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500円映画劇場「エアポート/フライト323」

エアポート一族の一員「エアポート/フライト323」が登場である。

もちろん、本欄をお読みの方なら、そんなフレーズに騙されることはないだろうね。原題は「NTSB : THE CRASH OF FLIGHT 323」 ね、どこにも「エアポート」なんて書いてないでしょ。2004年のTVムービーであります。

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では、原題にもなっている「NTSB」とは何か?

フルネームでいうと、National Transportation Safety Board。日本では、国家運輸安全委員会と訳し、アメリカ合衆国の連邦による独立国家機関。おもに輸送に関連する事故を調査し、原因を究明、その対策を研究し、将来の事故を防止する目的で勧告等を行なう。

ざくっとしたイメージとしては、あのFBI(連邦捜査局)の交通輸送版とでも思えばいいだろう。警察以上の強い権限と捜査権を持っているという。

そう、この映画は、このNTSBを主役にした映画なのだ。なので、航空パニック映画を期待すると、ガッカリすることになる。

エアポート一族に多い航空パニック映画は、飛行機が落ちそうになる映画がほとんど。落ちるかどうか、その極限がドラマの中核をなすのだ。

ところがこの「エアポート/フライト323」は、飛行機が落ちてからの話なのだ。

連邦航空323便が墜落、乗客乗員200余名の半数近くが死亡。NTSBは担当調査官カミングスを中心に、事故の原因解明に乗り出す。テロか? 乗員の操縦ミスか? 機体の整備不良か? 悪天候か? 乗客遺族の追及、航空会社からの圧力、政治的配慮などが複雑に絡みあうなか、次々に可能性は否定され、ついに最後は意外な原因が明らかに……

事故が起きてから物語が始まるのは、過去にここでも見た「エアポート/トルネードチェイサー」が同趣旨だったが、あちらは事故の当事者である女性機長が自らの無実を証明するために調査に乗り出す話。それだけに少しだけドラマチックだったが、こちらは要するにお役人が調査に励むだけなので、いかにも地味で、ドラマになりにくい。

製作側もそう思ったのか、事故で娘を失った父親とか、乗客救出のために命を落とした乗員とか、生き残った副操縦士とか、それなりに劇的な要素を投入し、ついでに主人公の調査官カミングスの父子関係のドラマまでぶっこんでくる。

うーん、脚本がんばってはいるのだが、残念ながらそれらの「ドラマ要素」が効果を上げたとは言えない。こうした人々のドラマが、必然的に回想シーンを伴って挿入されるせいで、肝心のNTSBの調査がボケてしまった。時系列が混乱するので、着実に調査が進んでいる感が損なわれるし、調査シーンに時間を充分にさけなかったため、ほとんどの調査結果が、ただただ会議やミーティングで報告されるだけになっているのだ。

もちろん、実際の調査が、ほとんど書類仕事など地道なものなので、それをまともに描くばかりでは、ほんとうに地味な映画になることはわかるんだが……

けっきょくのところ、「ハデな見せ場のないエアポート」になってしまったことは否めない。

腹をくくって、NTSBの調査をドキュメンタリータッチで描いたら、もうちょっと独特の魅力が出たんではないか。もっともそんな映画、実現できなかった可能性も大きいだろうな。

ちなみに、この「エアポート/フライト323」はタッチストーン・テレビジョンの製作。そう、あのタッチストーンなのだ。だからTVムービーのわりには、けっこう予算は豊富だったようで、さすがに飛行シーンのCGはややショボかったが、そのぶん墜落現場のシーンには、実物大の墜落機を組み上げ、さらにはそれを収容した格納庫も実物大。事故の検証に使うフライトシミュレーターも(たぶん)本物そっくりに再現するなど、そのへんの気合の入り方はさすがだった。

いやいや、本来500円ワゴンに並ぶような格の作品じゃないんだろう。それがそうなってしまったのだから、けっきょくのところ、やはり失敗だったんではないかな?

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