500円映画劇場「トランスフォーサー」

安売りワゴンには、たまにちゃんとした映画(っていうのもなんだが)が紛れこんでいることがある。著作権切れの古い映画が多いが、どういう事情があったのか、比較的最近のメジャーな作品が見つかったりもする。

このDVDも「おや、こんな最近の大作映画が」と思って手にしてみたが……「トランスフォーサー」ですか、そうですか。あのハリウッド・メジャーの大作と、たったの1字違い。前回の「ジュラシック・レイク」の2字違いをしのぐ悪辣ぶりだな。

しかもジャケットの絵も、あの大作をしっかり連想させる巨大ロボ、そして炎上する都市の姿が……ないない、そんなシーン、映画のどこにもないから。

そもそも原題は「HUMANITY'S END」つまり「人類の終焉」みたいなタイトルで、べつにパクリ作品じゃない。2009年にアメリカで製作されたオリジナルビデオ作品。つまり、悪辣商法なのは日本の発売元だけで、製作元には罪はないです。

その罪だけはね。

中身はというと、けっこう堂々のSF映画。意外にCGとかもちゃんとしている。

21世紀に異星人の侵略があり、人類は滅亡寸前。遺伝子組み換えで作られた新人類や、異星人に追い詰められて、純粋人類は宇宙各地に少数だけ残っている状況。そして2800年くらい(覚えてないや)に、最後の殲滅作戦が行なわれ、ついに辺境の惑星にいた一人を除いて……

って、じつはこれ、作品全体の「あらすじ」ではない。ここまでは、作品世界の前提になった歴史的事実で、物語はこの生き残りの一人を主人公に展開するドラマなのだ。

だが、この壮大な作品世界を説明するのが、メインタイトル前のほんの1分程度のナレーションだけなのだ。人類滅亡の歴史がたったそれだけ。映像も特になく、ホントにナレーションだけなんだから。人類滅亡、簡単すぎないか?

で、いきなり映画は「ニューシャンハイ」なる大都市が破壊されるシーンに。ええと、その「ニューシャンハイ」ってどこなんだ? 地球なのか、他の惑星なのか? 攻めて来てるのは、ナニモノなんだ? だいたいこれは現在のことなのか、それとも過去の回想? いったい何が起きてるんだか、まったく状況が呑み込めないぞ。

この映画最大の失敗は、こうした「説明不足」の一言に尽きる。もうちょっとちゃんと説明しろよな。

ストーリー上で使われる仕掛けには、クローン、ロボット、人工知能、遺伝子プール、異次元航法といったおなじみの設定が多いのだが、最低限の説明もなし。「あんたらSF好きだからわかるよね、じゃあ次いこうぜ、次」とばかりに、見ているこちらは置き去りで、どんどんストーリーは進むのだ。ついて行けないよ。

シーンのつなぎも荒っぽく、全体はかなり粗雑な印象。前記したようにCGの出来栄えとかは悪くないだけに、もったいない。主人公の「宇宙の運送屋」も、「トラック野郎」とか「コンボイ」とか「サガワ男子」とかの宇宙版にするとか、もうちょっと活かしようがあったんじゃないかと思うよ。

いっしょに見ていた息子の「もうちょっと丁寧に作れば面白くなったのにね」という評が、思い切り的を射ている。だいたいこれだけのドラマ、人類の終焉を描くのに、いろいろ事情はあったんだろうが、たったの80分はないだろ。

たぶんその辺の事情で、アメリカでも劇場にかけられることはなく、オリジナルビデオに甘んじたんじゃないかと推測する。DVD商法の悪辣さは日本側の罪だが、そもそもの罪は、やはり製作元にあったんだな。

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