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しくじり商品研究室:ダイソン ヘアアイロン

商品を企画する際に、ヒットに導くのは難しいのですが、反対に失敗要素を極力減らしていくことなら比較的実行しやすいです。
ここでは、失敗した商品の原因を知ることで、失敗要素を減らす参考になればと思います。
(トップ画像引用元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000045.000042335.html

ダイソン ヘアアイロンの例

ダイソン コラールとは

掃除機で有名なイギリスの家電メーカー、ダイソンは多くの方がご存じかと思います。掃除機での成功ののち、羽根の扇風機など他の分野にも商品の展開を広げていますが、近年特に力を入れているのが美容家電です。ドライヤーの「Supersonic Shine」や、カールアイロンの「Air Wrap」などの高級美容家電を発売し、特に金額シェアで美容家電メーカーの一角となっています。

ダイソンのSupersonic Shine
(引用元:https://www.dyson.co.jp/hair-care/hair-dryers/dyson-supersonic-shine/dyson-supersonic-iron-fuchsia-hd15.aspx)

そんなダイソンが展開しているヘアアイロンが「Corrale(コラール)」です。最大の特徴は”フレックスプレート”で、通常のヘアアイロンでは固い金属板が使われるのに対し、挟んだ髪に合わせて変形する柔軟なプレートを使っています。低い温度でも髪に均一に熱を伝えて、髪のくせ付けや、髪型のセットができるため、髪が傷みにくいという特徴を持っています。
また、コードレスなので、どこでも持ち運びできるという特徴も持っています。価格は約5万円です。日本での販売は2021年からですが、先行して海外で販売され、好評だったようです。

髪にあわせてプレートが変形するフレックスプレート
(引用元:https://www.dyson.co.jp/hair-care/dyson-corrale/dyson-corrale-straightener/dyson-corrale-ceramic-pop-hs07.aspx)

美容家電でも参入に成功し、売上を上げているダイソンですが、ドライヤー、カールアイロンに比べると、日本市場ではこのヘアアイロンは苦戦しているようです。その要因を今日は、見ていきたいと思います。

しくじり要因

①日本のスタイリングに合致していない

まず、ヘアアイロンは、おおよそ三種類に分けられます。
髪をまっすぐに伸ばすストレートアイロン、髪を丸めるカールアイロン、その両方ができる2WAYアイロンで、形状がそれぞれ異なります。そのうち、日本で主流のものはストレートアイロンで、ダイソンのヘアアイロンもここに属します。

さて、ダイソンのヘアアイロンはコードレスであるために、日本で主流のヘアアイロンと比べると大柄なものになっています。日本で主流のヘアアイロンの一つである、サロニアのものと比較すると、よくわかると思います。

サロニアストレートアイロン(引用元:https://salonia.jp/product/hair/iron/straight/)

サロニアのストレートアイロンで売れ筋のものはプレート幅24mmのもので、本体の幅は約30mmです。対して、ダイソンは約40mmとなります。長さもサロニアが約280mmに対してダイソンが約290mmと全体的に一回り大きいです。
実は、日本では、ストレートタイプのヘアアイロンは、髪をまっすぐに伸ばすだけでなく、丸めるのにも使われるようになってきています。

ストレート型のヘアアイロンでも様々な髪型が作れる
(引用元:https://michill.jp/author/column/109737)

髪を挟んでまっすぐに伸ばすだけでなく、髪の先端を曲げたり、前髪を丸めたり、と細かなスタイリングでも使われ、いわゆる”ニュアンス”と呼ばれる繊細な造形がされるのです。日本の髪型の流行にも影響されますが、ヘアアイロンの使われ方として、ここ数年、この傾向は変わっていません。
そんな中で、ダイソンのヘアアイロンは本体が大きく、繊細な造形が苦手で、日本で求められるスタイリングに合致していません。

②ダイソンの強みを感じにくい

ダイソンの商品展開をおさらいしてみましょう。
まず、最初の商品は掃除機でした。
その掃除機の後に展開した商品は、羽根のない扇風機でした。
羽根のない扇風機をぐっと小さくしたようなデザインだったのが、扇風機の次に発売されたドライヤー「Supersonic Shine」で、ダイソンとしては初の美容家電でした。
その後、美容家電の第二弾として展開されたのが、カールアイロン「Air Wrap」です。

ダイソンAir Wrap
(引用元:https://www.dyson.co.jp/hair-care/dyson-airwrap-styler/dyson-airwrap-multi-styler/dyson-airwrap-multi-styler-long-nickel-copper.aspx)

ここまで、掃除機から始まったモーターの技術が使われています。もともと美容家電のイメージのないダイソンは、モーター=風を利用する技術のイメージで美容家電に参入したわけです。
ですが、ヘアアイロンに関しては風を使った技術が使われていません。
ヘアアイロンは現在参入するメーカーも多く、プレートや熱に対する技術や工夫は各社が行っています。それぞれが独自の方法をとっているのでなかなか優劣がわからない中で、強いイメージを与えられたものが選ばれている印象です。例えば、KINUJOというメーカーのヘアアイロンはプレートの表面にシートを巻き、表面の温度を下げ、水が蒸発しない温度だから髪にやさしい、という売り出しをし、シェアを伸ばしています。

KINUJOのシルクプレート(引用元:https://www.kinujo.jp/products_kinujo/)

このKINUJOのヘアアイロンは2万円ほどで売られています。
風を利用する技術という、ダイソン独自のイメージが使えず、競合も多い中、プレートの構造だけで5万円の商品を販売するのはハードルが高いように思います。

考察:手軽さが感じられない

ロボット掃除機もルンバに押されている
(引用元:https://www.dyson.co.jp/vacuums/robot/dyson-360-vis-nav.aspx)

上記で売れなかった理由を挙げてみましたが、ここで、もう一歩踏み込んで考察をしてみます。
ダイソンの製品でいうと、ロボット掃除機もiRobotのルンバに押されて、あまり売れている印象がありません。
ロボット掃除機とヘアアイロンとの共通点を探ると、手軽さの欠如のように感じられます。ヘアアイロンは前述の通り、大柄で手軽な感じはありません。ロボット掃除機はどうでしょうか。通常の掃除機はゴミを良く吸うこと=掃除が手軽になることに繋がるのですが、ロボット掃除機の場合は、掃除自体が手軽になっているので、吸引力よりもお手入れ性や使いやすさがポイントになってきます。自動で掃除してくれるロボット掃除機の場合、一発できれいにする必要はなく、何回か往復してきれいになれば問題ありません。ルンバは構造もシンプルで、充電ドックにゴミが自動で移動する方向に進化しています。一方のダイソンはロボット掃除機でも吸引力にこだわっている印象です。ブラシやダストケースも従来の掃除機同様、しっかりしたものになっていますが、その分、お手入れは面倒です。
人の生活を便利にする家電である以上、ダイソンほど特徴的で、デザインに優れている商品であっても、手軽であることは必須だと言えるでしょう。

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