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「大麒麟の二枚舌」

アントニオ猪木がぶち上げた北朝鮮でのプロレスイベントが、いよいよ実現するらしい。ということは、IGFのレスラーたちが参加するってことか。

IGFもいろいろゴタゴタはあるようだが、何はどうあれ10万人以上(公称)の観客を相手にする機会なんて、今の日本プロレス界ではまずないんだろうから、しっかり体験してきてもらいたい。あと、前回(1995年)の北朝鮮でのプロレスイベントをきっかけにして、佐々木健介が北斗晶を射止めたので、独身レスラー諸君は心して出かけるように(笑)

そのIGFに鈴川真一がいるわけで、これはもう感無量というしかない。不祥事で相撲界を退きレスラーに転向した男が、一からやり直して大舞台を踏むわけだ。ドラマだねぇ。

そこでふと、一年ほど前の週刊プロレスに載った鈴川真一と天龍源一郎の対談を思い出した。ミスタープロレス・天龍の刺激的な一言が、今でも印象に残っている。鈴川こと若麒麟の大相撲入門の動機を聞いて、こうカマしたのだ。

大麒麟の二枚舌にひっかけられたんだな

若麒麟は、押尾川部屋所属。その押尾川親方が、元大関・大麒麟だ。実際に二枚舌だったかどうかは知らないが、二所ノ関部屋所属の現役時代には大横綱・大鵬の後継者と目された実力者。だがノミの心臓と揶揄されるほど、ここ一番にもろく、けっきょく幕内優勝もなく、大関どまりに終わった。未完の大器だったわけだ。

なぜ天龍が、部屋の先輩(天龍も二所ノ関部屋だった)である大麒麟を「二枚舌」と切り捨てたのか。

意味深である。

じつは、天龍が大相撲からプロレスに転じた際に重要な役割を果たした、というかその原因を作ったのが、当時引退して押尾川親方になっていた大麒麟だからだ。

話は1975年にさかのぼる。

この年、8代・二所ノ関親方(元・佐賀ノ花)が死去すると、ご多分に漏れず部屋の後継者争いが起きた。後継に名乗りを上げたのは、当時独立して自分の部屋を興していた大鵬親方と、部屋付きだった元大関・大麒麟の押尾川親方。ところが先代未亡人はどちらも後継者に認めず、跡目争いはこじれる。そこへ、同年7月場所に平幕優勝した現役の金剛(最高位関脇)が、電撃的に先代次女と婚約して後継の本命に躍り出てしまったのだ。未亡人は暫定親方を立て、金剛が引退後に部屋を継承するレールを敷いてしまった。

当然、不服とした押尾川は自分の内弟子ら16人を率いて部屋から出奔し、独立を訴える。これが「押尾川騒動」だ。このとき押尾川について部屋を出た16人のなかに2人の関取がいた。1人は押尾川の内弟子の青葉城。そしてもう1人が、天龍源一郎だ。

一門の長老、花籠親方らの調停の末、押尾川の独立は認められた。だが、移籍を認められた力士は16名の出奔力士のうち青葉城ら6名のみ。当時、将来は大関候補と目されていた天龍の移籍は認められなかった。二所ノ関部屋に連れ戻された格好になった天龍は、翌年大相撲を廃業し、ジャイアント馬場の全日本プロレスに入門する。これが天龍プロレス入りのいきさつだ。

この時に、押尾川の子飼いであった青葉城はともかく、天龍がなぜ元・大麒麟の押尾川についたのか?

当時、後継親方の一番手になっていた金剛との不仲は噂されていた。たしかに一本気で任侠肌の天龍と、自ら考案した品で特許申請などもした合理家肌の金剛では気が合わなかっただろうとは思うが、一方で大麒麟の押尾川と天龍がそんなに近かった印象もなかったのだ。

いまとなっては真相は闇の中。2010年には大麒麟の押尾川も他界し、現在は押尾川部屋も二所ノ関部屋も消滅している。

そこで、対談で発された「大麒麟の二枚舌」発言には、なにかただならぬものが感じられたわけだ。

「大麒麟の二枚舌にひっかけられたんだな」

掲載された「週刊プロレス」の版元が、相撲協会機関誌である「相撲」の版元でもあるベースボールマガジン社とあって、これ以上はツッコめなかったのが惜しまれる。昭和大相撲史に残る事件の真相を、いつか天龍が語る日が来るのだろうか?

ちなみに、押尾川親方はもうひとりプロレスラーを産んでいる。

元・十両の玉麒麟、のちの全日本プロレス・四天王のひとりで、現在のプロレスリング・ノア社長・田上明だ。

田上の玉麒麟も、押尾川親方との確執でプロレスに転向したとかいう。1987年のことだ。

当時すでに全日本プロレスのエース格だった天龍が、相撲界の後輩として入ってきた田上をリング上でビシビシしごいていたのは、何かの因縁を感じさせたものだ。

その田上も先日、リングを引退した。ちなみに天龍は、現役バリバリ。

それにしても、親方一代にして3人のメインイベンターを産み出したとは、おお、元大麒麟の押尾川親方、じつはプロレスの名伯楽だったのではないだろうか(笑)

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