500円映画劇場「デプス・ダウン」

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邦題の「デプス・ダウン」とパッケージを見て、500円DVDのワゴンで見つければ、誰だって「ああ、また窓のない倉庫かなんかで撮影しておいて、そこが深海だと言い張る深海サスペンスか」と思うだろうね。でも、そうじゃなかった!

まあ邦題とパッケージは明らかに狙ってるよね。でも原題は「Sea of Fear」……「恐怖の海」か、これはこれで陳腐だ。

ちなみにオールシネマやIMDBのカテゴリーでは「ホラー」になってるが、これも違うだろ。

男女4人の大学生が、乗員2名と船長の乗り組んだボートをチャーターしてクルージングに。ところが、次々に乗員、乗客が姿を消してゆく。どうやら殺人者のしわざのようなのだが、なにしろ現場は孤立した海上のボートのなか。彼らは互いを疑い疑心暗鬼になるが……

おお、これって、まるでアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』じゃないか! おまけに舞台は「孤島」よりもさらに絞りこまれて、一隻の船のなかだけ。なんと大胆な。成功すれば、映画史上に名を残すミステリ映画の傑作になったに違いない。成功すれば、ね。

正直言って、アイデアに負けてます。まあ、だから500円映画になったんだろうが。

おもな失敗の原因は、この映画の製作の根本にある。

ほとんどが船内を舞台にするので、撮影には船が一隻あればいい。ただ、ホントにこれ一隻だけで撮影したらしく、やけに画面が狭苦しい。おまけに、船を外から撮った「引き」の画がほとんどない。おかげで、ストーリー上の重要な要素であるはずの、舞台となる船の大きさやその構造が、非常にわかりづらいのだ。その画がないのは致命的だろ。そんなの、船が港にいるうちにワンカットでも撮っておけば済むことなのに。

登場人物は、ほぼ7人だけ。そのうち、2人の女性とヒゲの船長(ベテラン俳優のエドワード・アルバート)はともかく、残る4人の若者の区別がつきにくいのも難点。1人は金髪だからなんとなくわかるが、それでも、4人ともまるで同じようなアスリートタイプの白人青年。おまけに全員、さほどおなじみでない無名俳優なのだから、パッと映っても、いちいち「こいつ誰だっけ?」と思ってしまう。なんでわざわざそうした? たとえば黒人とか人種違うの入れるとか、オタクっぽいやつ混ぜるとか、乗組員にガテン系女子配するとか、やりようはいくらでも考えつくのに。

まあ要するに予算とスキルの問題だろう。映画は思いつきだけでは作れないものだから。

スキルについて言えば、製作・脚本・監督をやったアンドリュー・シュートに一番の問題があったようだ。

前記した欠点もあるが、そんなのは500円映画だと思えば、毎度のことだが、たとえば前に書いたダメなほうの「シャレード」と同じような欠点を持つことが、ダメさのダメ押しになっている

事件の真相(いちおうドンデン返しっぽいモノがちゃんとあるが)は、嵐のなかの対決などで説明されるのだが、これがほんとに「説明」になっちゃってるんだよな。登場人物同士が怒鳴りあう「セリフ」だけで「真相」が明らかにされるのだ。

これ、ダメなミステリ映画の典型。

下手なやり方ではあるが、せめて回想シーンでもはさめよな。まあそれもヘタクソなやりかただから駄目だけどさ。

これは、そもそも脚本がダメだからだ。「海上に孤立した船で『そして誰もいなくなった』やったら面白そうだよね」というアイデアは悪くないが、それをきちんと脚本に昇華できてないのだ。総責任者であるアンドリュー・シュートくん、ちゃんと脚本家くらい雇えよな。

繰り返しになるが、この映画の与える教訓。

映画は思いつきだけでは作れない。

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