見出し画像

オレの傍役グラフィティ「ウェルナー・ピータース」

先日、ツイッターの私のタイムラインに流れてきたのが『傍役グラフィティ』の話題。

いまから50年近く以前の本なのでご存知ない方も多いでしょうが、ご安心ください。当時でもそんなに広く読まれた本ではないです。ちなみに刊行は1977年で、もうとっくに倒産したブロンズ社から。著者は映画評論家の川本三郎と真淵哲のご両人。当然ながら、現在は絶版品切れで、けっこうな古書価がついています。

タイトルからもわかるように、1960年代から1970年代にたくさんの映画に出ていた傍役俳優たちを紹介した本で、取り上げられたのは主にアクション映画で活躍した面々。メインは男優さんばかりで、女優さんはちょっぴり。

当時からB級映画マニアだった私の嗜好にはぴったりの本で、それこそ何度も読み返しては、そこに出てきた俳優たちの名前と顔写真を覚えたものです。スリム・ピケンズとかクルー・ギャラガーとかロバート・カルプとかエディ・アルバートとかいったヒイキ俳優たちはこの本で学んだのが最初。のちに主演級にのしあがったロイ・シャイダーとかジョージ・ケネディとかウォーレン・オーツとかも出ていたっけ。

これらの名前を見れば、だいたいどんな志向の本だったかはわかるでしょ。

ということで、『傍役グラフィティ』は私にとってはバイブルのような映画本だったのですが、その後も映画を見ていて気になる傍役が出てくると名前を調べたり、他の出演作を追っかけたりする癖がつきました。

ウェルナー・ピータース(Werner Peters)はそんな中の一人で、『傍役グラフィティ』には載っていませんでした。

最初に見たのは、「バルジ大作戦」だったかな。

画像1

ここでのピータースさんは重要きわまりない大役、ドイツ軍側の司令官を演じています。ロバート・ショウ演じるへスラー大佐の上官であるコーラー将軍。序盤でへスラー大佐に指令を出すと、あとは司令部で作戦の行方を見守るだけですが、何しろ大反攻作戦のカナメともいうべき役目なのでやけに目立って印象に残ります。最後はウヤムヤのうちにいなくなっちゃうけど。

という役柄からもわかるとおり、ドイツ人です。1918年ドイツのザクセン生まれ。東ドイツで俳優デビューし、キャリア当初のコメディアンからシリアスに転じ、映画にも進出してドイツ民主共和国国家功労賞も得ています。1955年に西ドイツへ移り、以後は西側の映画で悪役やへヴィーなどを数多くこなし、国際俳優としてハリウッド作品にも出演しています。

「バルジ大作戦」は彼のキャリアの頂点ともいえる大役でしたが、ほかにも「36時間」での親衛隊少佐も印象に残る役でした。

画像2

ノルマンディー上陸作戦前夜の情報戦を描いたサスペンス映画で、のちに「スパイ大作戦」などで多用された、トリックを駆使して敵から情報を得ようとする「作戦」の走りの作品でしょうか。ジェームズ・ガーナー演じる米軍情報将校から上陸作戦の詳細を聞き出そうとするピータースさんが演じる親衛隊隊員は、映画の悪役、憎まれ役をほぼ一手に引き受ける貫禄ぶり。

たぶんこの作品での好演が、「バルジ大作戦」での起用につながったのでしょう。

という作品に先んじて出演して、私の無意識にピータースさんを印象づけていたのが「怪人マブゼ博士/千の眼」

画像3

西ドイツ娯楽映画の金字塔(まったくの私見です)「怪人マブゼ博士シリーズ」のなかでも、フリッツ・ラング監督が手掛けた「千の眼」は傑作なのですが(これも私見です)、ゲルト・フレーベ、ペーター・ファン・アイク、ウォルフガング・プライスといった面々に伍して強い印象を私に残したのが、ほかならぬピータースさん。クライマックスのシーンでの彼の叫び声「捕まえろ! そいつがマブゼだ!」はいまでも耳に残っています(日本語吹き替えだったけど)

画像4

中央のハゲ男がピータースさんですね。

と、彼の風貌をご覧いただければおわかりかもしれませんが、この映画を初めて見たときには、私はこの人をドナルド・プリーゼンスと完全に勘違いしていました。似てるよね?

「大脱走」「007は二度死ぬ」や「刑事コロンボ/別れのワイン」の犯人役ですでに知っていた英国の名優と間違えていたんですから、若気の至りです(苦笑) その後しばらくして勘違いに気がついたのはいつのことだったかな。

なにせ当時はまだインターネットもなく海外の俳優事典も少なく(そもそもこんな人は出ていません)、映画に就いてイロイロ調べるのもタイヘンだったんですよ。いまではインターネット・ムービー・データベース(IMDB)やオールシネマですぐにわかることですがね。

ピータースさんは1958年にベルリンで吹き替えスタジオを開設していて、自らも吹き替えの声優をつとめていました。その際の持ち役のひとつが他ならぬドナルド・プリーゼンスだったそうです。ほーら、私の勘違いも当然でしょ(ほかにロッド・スタイガーやオースン・ウェルズも担当したとか)

画像5

というように大きな足跡を残しているウェルナー・ピータースさんですが、残念なことに日本での知名度は高くないようで、オールシネマさんでも出演作は6本しかヒットしません。そんなもんなのかな。

さらに残念なことにピータースさんは1971年、新作のキャンペーン中に心臓発作で急逝してしまっています。当時52歳は若すぎる死です。その後も健在ならば、あるいはもっと名を残せただろうと思いますね。

ところでわが家の『傍役グラフィティ』ですが、書棚のどこかに埋もれたきりで現在所在不明です。しかたないので、オレ独自版の「傍役グラフィティ」を紡ぐことにしますんで、ときどきおつきあいください。

映画つれづれ 目次

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?