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豪華客船の旅

「人生ゲーム」というボードゲームは、たぶんご存じでしょう。私が子どものころに日本語版が初めて出たんですから、もうずいぶんロングセラー。今やっても充分に面白いんですが、そのゲームの終盤、ゴール寸前に大きな罠があるのは知ってますか?

ゴール前の最後の2コマ、そこで止まると、ともに何百万ドルだかをとられるイベントが待ち構えているのです。そこまで営々と積み重ねてきたゲームの成果が一瞬で吹っ飛ぶ悪魔のコマです。いままでに何度、そこで泣かされたことか(笑)

で、その理由が、ひとつは「宇宙旅行」もうひとつは「豪華客船の旅

まあ宇宙飛行は今でも非現実的ですが、豪華客船の旅のほうは、まかり間違えば実現するかもしれません。

でも、私はご遠慮します。さあどうぞとご招待されても、たぶん行きません。

もちろん、やったことないですよ、豪華客船の旅。私が船で旅行したのは、子どものころの家族旅行で神戸から九州まで乗ったフェリーか、成人してから伊豆諸島の島へ行った船旅くらいか、どちらも一泊だけで、ぜんぜん「豪華」ではないし。

経験もないのに、なんでそんなに「豪華客船」に否定的なのかというと、もちろん映画のせいです(根本的に海が苦手ってこともありますが、じつはそれも映画のせいだったりして)

私が映画を見はじめた70年代前半のパニック映画ブーム、その一つのきっかけになった大ヒット映画が「ポセイドン・アドベンチャー」(1972年)

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海底地震の大津波を食らった豪華客船ポセイドン号が転覆。上下さかさまになった船内に閉じ込められた人々のサバイバルを描く大作ですね。救助の手を求めて、てっぺんになった船底を目指して登ってゆく、そのゆく手には、水没した通路、火災などなど、様々なトラップが待ち受けるわけで、ああなるほど、さかさまになっただけで、たとえば吹き抜けの階段とかは突破困難な難所になるのかと妙に納得しました。豪華絢爛、高級ホテルなみの客船も、一瞬にして地獄になるんだ、桑原桑原と、若き私の脳裏にその恐怖を刻むのに十分な迫力だったわけです。

その後、1979年に続編が作られ、2006年にはリメイクされて「ポセイドン」となりましたが、最初のものほどのインパクトはなかったですね。いやもうすでに私にトラウマが出来ていたからでしょうが。

ついで「ジャガーノート」(1974年)がとどめを刺します。

時限爆弾物の最高傑作のひとつですが、舞台は豪華客船のブリタニカ号。謎の犯人によって船内に仕掛けられた爆弾の爆破時刻が刻々と迫るのに、船は荒天の大洋のど真ん中で逃げるに逃げられず、すべては決死のパラシュート降下で駆けつけた軍の爆弾処理班にゆだねられるという展開。

そう、豪華客船物のキモはこれなんだ。

どんなに危機に瀕しても、危険が迫っても、船外には逃げられない。豪華客船ってのは、容易に巨大な密室となって、乗客乗員を閉じ込めてしまうんですね。ましてや泳ぎの苦手な私のような人種には、これそ最大の恐怖ってことになりますか。

ほかにも、歴代最大ヒット作の「タイタニック」や、豪華客船がハイジャックされる「スピード2」などなどの映画によって、豪華客船に乗るとロクなことにはならないというのが、私の常識になってしまったわけなんですね。だから私は豪華客船には乗りません。

いや、そもそもそんなおカネないですけど(笑)

ちなみに、この「逃げるに逃げられない巨大な密室」っていうのは、もうひとつ、ミステリには最適な舞台のひとつになるわけです。そう、事件の関係者が限定される「クローズド・サーキット」を作るツールとして、非常に便利。

このジャンルの嚆矢は、怪盗紳士アルセーヌ・ルパン初登場の短編「アルセーヌ・ルパンの逮捕」でしょう。アガサ・クリスティーの『ナイルに死す』やピーター・ラヴゼイの『偽のデュー警部』など、豪華客船ミステリの名作には事欠きません。ちなみに今年はこのジャンルの当たり年らしくて、『乗客ナンバー23の消失』(セバスチャン・フィツェック)、『遭難信号』(キャサリン・ライアン・ハワード)といった作品が、年末のミステリ・ベストテンの有力候補ですね。

というように、豪華客船はエンタテインメントの宝庫なわけなのです。私は乗らないけど(笑)

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