500円映画劇場「バニッシュ7」

例によってホームセンターのワゴンで見つけた「バニッシュ7」 英語のタイトル「VANISH7」もにぎにぎしくついています。

おお、「セブン」か!

大昔の「ワイルド7」(これは劇画)や「ウルトラセブン」(これはテレビ)から始まって「マグニフィセント・セブン」とかズバリ「セブン」とか「オフサイド7」なんてのもあったけど、おおむね「セブン」のつく映画は男の子向けと決まってますもんね。

その元祖が黒澤大先生の「七人の侍」なのか多羅尾伴内の「七つの顔の男」なのかは知りませんが。

ということで、期待に胸を膨らませて……

そんなワケないでしょ。500円映画だもの。

ジャケットから見て、閉鎖的な環境で展開されるホラー映画なんだろうということはハッキリわかります。そのうえタイトルに「バニッシュ」つまり「消え去る」わけですから、全滅系のオハナシなことも間違いなし。ま、大したことないだろうな……

……ええと、全部当たってました。やっぱり。

でも、映画がはじまる前の、カンパニークレジットでは、ちょっとだけ意表をつかれました。

これ、アルゼンチンの映画なんだ。

南米のアルゼンチン。サッカーが強いのは知ってるけど、映画もあるんだ!

いやいや南米では映画大国なんですよ、アルゼンチンは。ただ娯楽映画の分野では、パッと浮かぶ作品がありません。私のエンタメ映画のアメリカ大陸における南限は、いままでメキシコあたりだったんですが、記録更新ですね。

ちなみに原題は、もちろんジャケットに掲示されている「VANISH7」ではなくて、スペイン語の「Incidente」 英語では「Incident」です。

で、ファーストシーンで、さらに意表をつかれました。

いきなり画面が4分割されて、粗いモノクロ画面に。

マルチスクリーン? いやこれは防犯カメラの映像ですね。どうやら何台かあるカメラの画像が、数秒ごとに切り替わり、その都度工場らしき場所での様子が次々と映し出されます。

おお、これはちょっと斬新。なにしろ防犯カメラだから、無音なんです。

その画面に現われた一人の男が、次々と工場の従業員たちを刺し殺していきます。

ここはちょっと不気味でいいですね。まったく無音のまま展開される、おまけにモノクロだから血の赤さも見えない、殺人劇。

まあ描写の都合で、切り替えのタイミングが長くなったり短くなったりするのは、ご愛嬌でしょう。こうしたアイデアは、さほど斬新ではなくても、試みることが大切。

その後、何やら説明の字幕が入ったりして、切り替わると、今度はその工場に踏み込んだ警察特殊部隊の持つカメラの映像。惨劇の現場を生々しく見せようということでしょうか。

ここでイヤな予感がします。

POVなのか?

カメラの視点でずっと映していく手法をPOV(Point of View)ということは、いままでこの欄でも何度か書いてきました。むかしは「一人称映画」なんていいましたが、近年のヤスモノ映画では、ちょくちょく(安易に)使われる手法です。

そして私は、この手法、大嫌いです。

前にも書いたので繰り返しになりますが、設定上、ピンぼけ、手ぶれ、狭い画角の映像がずっと続いて、基本的にカメラを持った人物のモノローグと雑音だけで構成されるのがPOVの常識。ドキュメンタリー仕立てなので、音楽とか入りません(雑な効果音は入りますが)

おいおい、POVはカンベンしてくれよ

そう思ったら、画面は元警察官を名乗る男のアップとモノローグにチェンジ。

惨劇のあった工場は閉鎖され、当局は詳細を発表しなかった。その後の事件でも、一切発表はなかったが、私は公表すべきだと思う。

そういう男の独白。カメラに向かって訥々と語ります。

高まるイヤな予感。

そしてモノローグの最後に、あの一言。「現場には、このビデオテープだけが残されていた」

あああああ……

というわけで、トータル75分のこの映画、ほぼ全編がPOVで構成されていました。

この時点で、私の集中力は大幅ダウンです。

そのうえ、ストーリー内容は、かつて大惨劇のあった工場跡に潜入したテレビ撮影班が、ふたたび惨劇に遭うというもの。あまりにも平凡だぞ。

カメラクルー1名、ナレーターの女性1名、何やら古代言語の専門家と助手が1名ずつ、そして古代儀式の研究家1名とその助手2名。計7名。これがバニッシュするセブンなんですね。

コンパクトにまとめたことは評価しよう。なにやら儀式をはじめてものの2分くらいで悪魔が降臨してきちまうんだから。タメも何もないけどさ。

あとは次々と悪魔(だと思う。明確な説明はないが)にとりつかれて他のメンバーを襲う襲う。

いや何のヒネリもドンデン返しもないんだよ、これが。

せめて鮮血飛び散る見せ場でもあればと思うが、工場内は薄暗く(照明ケチったのか?)色合いは地味地味。そのうえ画面がぶれぶれのボケボケだったりするので、盛り上がらないことおびただしい。

悪魔にとりつかれた人間は、なにやら異様な風貌になるんですが、ここは「死霊のはらわた」みたいでちょっとよかった。ちょっとだけ。

いや真似といえばマネっこなんですがね。

孤立した場所で、そのつもりはないのに何やらまがまがしいものを呼び寄せてしまって、大惨劇っていうのは「死霊のはらわた」以降、何度も使われた、いわば使い古しの作劇なんですが、ここでもほぼヒネリなく使われてしまっています。この映画に限ったことではないですが。

ということで、ラストにいたるまで、まったく予想を裏切らないこの映画、終わってから真剣に疑問に思ったことが。

なんでこれ、POVで撮ったんだろう?

いやいや、フツーにとったら、なんの変哲もなさすぎたかもしれませんが、でもそれなりのホラー映画にはなったんじゃないか?

だって世の中には、もっともっとダメダメなホラー映画があるんだよ。そういうのずいぶん見たからねえ。

なんか凝ったことをやりたくなって、でもあんまりお金はないし……というときに、安く使えて、なんか目先が変わった気がするのが、どうやらPOVの効用のようです。さしずめ「貧者の特殊効果」なんですかねえ。

もうあれだな、全世界の映画業者はぜひとも話し合って「POV禁止条約」とか結んでほしいよ(笑)

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