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悪党パーカーを追え!

海外ミステリ業界には、偉大なる3人の「パーカー」がいる。

一人は私立探偵スペンサー・シリーズで80年代を中心に大変な人気を博したロバート・B・パーカー

もう一人は、世界で最も権威のあるミステリー賞であるエドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)の最優秀長編賞を『サイレント・ジョー』と『カリフォルニア・ガール』で2度受賞したT・ジェファーソン・パーカー

この2人は作家だが、残る一人はキャラクターであり、さらに言うならこの2人よりも先輩である。

それは、リチャード・スタークの作品に登場するプロの強盗、「悪党パーカー」 フルネームは不明だし、本名かどうかもわからない。

それまでも、探偵や警察官ではなく犯罪者が主役のものはあることはあったが、たとえばルパンやファントマや怪人20面相のように「怪盗」と呼ばれるファンタジイ的な泥棒がほとんどだった。

ところが、1962年の『悪党パーカー/人狩り』でデビューした「悪党パーカー」は、ハードにしてリアル。それまでのミステリ小説では脇役に過ぎなかった犯罪者の姿を現実的な世界で描き出して見せた。「強盗計画にだって資金が必要だ」という概念を導入し、計画立案から下調べ、資金や資材の調達、仲間のリクルート、実行までをこと細かく再現してみせたのだ。このリアリズムが後世に残した影響は大きい。

その後、1974年の『悪党パーカー/殺戮の月』まで長編小説16作で活躍し、その後1997年に『悪党パーカー/エンジェル』で復活してから2008年に著者が亡くなるまで8作に登場している。

著者のスタークは、じつは前に紹介した不幸な中年泥棒ドートマンダーの著者ドナルド・E・ウェストレイクと同一人物。同じく犯罪者を主役にしたミステリながら、ユーモアを前面に出したドートマンダーものと違い、徹底的にハードなこの「悪党パーカー」シリーズだが、ドートマンダーと同じく多くの映画化作品がある。

1967年に製作されたハードボイルド・クライム・ムービーの名作中の名作「殺しの分け前/ポイント・ブランク」を皮切りに、これまで8本の映画が製作されている。けっこう高打率だ。しかもその8本すべてが、何らかの形で日本で見られるというのもめずらしい。原作の人気ゆえだろうか。

主人公のパーカーを演じたのは、「殺しの分け前/ポイント・ブランク」のリー・マーヴィンを初代として、以下の面々。

二代目は「闇をつきぬけろ/真夜中の大略奪」(1967年)のダニエル・イヴェルネル、次いで「汚れた七人」(1967年)のジム・ブラウン、「組織」(1973年)のロバート・デュヴァル、「スレイグラウンド」(1982年)のピーター・コヨーテ、「ペイバック」(1997年)のメル・ギブソン、そして最新版は「PARKER/パーカー」(2012年)のジェイソン・ステイサム

メジャー系の大作から、国内ビデオ発売のみの小品までさまざまでパーカー役者の顔ぶれも大物から小物まで勢揃いだ。アメリカだけでなくフランスでも映画化されているし。

面白いのは最後のジェイソン・ステイサム以外、すべて映画内では「パーカー」の名を名乗っていないこと。ウォーカー、エドガー、マクレーン、アール・マクリン、ストーン、ポーターと、コチョコチョと変えられている。なぜだ?

昔、原作者のスタークが「パーカー」の名を大事にしているからウンヌンという解説を読んだことがあるが、いっぽうで同著者の泥棒ドートマンダーはけっこうそのままの名前で映画化されているのだから、やはり不可解だ。なにか「パーカー」という名前に不都合なことでもあったのかな?

律儀に勘定した方がいるかどうかわからんが(笑)8本の映画があるのに、上記の歴代「パーカー」役者は7人しかいない。というのは1967年にジャン=リュック・ゴダール監督が遊び心満載で作った「メイド・イン・USA」には、シリーズ第6作である『悪党パーカー/死者の遺産』を原作としながらもパーカーは登場しないから。ゴダールはストーリーだけを頂戴して、キャラクターは独自のものに仕上げている。まあそれもアリなのか、この監督ならば。

リアルな犯罪小説や映画は、現在ではすっかり普通のものになっているが、その原点の少なくとも一つは、この「悪党パーカー」だと思う。そうした歴史的重要性はともかくとして、このシリーズ、映画も小説も十二分に面白いので、ふたたびどこかで脚光を当ててやりたいものではある。

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