしにくかった。

  • ミスタードーナツに比べて美味しくなかった。

これらも失敗の理由の一因だとは思いますが、ここではもう少し深堀してみたいと思います。

しくじり理由

①コーヒーに比べて強みがない

ドーナツの失敗理由に入る前に、なぜ、コンビニコーヒーがこれほど広がったのかをおさらいします。
コンビニのコーヒーは、店舗の多さを活かし、同じ豆を大量に仕入れることで、質の高い豆でも安く仕入れをしています。その結果、消費者にとっては、美味しい出来立てのコーヒーを安く買うことができるというメリットがあります。また、コンビニは店舗数が多いので、入手性が高く、例えば通勤の途中や、出先でも買いやすくなっています。
つまり、コンビニコーヒーは「安い、美味い、早い(どこでも買える)」を実現し、自販機よりも美味しく、専門店よりも買いやすいのがポイントになています。

では、セブンカフェドーナツはどうでしょうか。
まず、価格は100円~110円と、専門店であるミスタードーナツ等に比べて安くなっています。
入手性は、コンビニの店舗数から、当然ミスタードーナツ等の専門店に勝ります。
そして、最後に美味しさです。セブンカフェドーナツのドーナツは工場で生産されて、遅くとも製造後3時間以内に店舗に配送していました。いわゆるセントラルキッチンで調理したものを店舗で販売していたわけです。
一方で、ミスタードーナツは店舗で調理をしたものを販売しています。
さらに、単純なコーヒーと違って、ドーナツは調理工程が多く、店舗では作れないのでセントラルキッチンで作らざるを得ません。確かに、店舗が多ければ、原材料は安くなりますが、コンビニでは出来立ての提供はできません。また、特に豆が味を左右するコーヒーに比べて、ドーナツは、レシピや揚げ方など、味を左右する要素が多くなります。安く原材料を仕入れるだけでは、美味しくはできないのです。
つまり「安い、美味い、早い」を実現していたコーヒーに対して、ドーナツは「安い、早い」の提供しかできていないのです。コンビニはスーパーや量販店に比べて安くはないので、味で少し劣っても、安ければ一見問題ないように見えるのですが、ドーナツの場合はこれが大問題で、しくじり理由の②に続きます。

②そもそもドーナツの消費頻度が低い

ふだん皆さんはどのくらいの頻度でドーナツを購入されるでしょうか?私が最後にドーナツを食べたのは数か月前です。少なくとも、コーヒー並みに消費するという方はほとんどいないでしょう。秦野市の調査では「2~3か月に1回」という方が最も多いようです。限られた範囲の調査ではありますが、私の感覚ともずれていないで一般的と考えてよいでしょう。

http://www.hadano-brand.jp/_src/138/83h815b83i83c82c98ad682b782e983a839383p815b83g.pdf

ドーナツを買うときを考えてみると、友人宅に遊びに行く時の手土産にするとか、ちょっとした日のご褒美的なおやつとして食べるとか、特別感があると思います。日常的なおやつとして食べるシーンは少ないと思います。
特別感がある、ということは、安さよりも美味しさが重要になります。その際にセブンカフェドーナツが「安い、早い」しか提供できていないのは致命的です。

③コーヒーとセットで買うメリットがない

一方で、「日常的に食べないドーナツを、価格を下げることで日常的に食べる」という提案をセブンカフェドーナツが行おうとしていたのも事実です。そして、その媒体として、消費量の多いコーヒーを利用しようとしたわけです。実際に、セブンカフェドーナツの味は甘さ控えめで、コーヒーに合うように作られています(美味しさ低減にもつながってしまうのですが)。
ですが、甘さ控えめのお菓子は、ビターチョコなど既存のお菓子などがすでにあります。つまり、あえてドーナツをコーヒーと一緒に買う理由がないのです。
例えば、コーヒーとドーナツをセットで買うとコーヒーが安くなるとか、より健康に良いとか、他の軽食やお菓子ではなく、セブンカフェドーナツとコーヒーの組み合わせでないといけない理由があれば、結果は変わったかもしれません。
コンビニコーヒーが缶コーヒーに取って代わったように、ドーナツも他のお菓子に取って代わることができれば、ドーナツ市場が縮小していても、事業がうまくいった可能性はあるでしょう。
なお、この①~③のしくじり理由は他のコンビニにも共通するので、追随した他のコンビニも同様に失敗に終わっています。

ユーザー不在の商品開発

コンビニコーヒーは男性30代の利用率が高く、女性50~60代で低くなっているようです。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001147.000007815.html
恐らくオフィスワーカーの利用率が高いのだと思います。私の周囲を見ていても、朝の通勤時に彼らがコーヒーとお昼ご飯を一緒に買っていても、ドーナツを一緒に買っているシーンを見ることはあまりありません。現在ドーナツを買っていない彼らにドーナツを買わせるには、何らかの理由が必要なのです。
ところが、セブンカフェドーナツの情報を調べていると「セット買いをしてもらいたい」という企業側の想いばかりで、消費者へのメリットが出てきませんでした。
こうなってしまった背景として、もしかすると、コンビニコーヒーでの成功体験に対して、セブンイレブンの認識がユーザー不在のものだったのかもしれません。自販機やカフェに比べて、「顧客価値の高い代替手段を提供し、売上につながった」のが実情だったのに対し、「他社のビジネスを取り込んだワンストップ化」と自分たちのアイデアやビジネス転換を評価してしまったために、ドーナツに乗り出したのかもしれません。
いずれにしても、セブンカフェドーナツは、ユーザー置き去りで商品が開発されたことがよくわかる、良い例だと思います。

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