500円映画劇場「アイス・スパイダー」

またまたクモかよ、芸がないなとか思いますが、「アイス・スパイダー」です。原題も「ICE SPIDERS」 2007年のTVムービーであります。

もちろんクモ映画なんですが、さて、芸がないのかどうか?

人里離れた山中(山の名前がロスト・マウンテンてのはいいね) そこには、携帯も圏外のスキー場と、軍の秘密研究所しかない。その研究所から、遺伝子操作によって強化・大型化した6匹の人間大のクモが脱走! 貪欲な食欲にかられるこいつらは、餌としてハンターやスキー場の客を次々に襲うのであった。

典型的というか、まったく型通りのパニックホラー映画。「遺伝子操作で怪物誕生」ってのも、もはやなんの新鮮味もないネタであります。芸がないぞ

しかし、そのわりには、この界隈の映画では上出来なほうであります。雪山とクモっていうのも、やや目新しい組み合わせだし。「やや」だけど、芸があるか

シナリオ、演技、撮影などは、それぞれしっかりとプロの仕事ぶり。へたなPOVも使ってないし(使ってるけど効果はあった)ちゃんと雪山でロケしてるし。クモたちにガジガジ喰われた(ほんとのクモはあんな食べ方はしないんだが、そこは許す)人や動物の死体もきちんと映るし、その特殊メイクもリアルでたいへんよろしい。芸あり

登場人物たちも私の考えた「怪獣映画の基本設定」である登場人物必須の三要素をきちんと押さえています。主人公(元五輪選手のスキーヤー)科学者(ヒロインとクモを作った教授)軍人(軍の研究所警備部隊) 偉い偉い。芸があるぞ(基本なんだけど)

クモに襲われる人々の人数がハッキリしないので、誰が生き残るかのサスペンスがいまひとつなんですが、その代わりにクモの数をハッキリ6匹に限定しているので、クモの生き残りレースで引っ張ります。あと何匹倒せばゲームオーバーだ、みたいに。このへんや、人間たちをいくつかのグループに分割して、そのサバイバルを並行して描くあたり、きちんとしてますね。まあまあ芸がある

もちろん500円映画だから、そうそう完璧なはずはないです。当たり前か。

たとえば、シナリオにはかなりの「無駄」がありました。主人公のスキーヤーはかつて事故で足を傷めて選手から引退したと序盤で設定されてますが、けっきょくこの設定はほとんど活かされず、クライマックスで追ってくるクモを相手にスキーで華麗に逃げ切ります。きみ、ケガはどうした?

本来ならば緊急事態に真っ先に駆けつけるべき森林警備隊(レンジャー)は「全員風邪で動けない」 これはちょっと雑過ぎないかね、いくらなんでも。

軍の秘密研究所だっていうのに、そこを警備し、逃げ出したクモたちを追う役割の軍人たちも頼りない。人数少ないし、すぐやられるし。緊迫感不足の原因は、こいつらにあるんだろうな。

このへんの芸のなさがあって500円映画に成り下がっているわけですが、そのほかの部分ではまだ芸があったので、全体的には「格」の違いを見せることが出来ています。いや、だからといって威張れないんですよ。元・大関が番付下げて十両優勝したようなもんですから。

ただし、芸うんぬんを超えて致命的な欠点が。

そう、たいていの500円映画の例にもれず、やっぱりCGに難があるんです。

CGを多用した映画はけっして嫌いじゃないんですよ。ちゃんと使えていればね。「ジュラシック・パーク」だって「シン・ゴジラ」だって好きですよ。

ただし、失敗したときに、そのエラーが致命的になることは、これまでの「500円映画劇場」でもさんざん見てきましたね。

この「アイス・スパイダー」 他の部分はわりとうまく出来ていたのに、かんじんのクモたちのCGが、みごとに絵に描いたように失敗してるんです(まあそもそもCGだから絵に描いているんですが)

質感ゼロ。なんかほんとに絵が動いているだけにしか見えません。体表面が妙につやつやしてるせいか、ツクリモノにしか見えないんですな(まあ作り物なんですが)

シャカシャカと8本の足を動かして這いまわる描写は、けっして悪くはないのですが(でもオモチャっぽいけど)造作自体がリアルさに欠けるのでは何にもなりません。

この中途半端な不出来具合は、どうにも理解できません。クモたちの動きを見る限りでは技術不足ではないと思えるんですが……

原因は、やはり予算不足でしょうか。この映画、テレビ用のTVムービーなんで、劇場用映画よりもご予算少なめでしょうからね。

たぶん製作陣が、CGを甘く見てたんでしょう。費用をケチったんですかね。

「こんくらいの予算でやってね」「いいですよ」というザックリしたやりとりが想像できます。

で、出来上がったCG見て「ええっこんなの?」「あのご予算では、これで精いっぱいですよ」「……じゃあ仕方ないか」

ため息をつきつつ「CGって、お金かかるんだね」

まだまだ「カメラ不要の便利な特撮」くらいの認識が、このクラスの映画人にはあるんでしょうね。

映画がその末端にいたるまで、CGを過不足なく使いこなせるのは、いつの日になるんでしょうか。

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