そして誰もいなくなっちゃった

先週ご紹介した、NHKで放送したドラマ「そして誰もいなくなった」はご覧になりましたか? 私は(録画はしたけれど)まだ見ていません。

で、前回の記事では書き損なったんだが、今回の「そして誰もいなくなった」は、ミニシリーズなので、1話60分×3回。

じつはこれ、過去の映像版「そして誰もいなくなった」のうちで、時間的に最長のものになるのだ。

過去の作品を調べてみると、古い順に、ルネ・クレール版「そして誰もいなくなった」(1945年)は97分、1959年の日本未放送テレビ映画版は60分、「姿なき殺人者」(1965年)は91分、1974年版「そして誰もいなくなった」は98分、1989年の「サファリ殺人事件」も同じく98分

いずれも100分未満。まあ映画ってのはそれくらいが最適の長さだろうと思うが(個人の見解です)

ちなみに、前回紹介したインド版やソ連版は、いずれもこれらより長い。

ヒンドゥー語版の「Gumnaam」(1965年)は151分、タミール語版「Nadu Iravil」(1970年)は148分、1987年のソ連版も137分と、いずれもかなりの長尺。

両国の映画のお国柄を考えれば、それも当然か。

しかし、今回のミニシリーズは、3回合計で約180分

そんな長さが必要なのかともちらっと思うが、何はともあれ、史上最長の「そして誰もいなくなった」の座は、今回の2015年版に決定。

長さに見合ったていねいな作りを、期待できるな。

さて、長いのがあれば短いのもあるのが世の常。

では史上最短の「そして誰もいなくなった」は?

ここで白状しておくと、前回ご紹介したほかにも、じつは「そして誰もいなくなった」は多数存在するらしいのだ。

その後ざっと調べただけも、1949年にイギリスのTV版で「Ten Little Niggers」、1969年に西ドイツで「Zehn Kleine Negerlein」、そして1981年にはなんとフィリピンで「Ten Little Indians」が製作されているようだ。そんなの知らんがな(笑)

そういえば2014年の「サボタージュ」(アーノルド・シュワルツェネッガー主演)も、ぼんやりと『そして誰もいなくなった』を原案にしているとかいないとか(クレジットはされていない)

そんな具合で、公認、非公認、取り混ぜてたくさん存在する映像版『そして誰もいなくなった』のうちに、私が個人的に最短だと思っているものがある。

それは「そして誰もいなくなったっちゃ」だ。

はい、タイトルからもおわかりのように、これは1981年から1986年まで放送されていたアニメ「うる星やつら」の第98話(1983年7月6日初放送)

すでに原作のエピソードを使い果たしていたので、TVアニメシリーズのオリジナルストーリーだ。

どんな話かというと、孤島にやってきたうる星レギュラーが次々に殺されるという、まんま『そして誰もいなくなった』 細かい点は覚えていないが、けっこう巧みに換骨奪胎されていた。孤島に招かれる人数も同じだったかな。

はい、これ30分番組なので、たぶん史上最短の「そして誰もいなくなった」に間違いなかろう。

ずいぶん器用なことができたもんだが、それもこれも、すでに視聴者におなじみのレギュラー陣があったればこそ。つまり、登場人物の紹介や説明が一切不要だから可能なことだ。普通の映像化では、ここに時間をかけざるを得ないからね(逆に、そのためにオチが制限されてしまっているんだが)

なので、今後これよりも短い「そして誰もいなくなった」を作るのは困難だろう。

しかし、原作コミックがあるにもかかわらず、そのキャラクターを「殺す」という作劇は、当時ファンの間で少々物議をかもした。

ラムちゃん大好きだった私も、彼女の「死」のシーンには、ちょっとショックを受けたっけ。

この史上最短版をふくめ、これまでの映像化では、ラストの「解決」を原作の『そして誰もいなくなった』から変更しているものが多い。

ネタバレになるので詳しくは言えないが、原作どおりだと、いくら何でもあんまりだと観客や視聴者が思うからと、製作者たちが思うからだろう。そう思うのも無理はないラストだからね、原作では。

あるいはこの小説『そして誰もいなくなった』が、「ミステリの女王」にあえて挑戦してみたいという気持を抱かせるのかもしれない。それくらい、魅力のある設定であり、挑戦的なトリックなので、かえってチャレンジへと誘惑されるのだろう。

ちなみに、この誘惑からは原作者であるアガサ・クリスティー自身も逃れられなかった。自ら執筆した戯曲版(1944年)で、小説からラストを変更するという、このチャレンジを試みている。無理もないか(笑)

さて、今回のミニシリーズ版、最後はどうなるのだろうか? 2週間後の放送をお楽しみに。

  そして誰もいなくならなかった

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