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しくじり商品研究室:マツダ・ビアンテ

商品を企画する際に、ヒットに導くのは難しいのですが、反対に失敗要素を極力減らしていくことなら比較的実行しやすいです。
ここでは、失敗した商品の原因を知ることで、失敗要素を減らす参考になればと思います。
(トップ画像引用元:https://www.webcg.net/articles/gallery/4981

マツダ・ビアンテの例

マツダ・ビアンテについて

マツダ・ビアンテは、需要が高まるミニバン市場にマツダが2008年に投入したミニバンです。それまでMPVやプレマシーといった背の低いミニバンしかラインナップに持っていなかったマツダが、トヨタ・ノア/ヴォクシー、日産・セレナといった背の高いミニバンに対抗するために、投入した自動車です。これらの背の高いミニバンは2014年にピークを迎えますが、ビアンテは不発で残念ながら終わっています。

ライバルとなったトヨタ・ノア
(引用元:https://toyota.jp/ucar/catalog/brand-TOYOTA/car-NOAH/200806/10048905/)

なお、先日、知り合いの方と食事をした際に「売れなかった商品、何かご存じないですか?」と聞いて出てきたのが、今回紹介するマツダ・ビアンテでした。私もこの車が売れなかっただろうことは感じていたのですが、他の人からも失敗した商品として認識されてしまったマツダ・ビアンテ。その失敗理由を見ていきたいと思います。

しくじり理由

ビアンテの最大の特徴は車体の大きさにあります。価格はノアやセレナと同等の200万円台に収めながら、当時のノア/ヴォクシー、セレナの5ナンバーサイズではなく、ワンランク上のトヨタ・アルファードや日産・エルグランドに迫る、横幅1700mmを超える3ナンバーサイズの車体・広い車内を実現していました。ライバルと同じ価格で、ワンクラス上の空間が手に入る、という差別化ポイントがありながら、なぜビアンテは失敗に終わってしまったのでしょうか?

空間の広さが活かしきれなかった

前述の通り、ビアンテはワンランク上のミニバンと同じ3ナンバーサイズの車体を持っているがゆえに、車内も広くなっています。
しかし、その広さを活かすことができていないように感じます。
最もわかりやすいのは、3列目シートのアレンジでしょう。トヨタ・ノア/ヴォクシーでは3列目シートを左右に跳ね上げることで、5人乗車時でも、高さ、奥行きのある大きな荷室を確保することができます。もともとリアタイヤが室内に張り出している部分の上にシートが上がるので、室内幅もそれほど犠牲になりません。(例えば、5名乗車のお出かけスタイルラゲージモード)

ノア/ヴォクシーのシートアレンジ
(引用元:https://motorz-garage.com/topic/detail/5727)

一方のビアンテは、3列目シートは前に動かして畳むのが基本になります。

ビアンテのシートアレンジ
(引用元:https://website.keiji-mazda.jp/new_car/biante/)

「5人乗車+リアラゲッジモード」では、折りたたんだ3列目シートの分、荷室の奥行きが無駄になっています。結局、5ナンバーサイズのライバル車とあまり荷室の大きさが変わらないわけです。
とはいえ、ここもマツダは負けていることを理解したようです。
当時マツダが押していたアレンジは、2列目を大きく後ろにスライドし、足元を広くする「リビングモード」です。

ビアンテのリビングモード
(引用元:https://autoc-one.jp/mazda/biante/report-46810/photo/0043.html)

足元が広くなるのは良いのですが、ここで何ができるか・・・。
走行中はシートベルトをするので、このスペースは活用されません。「足元に荷物がたくさん置けるね。」となるかもしれないですが、できれば荷物はシートの後ろのラゲッジスペースに入れたいものです・・・。
駐車中は車の中にとどまりませんし、車中泊の場合も床には寝ないでしょう・・・。
このように、スペースが広いだけで、その有効活用ができなかったのが、ビアンテの課題だったと言えそうです。同じことができるなら、5ナンバーサイズのほうが取り回しも良く運転しやすいでしょう。
なお、調べてみると収納スペースに関しても、ライバルより少なくという声があり、広さが活かしきれていないようです。

強みなき参入

さて、そんなビアンテの使い勝手の悪さですが、これは開発者が気が利かなったからではなく、当時のマツダにその理由が隠れています。
当時、マツダはフォードの傘下にあり、フォードグループのメーカーとグローバルで車のプラットフォームを共有することでコスト削減をしていました。そのため、日本市場のためだけに、ミニバンのプラットフォームを作ることができなかったのです。そこで、乗用車のプラットフォームを使って、無理やりミニバンを作ったのがビアンテだったのです。

ビアンテとプラットフォームを共有するアクセラ
(引用元:https://motorz-garage.com/topic/detail/6037)

ベースとなるプラットフォームの時点で3ナンバーサイズになることが確定、シートアレンジにも限界が出てきてしまいました。ビアンテはデザインも賛否分かれる独特なデザインをしていますが、これ独特もプラットフォームの制約によるものだそうです。
かつて、マツダはボンゴ・フレンディーというミニバンで、屋根を開け、テントのような空間を作ることで、人気を得ました。これが、単に広いスペースで戦うという安易な発想に繋がったのかもしれません。実際の価値は、例えばキャンプで家族で車の天井で寝たるような「体験」だったはずです。

屋根が開くことで空間を作ったボンゴ・フレンディ
(引用元:https://car.motor-fan.jp/catalog/MAZDA/10252009)

トヨタ・ノア/ヴォクシー、日産・セレナ、ホンダ・ステップワゴンといった強力なライバルがいる中で、強みを生み出せず、制約条件がそのまま弱みになってしまった例と言えるでしょう。安易な参入は避けなければなりません。

なお、現在マツダはミニバン市場から完全に撤退、その代わりに自社でも売れ筋のSUV車に8人乗りの車を用意して戦っています。

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