不定形怪獣の襲撃

例のアレがヒットしているおかげで、「怪獣映画」ってフレーズが目につくようになりました。まあ、昔の怪獣ブームのころほどではないですが。

さて大昔から数多くの怪獣が、スクリーンやブラウン管や液晶パネルやプラズマ(メンドクサくなったな)を賑わせてきたものですが、その怪獣たちを、その外見の形態から、ざっくり分類してみると、こんな感じでしょうか(発生の由来からの分類については【こちら参照】

   恐竜タイプ

   巨大化生物タイプ

   巨人タイプ

   ロボットタイプ

話題のゴジラくんは、もちろん「恐竜タイプ」ですね。日本の怪獣の大部分はこのタイプになります。デカくて、目鼻があって、尻尾や牙があって、ガオーっていうやつ(大雑把)

逆にアメリカの怪獣映画では「巨大化生物タイプ」が多いですね。クモや、トカゲや、ムシや、ケダモノのたぐいがデッカクなるやつ(ざっくり)

この違いは国民性なんかもあるのかもしれませんが、着ぐるみ操演を伝統芸とする日本映画と、コマ撮りハメコミ合成を王道とするアメリカ映画の特撮の志向の違いに由来する気がします(円谷とハリーハウゼンの違いですね)

「巨人タイプ」には、クラシックの「戦慄!プルトニウム人間」(1957年)やその続編、ハリーハウゼン先生の一つ目巨人サイクロップス(「シンバッド七回目の航海」〔1958年〕)などから、近年の「進撃の巨人」(2015年)までいろいろあります。ウルトラ怪獣によくあった「巨大宇宙人」も、もちろんここに含まれるでしょうが、キングコングみたいな「巨猿」をこっちに含めるかどうかは議論の分かれるところでしょう。

「ロボットタイプ」は、そんなに数は多くありませんか。東宝怪獣映画では、メカゴジラとかメカニコング、あとは「地球防衛軍」(1957年)のモゲラくらいですか。海外ではもっと少なくて「クロノス」(1957年/日本劇場未公開)くらいかな。ウルトラ怪獣でも、ギャンゴとかキングジョーくらい? いずれも見た目は怪獣そのもので、あんまりロボットっぽくないですよね。

さて、ここからが本日のお題なわけですが、上記のタイプに当てはまらない連中がいるのです。

それが「不定形タイプ

要するに、グニャグニャモゾモゾしていて、形が定かでない怪獣たち。

誰でもすぐに(でもないか)思い浮かぶのが、通称「ブロブ」のあいつでしょう。

1958年の「マックィーンの絶対の危機」に登場した、赤色の巨大なゼリー状のあいつです。ブロブという名前はこの映画の原題「THE BLOB」からつけましたが、別に劇中でそんな名称はついてません。

スティーヴ・マックィーンがTV「拳銃無宿」で人気者になる前に出たB級SFですが、日本では人気ブレイク後になって(1965年)公開されたために、こんな邦題がついています。のちにテレビ放送された際につけられた「SF人喰いアメーバの恐怖」のほうがポピュラーかもしれません(ビデオタイトルもこっちが多数派)

この怪獣、隕石にくっついて地球にやってくるのですが、目鼻も口もない無生物的な風貌(?)が不気味で、食欲のみでなんでも喰う(吸収する)ので、無制限に大きくなっていくという恐怖。

映画そのものはそれなりのサスペンスはありましたが、そこまでおっかない作品ではありませんでした。

でも多くの人に強い印象を残してたせいか、1971年にはコメディ仕立ての続編「SF/人喰いアメーバの恐怖NO.2」(SON OF BLOB/日本劇場未公開/テレビ放送のみ)が作られ、また1988年には当時の最新SFXを駆使してリメイクされ「ブロブ/宇宙からの不明物体」として日本でも公開されました。これはかなりエグイ描写があって、なかなかの出来ばえ。

ではそのブロブが不定形怪獣の最初かというとそうでもなく、その前に1956年にイギリスのハマー・プロが製作した「怪獣ウラン」があります。放射能を吸収して成長する不定形生物の映画ですが、これ、私はいまだに見る機会がないんです。DVD買わなくちゃ。

さらにその前の1955年に同じハマー・プロで作られた「原子人間」が、大きさは怪獣というほどではないですが、あらゆるものを吸収して変形していくという点からして、この手の不定形怪獣の走りと言えるかもしれません。

同様に、周囲の触れたものを吸収してどんどん形態が変わっていくヤツでは、ジョン・カーペンター監督が1951年の「遊星よりの物体X」をリメイクした「遊星からの物体X」(1982年)に出てくる怪生物を挙げましょう。旧作ではそこまで不定形さはなかったのが、SFX技術の発達とカーペンター監督の趣味が相乗したのか、スゴイ勢いでグチャグチャ化するさまは、いま見てもなかなかのものです。大きさが怪獣というほど大きくないのが残念ですが。

わが日本の怪獣には、この不定形怪獣は少ないですね。

1964年の「宇宙大怪獣ドゴラ」は、数少ない東宝不定形怪獣映画の嚆矢。まあ不定形というよりは、形も定かでない宇宙生物の姿がよく見えない、ということですが。ポスターやDVDジャケットなどで目にするクラゲのようなお姿は、映画の中にはまったく登場しませんね。

むしろ1970年の「ゲゾラ・ガニメ・カメーバ/決戦!南海の大怪獣」で南海の小動物に憑依するまえの宇宙生物のほうが不定形っぽい。

そして1971年の「ゴジラ対ヘドラ」にでてくる公害怪獣ヘドラに、そのトドメを刺しておきましょう。ちょっとグニャグニャ感が足りないけど。

ウルトラ怪獣初期でいえば、「ウルトラQ」の風船怪獣バルンガ(万物吸収型)、「ウルトラマン」の植物怪獣グリーンモンス(コケかカビかサボテンみたいなグニャグニャ)あるいは四次元怪獣ブルトン(なんか形容しがたいゴム団子状)あたりが不定形怪獣でしょうか。

日本映画伝統の「着ぐるみ操演」は、考えてみたら不定形怪獣の特撮にはあんまり向かないですからねえ。

そもそもこうした不定形怪獣の総元ネタは、SF作家ロバート・シェクリイが1952年に発表した短編小説「ひる(The Leech)」ではないでしょうか(異色作家短篇集『無限がいっぱい』他に収録)

ある日突然、農場に落下してきた石は、周囲の物質を次々と吸収して巨大化し、軍の攻撃もものともせず(攻撃そのものも餌になる)、ついには……という小説で、なかなか恐ろしいです。その皮肉な結末も含めて、こうした不定形怪獣のルーツになったのでしょう。

  映画つれづれ 目次

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?