ジャッキー・チェンと勝負する(59)

引き続き、「21世紀のジャッキー・チェン」

今回は2010年の「ラスト・ソルジャー」 ジャッキーが長年温めてきたネタだそうで、自ら製作総指揮と主演を張り、中国ではジャッキー映画史上最大のヒットとなった作品。

20世紀のジャッキー映画ではほとんど見られなかった時代劇(カラテ映画を除く)だが、21世紀になると、お金と中国ロケが出来るようになったせいか、古代史を題材にしたジャッキー映画が誕生してくる。そのほとんどは、ファンタジー系の味付けがされているが。

本作もその一つで、秦の始皇帝による中国統一が成される過程で滅ぼされた二つの国をめぐる、なかなか面白い物語。

戦国時代の中国で、弱小国「梁」とその敵国「衛」が激突。両軍とも全滅するという過酷な闘いのなか、かろうじて生き残ったジャッキー演じる梁の一兵卒が、負傷した衛の将軍をたまたま捕虜にする。報奨目当てに将軍を梁へ連れ帰ろうとするジャッキーだが、将軍は捕虜となるよりは死を望む。そして二人の背後には、将軍暗殺をもくろむ刺客団や、蛮族が迫っていた。

わかりやすいシチュエーションにスリリングな追跡劇をからめたジャッキーの原案は、さすがにツボを押えたモノ。さらに戦場でのスペクタクル、そしてお得意の格闘アクションも織り込まれて、娯楽大作として申し分ない。中国で大ヒットしたのも当然だろう。

ただし、これをジャッキー映画としてみると、やはり「21世紀のジャッキー映画」だなあということを痛感する。

アクションがジャッキー・チェンらしくないのだ。

これまでのジャッキー映画でアクションの「主役」を張るジャッキーは、常に強かった。なかには(とくにアーリー・ジャッキー・チェンの諸作では)最初は弱かったり、ぜんぜんダメ男だったりするものもあるが、修行をしたり、才能に覚醒したりして、最後には強くなって敵をぶったおす。これがジャッキー映画のセオリーだった。

ところが、21世になってからの、ハリウッド帰りのジャッキー・チェンの映画では、このセオリーが弱まっている。ジャッキーが特に強くもない、フツーの人を演じていたりするのだ。

「ラスト・ソルジャー」はその典型のひとつだろう。

ここでジャッキーが演じるザコ兵士は、武術や闘争に長けているわけではなく、ごく普通の農民。なので、戦闘シーンではひたすらビクビク、オロオロしている。

もちろん演じるのがジャッキー・チェンだから、その身のこなしやスピードは相変わらずで、だからこそアクションシーンは見事だ。でもその動きはジャッキー自身の意思ではなく、敵を倒すシーンにしても、偶然にささえられた、いわばラッキーパンチばかり。

典型的なのが、洞窟での対決。

ジャッキー&将軍と、追ってきた刺客団、そして蛮族の三つ巴の乱闘なのだが、ここで見事な武闘を演じるのはジャッキーではなく、将軍と刺客たち、そして蛮族の面々なのだ。ジャッキーはというと、投石オンリー。それで蛮族たちを倒すのだから痛快ではあるが、そこには「強いジャッキー」の姿はない。

たとえば「1911」とか「新宿インシデント」でも垣間見えた「強くないジャッキー」の姿が、「ラスト・ソルジャー」ではほぼ全編で見られるのだ。

これを、年齢からくる衰えと見るか、ジャッキーに円熟味が増し演技の幅が広がったと見るかは、人によって違うだろうし、たぶんどっちも正解でどっちも間違いなのだろう。

それが「21世紀のジャッキー・チェン」ということなのかもしれない。

あ、それとくだんの投石シーンでのジャッキーの「投球フォーム」を見ていたら、香港で野球が普及していないことがよくわかる。

ジャッキーほどの人が、えらくヘタクソなフォームで投げているのだ。もちろんヘタレ兵士の役ゆえ、わざと演技しているという可能性もあるが、それにしてはいやにナチュラルな下手さに見える。まるで「女投げ」なんだもの。

香港ではサッカーはさかんなようだが、野球はほとんど子どもたちにも遊ばれていないんじゃないのかな? そういえば、香港映画であまり野球やキャッチボールをするシーンを見た気がしないな。

ジャッキー・チェン、野球は苦手なのに違いない(笑)

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