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スパイダームービー大襲来

「BUGS」(七月鏡一・原作/藤原芳秀・作画)というコミックがある。巨大化した昆虫と自衛隊の特殊部隊が戦うというパニックアクションで、その続編「BUGS LAND」ともども、なかなかに私好み。作者が自ら「昔のB級映画を志して書いた」という、その心意気もいいね。

こうしたデカい虫たちが襲ってくる怪獣映画は、じっさいに世界中で大量に製作されているんだが、そんな中でも、いちばん数が多いのが「クモ」怪獣だろう。バッタとかカマキリとかサソリとかヒルとかもあるが、やはり見た目の禍々しさ、世界中に生息している身近感、そして毒を持った種もいるなど、クモが最高の「怪獣のもと」のようだ。

そもそも最初の「クモ映画」って、なんだろう?(また悪い癖が出たよ)

キング・コング」に有名な「カニグモの谷」というシーンがある。島のジャングルでコングに追われた人々が谷底におっこちると、そこには巨大なクモをはじめとする怪物じみた虫がウジャウジャいて、みんな喰われてしまうという戦慄のシーン。これをもって、映画史上初の「クモ映画」としたいところだが、残念なことに1933年のオリジナル版では特撮がよく出来すぎていて試写で失神者が続出したとかで、本編ではカットされてしまい、現在では見ることがかなわない幻のシーンなのだ。残念。コマ撮りアニメの名手ウィリス・オブライエンの手になる巨大虫類の群れ、ぜひとも見てみたかったぞ(2005年のピーター・ジャクソン監督版では再現)

そうなると巨大グモの元祖は、やはり1955年の「世紀の怪物 タランチュラの襲撃」になるのか。

栄養剤を喰って巨大化した毒グモが出現する、巨大化怪獣映画のクラシック。実物のハメコミ合成は、この時期のアメリカ巨大化怪獣映画の主流的手法なのだが、今見てもなかなかの迫力だ。ブレイク前のクリント・イーストウッドが出ていることでも有名な作品。

1958年には、もうちょっとマイナーな作品で「吸血原子蜘蛛」というのがある。巨大化映画を得意とするバート・I・ゴードンが作ったもの。日本公開時に大蔵映画から短縮版を3本立てで封切られたとか、核と無関係なのに「原子」とつけられてしまってるとか、日本ではあまり恵まれていない映画だが、けっこうちゃんと出来てるものだよ。

わが国の特撮ではあまり人気のない巨大化怪獣ジャンルだが、怪物グモはちゃんといる。1966年の「ウルトラQ」第9話「クモ男爵」に出現したのは体長2メートルほど大グモ。劇中では名前などないけれど、当時の怪獣図鑑などには「タランチュラ」って名称がつけられていた。やはりあの映画の影響なのかね。作品そのものは、怪獣ものというよりは怪奇ホラー系の作り。

少し後の東宝ゴジラ・シリーズ「怪獣島の決戦 ゴジラの息子」(1967年)で出現した巨大クモ怪獣「クモンガ」(その後のシリーズや平成ゴジラ・シリーズにも出てきます)をあげれば、ジャパニーズ・スパイダームービーはほぼ終了。

その後も、たとえばローランド・エメリッヒ製作の「スパイダー・パニック」(2002年)にいたるまで、たくさんのクモ映画が撮られているんだが、ここでは一本だけ、最高に凄かったクモ映画をご紹介しよう。

その映画とは、「ジャイアント・スパイダー/大襲来」(1975)

これ、画期的手法で撮影されたクモ映画なのだ。

それまでのクモ映画(クモに限らんが)の手法は、アメリカではコマ撮りアニメか、実物のハメコミ合成のどちらか。だがコマ撮りアニメは、職人芸の世界。まあ誰もがオブライエンやレイ・ハリーハウゼンのようにできるわけではないし、なによりも金と時間がかかるので、その数は少なく、ほとんどの巨大クモ映画は、どこぞで調達してきた生(なま)クモを使ったハメコミ合成だった。いっぽう、わが日本の巨大クモたちは、円谷伝統の操演(糸で吊るやつ)だ。

ところがこの「ジャイアント・スパイダー/大襲来」はここに画期的な新手法を開発した! なんと実物大の模型を作って、それで大パニックシーンを撮影したのだ! この方法なら、合成の手間も、ミニチュア模型を作る手間も、一切かからないし、かえって安上がりなのだ! まいったか!

まさにコペルニクス的発想で、ディノ・デ・ラウレンティスが実物大コングで世界の特撮ファンを戦慄させた「キングコング」(1976)よりも先なんだから、その発想だけは、大したもんだ。

ただ、肝心カナメの巨大クモの造型をケチったのがよくない。画面に現われた巨大宇宙グモを評して、某評論家が「かに道楽の看板」と言ったのは言い得て妙なんだが、そのうえ自動車に乗せて動いているのが丸見えという脇の甘さ。そのせいで、せっかくの大パニックシーン(の予定)も、どこか田舎のカーニバルのパレードにしか見えず、緊迫感もスリルも台無しになったのが大誤算だったな。

もっともそんなレベルにもかかわらず、何にダマされたのか、ちゃんと配給会社が買い付けて日本でも堂々と劇場公開されたのだから、作ったやつの勝ちなのだ。どうだ、凄いだろう。

近年はCGが発達して、「スパイダー・パニック」のように、クモ嫌いな向きにはとても耐えられないようなクモの大群が押し寄せたりするようになったので、今後はこんなのはもう作られないだろうな。そういう意味では貴重品、でもないか。

本当に戦慄のクモ映画といえば、なんといっても007の第1作「007/ドクター・ノオ」だろう。ジャマイカのホテルに投宿したジェイムズ・ボンド氏のベッドに、でっかいクモが忍び込んでくるシーン。真っ黒で毛むくじゃらの、タランチュラみたいなやつが、ゆっくりとボンドの顔の横に現われるカットには、理屈抜きの生理的嫌悪、生の恐怖感があった。巨大グモや大軍をなしたクモよりも、実物大(たぶん)のこれのほうが、ずっと怖かったよね。

ちなみにこれ、原作小説ではクモではなく巨大ムカデなんだが、そっちはそっちで、やっぱりイヤだな。

ところで冒頭で触れたコミック「BUGS」、どこかで映画化しませんか? さほど予算もかからずに、けっこうピシッとしたサスペンスフルな映画が出来ること請け合いですがね。ただし、「かに道楽方式」は却下です(笑)

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