外出自粛映画野郎「007/ロシアより愛をこめて」
緊急事態が解除されたと思いきや、またまた感染者が増えたり、クラスタが発生したり、アラートが発動されたりと、いっこうに落ち着かないので、外出自粛続行で映画を観続けていきます。
と、これくらい連続して映画を観ていると、どうしたって「007」の1本くらいは観ることになりますよね。なにしろ私は007マニアですから。
というわけで、シリーズ初期の傑作(といっても、初期のショーン・コネリー007は傑作ばかりですからね。個人的見解ですか)を観てみましょう。いまでもしょっちゅうテレビなどで放送してますから、観たことあるでしょ。観たことない、そんな映画知らないって人は、退場(笑)
「007/ロシアより愛をこめて」いいタイトルですね、原題の直訳ですが。ちなみに原作小説(イアン・フレミング著)の邦題は『ロシアから愛をこめて』です。
原作は冷戦最盛時代のものなので、英国情報部対ソ連情報部(スメルシュ)の一騎打ち的展開ですが、あんまり特定の国家を悪役に貶めるのは世界産業の映画にとってはよろしくないと思ったか、国際犯罪組織(スペクター)を絡めた三つ巴のストーリーに変更されています。それでも当時のソ連では未公開だったとか。
その後も映画シリーズでは特定の実在国家を悪役に据えることは避けられてきました。その唯一の例外が(ひとひねりはしてあったけど)北朝鮮を悪役に据えた「ダイ・アナザー・デイ」(2002年) 世紀が替わるまでは無理だったということなのかな。
今ではにわかに信じがたいですが、この映画が1964年に日本で初公開されたときの邦題は「007/危機一発」 ダサいですねえ(笑) 「危機一髪」でなくて「一発」なのは、べつに間違ったからではなかったそうです(ホントかどうかは知りません) 1972年にリバイバル公開されたときから「ロシアより愛をこめて」になったんですね。以上、誰でも知ってるマメ知識でした。
ふと思ったんですが、「リバイバル公開」ってのも、いまではもう死語ですかね。
いま見てみると、メインタイトルに登場する出演者名の順番が、現在のイメージとはだいぶん違うことに気づきます。
ショーン・コネリーが一枚看板で、ロッテ・レーニヤとペドロ・アルメンダリスが続き、ロバート・ショウはその次の Also Starring のトップ、ボンド・ガールのダニエラ・ビアンキは最後で、 introducing 。
その後にロバート・ショウがぐんぐん出世したので、いまではこの映画の悪役は彼ということになっていますが、このビリングを見ればわかるように、本来の悪役はロッテ・レーニヤ扮するスペクターの女幹部ローザ・クレッブのほう。長く続いているシリーズですが、女性が筆頭悪役を演じているのは依然としてこの作品だけ。007って、けっこう保守的なんですよね(ま、イギリスだからねえ)
スペクターの用心棒的存在でけっこう幹部らしい訓練所長を演じたドイツ俳優のウォルター・ゴテルは、どっかで見た顔だと思ったら、のちに「私を愛したスパイ」から「リビング・デイライツ」まで、つまりロジャー・ムーアからティモシー・ダルトンまでの時期の6本のシリーズで、ソ連情報部のゴーゴル将軍を演じてレギュラーだった人でした。スペクターからスメルシュ、KGBへと華麗なる転職に成功、出世したってとこでしょうか。
とにかくこの「ロシアより愛をこめて」は、007シリーズのフォーマットをほぼ完成させ、のちの作品への流れを作ったのみならず、さまざまなところに影響を与えています。
ジプシーキャンプ(いまはロマと呼びますが)とレクター奪取のシーンで流れるジョン・バリー作曲の名曲「007」は、のちに「新世紀エヴァンゲリオン」「シン・ゴジラ」のヤマ場で使われた、あの鷺巣詩郎・作曲のあの曲の原型なのは明らかですし、イスタンブールの地下水道で押し寄せてくるネズミの群れは、「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」での見せ場の原型でしょう(こっちにもショーン・コネリーが出てるし)し、ラストの洋上アクションのまとめは「ジョーズ」のラストに影響を与えている、かな?
前に「ブレージングサドル」の主題歌はいまでも歌えるとか自慢(?)しましたが、じつはこの「ロシアより愛をこめて」の主題歌(映画ではマット・モンロー歌唱)も、いまでも歌詞を覚えている私の十八番だったりします。まあ007の最初の10作の主題歌は全部歌えますが(上手だとは言ってませんよ) ただ昔のカラオケ(8トラックとかLDとか)に、この手の曲はほとんど入っていなかったので人前で披露することはできませんでした(なんと幸運) ところが、この「ロシアより愛をこめて」だけは初期のカラオケにもあったので、酒の勢いで何度も歌ったもんです。ちなみに歌詞は、このサントラ盤LPで耳から覚えました。ああ、懐かしい。
ただ、その後の007シリーズの大型化を良しとする私にとって、この「ロシアより愛をこめて」は厄介ものだったりします。
すごく面白いサスペンス・アクション映画なんですが、一方で007シリーズの魅力をすべて備えているかといわれると、いやいやちょっと待てよになってしまいます。
大規模なセットも特撮もほとんどなく、暗号解読機を奪うか奪われるかという意外とせこい話に終始するからです。秘密基地ドッカンの派手さもないし、怪物めいた悪役も出てこない。シリーズを何作も観たあとで観ると、地味な小品にしか見えないんですよね。
もちろんそのへんの凡百のアクション映画など足元にもおよびませんが、そんなわけで私の評価は「ゴールドフィンガー」や「サンダーボール作戦」「007は二度死ぬ」「死ぬのは奴らだ」あたりよりも下だったりするのです(異論あるでしょうけど)
そうですね、映画初心者に入門策として見せるんならこれでもOKだけど、けっこうほかの映画を観ていて、そのうえで007マニアになろうかというような人にはおススメしないほうがいいのかもしれません(ま、そんな人はいないか)
原作『007/ロシアから愛をこめて』イアン・フレミング著/井上一夫訳/創元推理文庫
007についてはいろいろ書いてきましたので、こちらでもご覧ください。ネタかぶり焼き直し御免です(笑) → 【007記念週間 目次】
映画つれづれ 目次
雑日誌 目次
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?