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500円映画劇場「激突2006」

断わるまでもないと思うけど、スティーヴン・スピルバーグの出世作「激突!」とはなんの関係もないし、2006年の作品でもない。原題は「Speed Demon」2003年の作品。

まあこのへんは500円映画業界の常識。問題は玉石混交(ほとんど石)のこの業界で、少しはましな中身の作品だったかどうかだ。

判定は明確。「今回も、石」 それも粒のそろっていないクズ石(笑)

これまでに、けっこうたくさんの「石」映画を見てきたわけだが、そんな私でも、フォローの隙すら見い出せない、ある意味、完璧なダメ映画だった。

いきなりハイウェイを疾走するカスタムカー。そして上半身裸でその路上を歩く若い男。男の体をかすめるようにして急停止した車からは、これも上半身裸の若い男2人が。どうやら知り合いらしく、歩いていた男のほうが町を離れて大学に行っていたのが帰って来たところらしい。なにやら不穏なやりとり。

と、このオープニングで、すでにこの映画、乗りそこねている。いや私がじゃなくて、映画そのものが。

疾走する」と書いたが、じつはそんなふうには見えない。物理的には相当のスピードを出しているのかもしれないが、そのスピード感が画面からはまったく感じられないのだ。

理由は簡単。

撮り方がヘタなのだ。

このあとのカーレースシーン(しょぼい)もそうだが、走る車を、追走する車に載せたカメラで後方から追尾して撮影しているのだ。こうすると、カメラ、つまり見ているものの視点も、被写体の車と同じくらいの速度で移動してしまうのだから、速さが伝わらない。

こうしたときの特効薬として、たとえば車が向かってくる正面からのショットをインサートするとか、速度の遅い車を対照として映しこむとか、長いアクション映画の歴史で積み重ねられた手法が色々あるのだが、残念なことにこの映画の演出・撮影陣には、そうした知恵は出なかった模様。

体をかすめるように急停止」も、じつは相当好意的に見てやればの話。どう見ても数メートルは離れているぞ。あれくらい、日本の一般道でもしょっちゅう起きてるんじゃないか(それはそれでダメだが) ここから察するに、腕のいいドライバーを用意できていないんだろう。いやカースタントなんて呼ぶレベルの話じゃないんだよ。

どこで撮影したのか知らないが、たぶんふだんは使用されていない未成道路かなにかでロケ撮影をし、また使用できる車も少なかった(3台くらい?)せいだろう。もうちょっと考えろよな。

なんか淡々と車が走っているだけでは、そこになんのスリルもサスペンスも生まれない。開始5分で、映画の底が割れちまったわけだ。

いちおうエクスキューズをしておけば、この映画、邦題の「激突」が、そういうふうに見せたがっているようなカーアクション映画じゃないのだ。そのへんは日本の業者の罪。実際、冒頭以外にカーアクションと呼べるようなシーンは皆無だから。

ではどんな映画なのかというと……

ストリートカーレース(というほど派手なものではないが)の事故で弟を亡くした主人公。じつは父親も同様の事故で亡くしている。どちらの事故にもからんでいた不良集団のボスの細工とにらんだ彼は、たまたま発見した父親の遺品である悪魔のペンダントを使い復讐をしようとするが、相手のボスもまた同じ悪魔に傾倒していた。ところが、彼らとは別に、不良集団のメンバーが次々に殺されていく……

じつは、カーアクションではなく、ストリートギャングものを味付けにしたホラー映画だったのだ。しかし、ホラー映画としても、これまた記録的に中途半端。

スピードの悪魔(これが原題の由来)という悪魔だかに忠誠をささげると、なんかレースで無敵になる……という設定らしいが、これがどうもシャッキリしない。不良集団は悪魔崇拝よろしく血の儀式なんかもやるんだが、実際には何ひとつご利益があるようには見えない。どういうわけか、選ばれて儀式で清められたメンバーがいきなり殺されるの繰り返しで、なにひとつ信者に報いてくれない悪魔なんだな。

しかも、その発端となるペンダントを、不良集団のボスは「カネで買った」オイオイ、そりゃあんまりにも安っぽくないか? 信者の質を選ばない、資本主義の悪魔なのかい。

あ、「不良集団」ってのもかなり好意的な表現だからね。5人くらいしかいないし。

結局のところ、英語のタイトルにまでなっている「悪魔」は登場しないどころか、その「力」すら窺わせない、ステルス悪魔。これではホラーとして成り立たないだろ。実際、まったく怖くないし。

ラストで明かされる謎の殺人者の正体も、伏線ゼロで唐突だし、どうも映画のプロットやストーリーそのものが破綻しているようだ。これでは打つ手なし。

こうした欠点をさらに引き立てるのが、いいかげんな演出

どうもミュージックビデオの見過ぎなのか、サルマネなのか、デジタルエフェクトとフラッシュバックの氾濫で、見づらいことこのうえない。オシャレな映像をつくろうとして頑張ったあげくに、ただただダメな映像を積み重ねたみたい。

意味もなく(いや監督には深遠な思想があるのかも知れないが)登場する男子たちはやたらと上半身裸で、ハッキリ言って鼻につく。いっぽうでヒロインの女子は、セックス中でもきっちりブラジャーを着けたままなんだから、怒るよ(笑)

よほどのシロウトが作ったのかと思ったが、監督の デヴィッド・デコトーは、1980年代から活動し、IMDBによれば145本もの監督作品があるのだから、あきれる。このレベルでねえ。まったく向こうの映画界は伏魔殿だ。

と思ったら、なるほど、ロジャー・コーマンのもとでデビューした軍団員だだった(当時18歳だったそうだ)

なんか納得したぞ(笑)

ということで、見たくなる人はいないだろうと思うけど、いちおう上の画像にはamazon.comへのリンクを張っておいたので、怖いもの見たさの方はどうぞ(ちなみにamazonさんでは500円ではないです)

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