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未発売映画劇場「日没を怖れた町」

今年(2021年)も大詰めなわけですが、今年読んだ本のなかでけっこう面白く読んだのがこちら。

『ビハインド・ザ・ホラー』(リー・メラー著/五十嵐加奈子・訳) サブタイトルに「ホラー映画になった恐怖と真実のストーリー」と謳われているように、古今の有名ホラー映画の、題材となったりインスパイアさせたりした、現実の事件を紹介したノンフィクションです。

まぁ要するにネタが私の好物ばかりなわけで、そりゃ楽しいよね

この手の本はわりとあるし、今はネット上でもけっこう拾える題材ですが、ここまで広範囲に網羅し、そのひとつひとつの事件をコンパクトにまとめているのがいいですねぇ。肩の力を抜いて読み飛ばせるし。

ホラー映画というジャンルを非常に幅広く捉えているのも、なかなかいいですね。スーパーナチュラル系の「エクソシスト」「悪魔の棲む家」「ポルターガイスト」などや、スラッシャー系の「サイコ」「フレンジー」「エルム街の悪夢」、さらには「羊たちの沈黙」とか「ジョーズ」まで取り上げています。「M」なんて古典まであるし。

そんな本なので、初心者向けの入門書としてもおススメしたいところですが、残念ながら、ネタバレが多い! そこまで書いちゃいけないだろうと思うような個所が毎回あるので、取り上げられた映画を見ていない人はご用心です。ま、実話のほうを紹介するのが肝要の本なので、致し方ない面はありますが。

さて『ビハインド・ザ・ホラー』の目次には、20本もの映画のタイトルが並んでいます。なかなか壮観ですよ。

と、そんななかに、一本だけ見慣れないタイトルがありました。そう、この一本だけが日本未公開、未ソフト化、どうやらテレビ放送もなかった模様。

本では「日没を恐れた街」とされています。「街」というほど大きなところではないので「町」のほうが適当じゃないかな。1976年のアメリカ映画。原題も「The Town That Dreaded Sundown」です。

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『ビハインド・ザ・ホラー』で紹介されているように、この映画は実際におこった連続事件を基にしています。宣伝でも「TRUE STORY」なんて名乗ってますね。映画の冒頭にも「この映画に描かれるのはすべて事実であり、変更しているのは登場人物の名前だけである」なんてメッセージが流れます。

舞台になるのは、テキサスとアーカンサスの州境にまたがるテキサカーナという小さな町。実際に事件が起きたのは1946年の2月から5月にかけてで、4件の襲撃で8人が襲われ5人が犠牲となりました。

映画は、30年前のこの事件をほぼ忠実に再現しつつ、警察の捜査と、連続殺人鬼(ファントムキラーと呼ばれます)の影におびえるテキサカーナの町の人々のパニックぶりなどが描かれます。ドキュメンタリータッチというと、ちょっと言い過ぎかな。

正直いって、その後のスラッシャームービーをたっぷりと味わってきた現在の私の目には、この「日没を怖れた町」は、少々ヌルイ映画に見えました。

展開に迫力がないし、血や内臓が飛び散るようなゴアシーンもないし、サスペンスも薄め。かなり物足りないのであります。

とはいえ、これが1976年の映画だと思えば、それも当然でしょう。

連続殺人鬼を描くスラッシャームービーの歴史は古く、それこそフリッツ・ラングの「M」、ヒッチコックの「下宿人」などから「サイコ」や「絞殺魔」などを経て、「ハロウィン」「13日の金曜日」など1980年代のブームがあり、現在にいたるまで無数の作品が作られてきたわけですが、そこに大きなエポックとなる作品があります。

それまでのものを「古典スラッシャームービー」とすれば、それ以降のものを「現代スラッシャームービー」と呼べるくらいのインパクトをホラー映画業界に残した映画です。

ゾンビ映画の歴史における「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」に当たる映画ですね。

そう、トビー・フーパ―監督の、あの怪作「悪魔のいけにえ」です。

この映画を境に、それまでは基本的に「警察捜査映画」だったスラッシャームービーが、完全に「ホラー映画」というジャンルに編入されたといっていいでしょう(私見です)

「悪魔のいけにえ」は、1974年の映画です。この「日没を怖れた町」が製作されたのは1976年。

つまり、この映画は時期的には「アフター悪魔のいけにえ」なわけなのです。

ところが、「日没を怖れた町」は、みごとなくらい「ビフォー悪魔のいけにえ」なのですよ。

たとえば、この映画の主演は、事件捜査の指揮を執ったテキサスレンジャーの警部を演じたベン・ジョンソンであり、地元テキサカーナの保安官助手を演じたアンドリュー・プライン。地味だけど、どっちも実在の捜査官をモデルにしています。

捜査側の人間を主役にするのは、「悪魔のいけにえ」以前のスラッシャームービーのもっともフツーな手法。

前記したように、血みどろのゴアシーンがほとんどないことからも、この映画が「ビフォー」に属することは明白なんですね。まあだからダメってことでもないですが。

この映画の決定的な弱点は、この点ではないのです。「悪魔のいけにえ」以前のスラッシャームービーだって、面白いものは面白いですからね。

「日没を怖れた町」の弱点は、事実に縛られ過ぎたことでしょう。

実際の事件、テキサカーナ月光殺人事件〔Texarkana Moonlight Murders〕は、現在にいたるまで、けっきょく未解決のままになっています。迷宮入りってやつですね。

そのため、事実に忠実に描いた「日没を怖れた町」は、当然ながら犯人の正体も、事件の真相も、まったく描くことなく終わってしまいます。

現実の事件が「クライマックスもなく、なんとなく終わってしまう」のは仕方ないし、迷宮入り事件がそうなるのは当たり前でしょう。

だからといって、それをそのまま映画にしたら、どうなるか。

クライマックスがなく、なんとなく終わる映画が、面白くなるはずがないじゃないですか。

ということで、少なくとも私の目には「日没を怖れた町」は、なんとも物足りないまま終わった映画になってしまいました。

せめて推測でもいいから、犯人らしき人物と、そいつとの最終対決を提示してほしかったですね。

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ということですが、公開当時はさほど評価されず、日本でも未公開に終わった「日没を怖れた町」は、その後カルトムービーとなり、2014年には同タイトルでリメイクっぽい作品も作られています(これも日本未公開)

その理由は、上掲したポスターにもある、殺人鬼のスタイルを見ていただければわかるでしょう。

「13日の金曜日」シリーズの殺人鬼として人気者(?)になった、あのジェイソンのスタイルとそっくりでしょう(「PART2」だけのスタイルですが) もちろんこちらが先(「13金」は1980年スタート)

たぶんジェイソンの外見は、この映画の殺人鬼ファントムキラーのズダ袋スタイルを取り入れているのでしょう。

現実の事件でも、目撃証言によればこんな格好をしていたというファントムキラー、とんだところでホラー映画史に爪痕を残しているんですね。本人は知っているかどうかわからんけど。

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今回入手したアメリカ産のソフト。BDとDVDの2枚組なんですが、それって無駄じゃないのか(笑)

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