500円映画劇場「グリズリー・レイジ」

前回の「プロジェクト・グリズリー」があんまりだったので、口直しに今回は正統派動物パニックアクション(らしき)「グリズリー・レイジ」 2007年のカナダ製TVムービー。

ハイスクール卒業記念にドライブ旅行に出た、男3人+女1人の仲良しカルテット(黄金パターンだ) ところが本来の目的地に着く前に、ちょっと寄り道した深山で、調子に乗って飛ばしすぎ、グリズリーの子熊を轢いてしまう。車はラジエターを損傷。しかも、怒り狂った母熊が彼らを襲う。必死に逃げるが、車は故障、そして母熊の追跡は執拗に……

登場人物は4人だけ、舞台はほとんどすべてが山の中、必要なのは4輪駆動の車一台。ここまでは安上がりですんだようで、残りのバジェットを全部クマにつぎ込んだに違いない。その方向性自体は間違っていない。

動物パニック物では、主役たる動物が最大のポイント。ヘビ、ワニ、クモ、サメ、大ダコ、コモドオオトカゲ、ピラニア、恐竜、ドラゴン、ビッグフット、そのほかもろもろ。

とはいえ、通常、この手の動物たちは、あまり人間の言うことを聞かない。恐竜やドラゴンやビッグフットはともかくとして。なので、たいがいは着ぐるみやコマ撮りアニメ、近年ではCGに頼ることになる。

まあCGが安価になったおかげで、こうした映画を作りやすくなったのは確かだが、いっぽうでリアリティが大きく損なわれるのもまた現実。そのへんは、すでに本欄でも多くの実例を見たからね。

その点、野生のものは凶暴でも、グリズリーは我々と同じ哺乳類。意思の疎通も可能だろう。

というわけで、今回登場するのは、CGでもなければ着ぐるみでもない、ホンモノの大熊だ。このジャンルの映画では、非常にめずらしい、リアル・アニマル

どこから調達したか知らないが、グリズリーをうまくブッキングできて、製作側としてはしめしめだっただろう。いやそもそも、ホンモノのグリズリーを使えるぞというのが先にあって、それから立てられた企画なのかもしれない。

そこらへんはともかく、これまで多くのB級映画や500円映画で、見るものを落胆させてきた、似非アニマルが登場しないだけでも、ポイント高いぞ……

とならないのが、映画のむずかしいところ

たしかに「グリズリー・レイジ」に登場する熊、リアルはリアル。しかもデカい。人とならぶショットも多いので、その大きさは充分に伝わる。そういう意味では合格点以上なのだ。

なのだが……

復讐に燃えて追跡してくるこの母熊、まったく迫力がない。そう、デカければ迫力が出るというわけではないのだ。

モフモフしている、どう見ても、可愛くて愛嬌のある、クマちゃんにしか見えないぞ、このグリズリー。

そりゃそうだろう、たぶんサーカスか動物プロダクションで長年過ごした、芸のできる熊なんだろうが、日頃はむしろ人間に愛想良くして可愛がられるための存在であろう。そいつに山育ちの凶暴な野生熊は演じられまい。

人間の役者だって、演技力がなければメッキが剥げる。ましてや、芸ができるとはいってもクマはクマ。すばらしい演技力まで望むのは酷というもの。

あとは周囲の人間たちが演技力でカバーするしかないのだが、残念なことに出演する俳優さんたちも、そこまで演技力がないし、それを発揮させるような演出もできていない。

ハッキリいって、まるっきりのクマさん頼り。これでは、出るはずの迫力も出ないよ。

登場人物を4人に絞り込み、極端に単純化したシチュエーションは悪くないだけに、なんとも惜しい。こうなると、いつも減点の対象になるヤスモノCGを使ったほうがよかったんじゃないかと思ってしまうくらいだ。

もちろん、欠点はそれだけじゃない。

テレビ用だけに仕方ないのだが、それにしても圧倒的に刺激不足。このジャンルでは不可欠なはずの流血シーンもほとんど(いやまったく)なし。血は流れず、はらわたも出ず、千切れる手足も、バラバラの死体も、ふっとぶ生首もなし。これではねえ。

最終的には、やっぱり迫力不足の500円映画でした。口直しにはならなかったね。

監督のデヴィッド・デコトーは、調べてみたら、エレン・キャボット、ジュリアン・ブリーン、リチャード・チェイソン、ヴィクトリア・スローンといった変名を使いまくって、じつに131本ものヤスモノ映画を監督している大物だった。ううむ、ここにも一人、知られざる大物がいたぞ。覚えておこう(覚えていても一銭にもならんだろうが)

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