外出自粛映画野郎「サイコ」
はい、ご想像どおり、先日NHKのBSで放送されたので、ひさしぶりに観ました。そういえばこれのソフト、持ってなかったかも。
ある世代より上の人には、映画監督としては圧倒的な知名度を持っていたアルフレッド・ヒッチコック監督。なぜかというと、たぶんテレビで「ヒッチコック劇場」が放送されていたからでしょうね。名前だけでなく風貌も知れていたのは、番組の前後にご本人が登場していたから。
そんなヒッチコック監督の代表作のひとつが、この「サイコ」ですね。1960年の作品。
このずっとのちに「羊たちの沈黙」をきっかけにサイコスリラーのブームが来たりしましたが、その原点であり、サイコスリラー(とかサイコサスペンス)という名称そのもののルーツが、この映画にあるのは間違いないでしょう。
もっともネーミングそのものは、原作者ロバート・ブロックのお手柄ですが。
原作の発表は、映画公開の前年の1959年ですから、ヒッチコックはかなり早い段階で映画化権を押さえていたんでしょうね。
ちなみに日本では1960年の9月に公開されていますが、原作はその半年ほど前の同年4月に刊行されています。早川書房のポケミスから出ていますが、その時のタイトルは『気ちがい〔サイコ〕』という不穏当なもの。もちろんもともとの語義どおりなんですが、現在では許されませんね。
(その後1982年に文庫化された際に『サイコ』だけに改題)
原題の「Psycho」もそういう意味ですが、考えてみたらこのタイトル、微妙にネタバレですよね。
というのも、この映画を製作公開するにあたって、ヒッチコック監督がもっとも嫌ったのがネタバレ。なので予告編も本編の映像を使わず、初公開時には観客にネタバレしないでねというお願い映像まで流したそうです。映画館でも映画がはじまってからの入場を禁止したくらい。
日本公開時にも、当時の日本の興行では一般的だった流し込み(入退場自由)を禁じたとか。ま、そりゃそうでしょうね。
なのに、肝心のネタを割ったようなタイトルで、よかったんですかねぇ。
まあ、そのおかげで「サイコ」という単語は超メジャーになり、その後さまざまな使われ方をしているんだから、よかったんでしょう。
それに、もしこのタイトルを避けるとして、どんなタイトルがつけられるでしょうか。
モーテルがどうこういうタイトルでは、あのシーンのショックが減少するし、かといって前半に焦点をおいたタイトルでは映画全体のイメージを狂わせますからね。
たしかにタイトルづけがむずかしいので、当時はまだほとんどの人が意味が分からなかったであろう「サイコ」は適当だったのかもしれません(だとしたら原作の日本語タイトルは勇み足ですね)
ということで、この「サイコ」という映画を観るには、ヒッチコック監督の意図通りに、まったく事前の予備知識なしの白紙状態で観るのがいちばんなんでしょうが、すでに公開から半世紀以上も過ぎた現在では、もはやそんなことは不可能ですね。
正直いって、初公開から20年ほどたった時点で初めてこの「サイコ」を見た若き日の私も、残念ながらまったくの白紙ではありませんでした。だから、あのシーンでのショックはさほどでもなかったと記憶しています。
ただし後半どうなるかは知らなかったみたいで、とくにラストショットにはビックリしたものです。
もし当時、まったくの白紙で「サイコ」を観ていたら、どんなショックを受けたんでしょうかね。
ちなみに、さほどの予備知識もなしで今回「サイコ」を初めて観た息子ですが、それほどのショックは受けなかった模様。いまでは無数の模倣犯がいるからでしょうね。時の流れですかねえ。
また中途半端に予備知識のあったうちの奥さん(ちゃんと観たのは初めてとかいってました)は「あっさりしてたね」というご感想。そりゃ80年代あたりからのスラッシャー映画にくらべれば、そりゃあ薄口に見えるわなぁ。
『映画術』などヒッチコック監督の回顧を読めば、この映画を作るのに、いかに細部まで神経を配り、仕掛けを考案し、凝りに凝って作り上げたかは伝わってきます。それでも時の流れには勝てないものなんですね(あれ考えてみたら、そうした書物でヒッチコック監督ご自身がネタバレたっぷりかましてるじゃないですか・笑)
映画冒頭でいきなり登場するジャネット・リーの恋人(不倫男)を演じたジョン・ギャビンは、のちにいったんは3代目ジェイムズ・ボンドを演じることが決まっていた人。そういえば若き日のショーン・コネリー氏にちょっと似てるかな。この件に関しては詳しくはこちらで。→ 【幻のボンドたち】
原作小説『サイコ』 ロバート・ブロック/福島正実訳/ハヤカワ文庫
原作小説『サイコ』 ロバート・ブロック/夏来健次訳/創元推理文庫(上記の改訳版)
なお、映画と小説にはそれぞれ何本もの別個の続編があります。また1998年には「サイコ」そのものもリメイクされています。
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