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オレの傍役グラフィティ「アンドリュー・プライン」

先日「未発売映画劇場」で観た「日没を怖れた町」で、ひさびさにこいつの顔を見た。

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連続殺人におびえる町の保安官助手を演じていた、彼の名前はアンドリュー・プライン(Andrew Prine) 1960年代から70年代にかけて、ちょっとクセの強い映画でよく見かけた顔だ。

私がこの顔を覚えたのは、戦争大作「コマンド戦略」(1967年) 戦争映画の定石のひとつ、ならず者部隊ものの中では比較的カネをかけた大作で、部隊長のウィリアム・ホールデンを筆頭に、クリフ・ロバートソンヴィンセント・エドワーズを配し、隊員にはクロード・エイキンスリチャード・ジャッケルジャック・ワトソンといった男臭い連中が揃っているという、なかなかゴキゲンな映画。

そんなクセモノぞろいの「悪魔旅団(原題)」の隊員の一人が、アンドリュー・プラインだった。

クセモノとはいっても、ほかの連中は、いちおう正式に配属された軍人である。軍規違反上等の落ちこぼれ米兵とダンケルクの敗走部隊のカナダ軍ではあるが。

その中へまぎれこむのが、どうやら脱走兵らしきプライン。隊長に直訴して首尾よく隊員となるのだが、経験不足なくせにスタンドプレーに走ったりする厄介者。とはいえ、この神経質そうなヤサオトコが、豪傑ばかりのならず者部隊で異彩を放っていたのもまた事実。そういう意味では、得な役回りだったか。

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前から5番目にプライン氏の顔

「コマンド戦略」の前年に出演したのが「テキサス」(1966年) アラン・ドロンがハリウッドにやってきてディーン・マーチンと共演したコメディ・ウェスタン。なんで、あのドロンがこんな映画にとも思うが、けっこう面白いこたぁ面白い。

ここでは、ドロンをしつこく追ってくる騎兵隊長に振りまわされる部下の騎兵隊員の役。パラノイア気味の隊長を演じるピーター・グレイブス(「スパイ大作戦」)の熱演に当てられ気味とはいえ、それなりの印象を残していた。神経質そうな風貌とは裏腹に、なかなかの芸達者ではあるのだよ。

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右端がプライン氏

このほかにも、「バンドレロ」「チザム」といったジョン・ウエイン主演のウエスタンに出ていたり、テレビでも「ヒッチコック劇場」「ボナンザ」「事件記者コルチャック」などに次々とゲスト出演するなど、傍役としてはまずますの仕事ぶり。

だが待て、ちょっとばかり作品がB級っぽ過ぎないか。もちろん私はそのほうが好きだが。

というのも、本来はこの人、舞台出身で、映画デビューはアカデミー賞受賞の名作である「奇跡の人」(1962年)なのだ。

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最優秀主演賞・助演賞受賞の女優さんに挟まれてます

しかも役どころはヘレン・ケラーの兄という重要な役。真面目な役者のはずだったのに、なんでこんなB級臭い映画ばかりに。そう、こんなところで傍役あつかいされるような俳優ではなかったはずなのだ。

その原因がこれとはいえないが、じつはプラインの過去には非常に不幸な事件がある。

1963年11月28日、若手女優のカリン・カプシネットがウェストハリウッドの自宅で変死した。まだ22歳だった。当初は薬物の過剰使用によるものと思われたが、検視の結果、他殺と断定され、殺人事件の捜査が開始される。

アンドリュー・プラインはこの前年までカリンと交際していたが、彼女が人工中絶手術を受けたことから別れていた。この事実から、彼は警察の取り調べを受けることになる。2人の別れ話はこじれていたともいわれ、カリンはプライン相手にストーカーまがいの行為をしていたという話もあったらしい。

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カリン・カプシネット

このことが直接プラインのキャリアに影響をおよぼしたかどうかはわからない。警察は彼を容疑者とは見ず、事件はけっきょく未解決のままとなった(事件がケネディ暗殺の翌週だったことから、陰謀説の格好のネタになっている) 公式には何ひとつ問題がなかったことになるが、なにかと噂も出ただろう。なにしろハリウッドというところは、この手の問題には過敏だからね。だとすれば、彼がこのあとメジャーのまっとうな映画にあまり恵まれなかったのもうなずける。

実際にどうかはともかく、どうもアンドリュー・プラインには、失礼ながら不幸の星がついて回っているような気がする。そんな印象を強くするのが、三文映画ながらなぜかスキモノには人気があり、プラインの代表作(?)のひとつである「グリズリー」(1976年)での役だ。

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右は「コマンド戦略」でも同僚だったリチャード・ジャッケル

巨大な人食い熊が国立公園を襲うという、まっこう「ジョーズ」いただきの動物パニック映画で、プラインは助演格。主人公のパークレンジャーであるクリストファー・ジョージを動物学者のリチャード・ジャッケルとともに補佐する。あれれ、3人組がクマと戦うという構図も「ジョーズ」からの頂戴だな。

ま、それはいいのだが、問題はプラインの役がヘリコプターのパイロットだということだ。

この映画の監督がウィリアム・ガードラーだということを知ると、ちょっとこの設定は怖いね。

というのも、ガードラ―監督はこの映画の2年後の1978年、新作のロケハン中にヘリコプターの墜落事故で死んでいるからだ。まだ30歳だった。

「グリズリー」では冒頭からクライマックスまで、広大な山林の上をヘリコプターが飛び回る。2年後の事故を知っているこちらとしては、そこに不吉な影を感じざるを得ない。そして、そのすべてを操縦していたのがプラインなのだ。

どうだ、不吉だろう

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と、こちらは勝手に不幸の星を感じているのだが、当の本人は80代になってもなお健在のようだし(1936年生まれ)、21世紀になってもなお映画に出演しているのだから、そうそう不幸ではないのだろう。余計な心配だったようだ。

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