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未発売映画劇場「アステカ・ミイラの逆襲」

底なし沼のように奥が深いメキシコ・ファンタスティック映画の金字塔(なのか?)La Momia AztecaAztec Mummy)のシリーズ第2作。もちろん前作同様、日本ではまったくの未公開。なので、またまたアマゾンさんにお世話になって、リージョンフリーのDVDを入手。

原題は「La maldición de la momia azteca」英語タイトルでは「The curse of the Aztec mummy(アステカ・ミイラの呪い)」が知られている(今回の邦題は、もちろんオレ製)

調べてみるとこの映画がメキシコで封切られたのは、1957年の12月11日。これはちょっと意外だ。というのも、シリーズ第1作である「アステカ・ミイラの恐怖」が封切られたのは、同じ1957年の11月13日なのだ。

いままで、「アステカ・ミイラの恐怖」がヒットし、それを受けて製作されたのがこの第2作と認識していたんだが、わずか1か月後の公開となると、さすがにこの説には無理がある。では当初から、前後編のような構想で作られたものなのか。そんなに壮大なコンセプトがあるような映画ではない気もするが……

というのも、この第2作「アステカ・ミイラの逆襲」は、ストーリー的にはほとんど前作の繰り返しに近いのだ。アステカの秘宝をめぐる正義の味方とギャングの争奪戦以上

わずか60分余の映画で、そのうち10分近くが前作のダイジェストというのもいかがなものかと思うし、そのうえ「主役」のはずのアステカ・ミイラ氏は映画の終盤まで姿を現わさない。登場シーンはわずかに10分ほど

なのでそこまでは完全にギャング映画。いやわりと緩い感じなので、「少年探偵団」くらいのノリだと思えば間違いない。ご家族連れでも安心して、どうぞ。

そう、前回もふれたが、どうもこのシリーズ、ファミリー映画っぽいのだ。今回も子ども(主役の博士の弟と娘)が活躍し、露骨な流血シーンなし(モノクロだからともいえるが)、セックスシーンもなし。刺激はかなり少ない。

そのわりに、アステカ・ミイラのメイクはかなりグロテスク。両腕両脚を突っ張ってぎくしゃく歩くスタイルは、あまりにもステロタイプのミイラ男ぶりだが、モノクロ画面の薄暗さもあって、それなり以上の迫力。こんなもん子どもに見せていいのかよ。

というふうに、本作ならではの特色も何もないといいたいところだが……

じつは見逃せない特色があった!

まずはオリジナル(だと思う)のポスターをご覧あれ。

はいはい、タイトル文字のすぐ上に注目! そこには謎の覆面男が……

映画の冒頭、前作で警察に逮捕された悪の科学者(兼ギャングのボス)が警察署から護送車で連行されると、その後を、ボス奪還をもくろむ子分たちが尾行。と、そこへ脈絡なく駆けつけるのが、オープンカーに乗った白覆面+マントの覆面レスラー

いや、一瞬、サントかと思った。

この「未発売映画劇場」でも再三ご紹介しているメキシコの伝説的プロレスラーにして、映画のスーパースターでもある、あのサントに、コスチュームがそっくり。

このあとも主人公の博士一家を助けて活躍するこの覆面レスラー……といいたいところだが、劇中では彼がレスラーであるという言及もなく、試合のシーンなど、そう匂わせる描写すらもない。もちろんサントではない、こいつはいったい誰なんだ

その名はアンヘル(Angel)

どうやらスーパーヒーローのたぐいらしく、彼がコスチューム姿で現われたり活躍しても、誰も疑問にすら思わないらしい。あるいは、当時のメキシコ社会では、こういう格好をした市民は、ごく普通だったんだろうか?

このキャラクター、当然サントのパクリと思われるが、じつはサント映画の第1作「サント対悪の頭脳」は1958年の作品だから、この「アステカ・ミイラの逆襲」のほうが先なのだ。

いやいや、映画第1作が世に出る前から、偉大なるサントは人気レスラーだったのだから、やはりこれはサントのパクリなんだろう。逆にこれは、当時のサントの人気がいかにスゴかったかの証拠と考えた方がいいだろう。

にしては、この覆面レスラーのアンヘルさん、弱いんだよな。

冒頭の追跡シーンでは、警察対ギャング団の銃撃戦の最中に、武器ひとつ持たずに徒手空拳で乱入。いやまあ、プロレスラーたるもの超人たるべし。だから、それはかまわないし、じっさい銃で武装した悪党連中をバッタバッタと素手で殴り倒すさまはヒーローっぽい。

ところがそのあと、武器を失ったギャング連中が素手で反撃に出ると、あっさり袋叩きにされちゃうんだよね。のびてしまったアンヘルを尻目に、ギャング団はボスを奪回して悠然と逃走。

そりゃ多勢に無勢なんだけど、それじゃヒーローとしてあまりにもダメだろ。

この後も、出てきては(素手で)殴り負けてしまうアンヘル。最後には悪党の手で覆面をはがされ、その正体を暴露されてしまう始末。ヒーローにはなり損ねている感がありありで、ガッカリだぞ

ひょっとしたら、すぐあとに映画の公開が予定されていたサントに対する先制パンチをもくろんだパロディだったんだろうか。まさかね。

とかいろいろツッコんだが、でもこの映画はヒットしたのだろう。翌年の1958年には第3弾がちゃんと製作されているのだ。よって、本稿も「つづく」のだよ。

未発売映画劇場「アステカ・ミイラの恐怖」

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