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500円映画劇場「ホスピタル・アンダー・シージ」

英語題をそのままカタカナにしたタイトルはよくあるが、それにしてもこのタイトルの手抜き感は、何なんだ。「ホスピタル・アンダー・シージ」 まるで、邦題を考えるのがメンドクサかったからこうつけたとしか思えんぞ、こりゃ。

スイス製のテレビ映画でもともとのタイトルは「SPITAL IN ANGST」ドイツ語です。やる気ゼロタイトルのもとになった英題は、やっぱり「HOSPITAL UNDER SIEGE」 2002年の作品である。

もちろん、このイラストみたいな派手なドンパチは、ない。

中身も、このタイトルそのまんま。病院が占拠されるお話です。以上。

いや、そう書くと、これが全然ダメな映画に思えるかもしれないが、じつはそんな映画ではない。映画そのものの出来栄えは、そう悪くないのだ。だからヤル気ゼロ感の責任は、日本の業者にあるんだね。

スイス製の娯楽作品ってのは、ちょっと珍しいか。少なくとも私はいままでに見た記憶がないぞ。

で、当然ながら舞台はベルンの病院。そこへ故国を追われたケニヤの元独裁者が緊急入院してくる。動脈瘤で昏睡状態。映画の間中ずっと眠っていて一度も目覚めないこの爺さんが、お話の中核になる。

入院した元独裁者、ケニヤから持ち出した莫大な資産をスイス銀行に預けている。その財産は国民のものだと主張するケニヤ軍事政権の軍人たちが病院を占拠するのだ。要求は財産のケニヤへの返還と軍事政権の承認。そう簡単にスイス政府が呑める要求ではない。ストーリーはこの軍人たちと、病院の女性医師、そして警察や政府の対応を中心に進む。

冒頭から、元独裁者の入院、水際立った軍人たちの病院占拠、警察の迅速な対応がテンポよく描かれる。悪くない、悪くない出だしだぞ。

主人公は優秀な女性医師。危篤状態の元独裁者の手術を行なうために占拠中の病院に入ることになる彼女だが、同居中の恋人とすれ違いで破局寸前のプレッシャーがかかっている(正直言って、このドラマは余計

けっこうスピーディに、ドキュメントタッチで描かれるここまでは、まるで「ダイ・ハード」をほうふつとさせると言ったら誉め過ぎか

ただしこの後が良くない。

この手の「タテコモリ映画」はいままでにも多くあるのだが、それだけに占拠の経緯や途中の展開、最後の脱出と解放までは、下手するとワンパターンに陥りがち。ラストまでに何らかの「仕掛け」がないと、観る側に先を読まれてしまうのだ。

たとえばテロリストの正体が見かけと違うとか、人質側にスパイがいるとか、警察が予想外の対策をしてくるとかだ。

なのにこの映画では、その「仕掛け」がほとんどない。

観ているうちに、次にたぶんこうなるなと思うとおりに展開するので、途中からまったくスリルが感じられなくなるのだ。

いやいや、真面目にていねいに作っているのは間違いない。それだけに、この「想定内の展開」という病魔にまともに冒されている感じだ。

そうなると、うまく作られていれば気づかないような小さな瑕瑾にも気づきやすくなってしまう。

元独裁者が緊急入院した直後に軍人たちは病院を占拠しにくるのだが、それって前から準備してきたのか? 急場でそろえた手はずにしては武器もメンバーも揃いすぎだろう。ケニヤ人ではないプロのテロリストまでが顧問格で加わっているという手際の良さだ(そのわりに致命的な手配洩れがあったりするが)

だいたいこいつら、この元独裁者をどうしたいのかまったく不明瞭。抹殺したいならさっさとやればいいのに、わざわざ女医さんに手術までさせて救命する。人質にするためかと思うが、そもそも病院いっぱいの患者と職員を人質にしているんだぞ。いまさらひとり増えようが減ろうが関係なかろうが。

途中で軍人側のリーダーが負傷すると、ますます展開はグダグダに。処刑することにした人質は放り出されるし、警察が突入したら犠牲者が大量に出ると言っているわりにはあっさりと突入が決行されるし。

そんな脇の甘さは、この手の映画にはけっこうあるが、たいがいは気づかれないものだ。勢いで押し切ったり、ギャグにごまかしたり、手法はさまざまだが。

そのへんが上手くいかず、この映画は500円映画に成り下がったということか。その点では、もうひと工夫欲しかった。惜しかったなあとは言ってやろう。やる気のない邦題はともかく。

娯楽アクション映画を作るのは、かくもむずかしいということかな。

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