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高圧線鉄塔

息子がまだ小さな子どもだったころ(いつのまにかずいぶん昔になった)、どういうわけか高圧電線の鉄塔に凝った時期があった。幼稚園から小学校に上がるくらいだっただろうか。何がきっかけだったかは覚えていないが……

ご存知だろうか? あの鉄塔には必ず「線名」と「番号」を掲示したプレートが取りつけられている。「××線●●番」といった具合。これを順に追いかけるのが面白かったのだ。

基本徒歩、幼児の足なのでそう遠くまでは行かれないが、どうかすると自宅から2~3時間も父子で歩いて鉄塔を訪ね続けたものだ。あのおかげで、息子はずいぶん足が強くなったと思う。

掲示されている番号は、ときに途方もなく大きいこともあり、ああこの線はどこまで続いているのだろうか、と思いを馳せるなど、そこはかとないロマンを父子で感じていたものだ。もっともこれは男の子に特有な感覚らしく、一度だけつきあったママ殿はぜんぜん楽しくなかったらしく、二度と同行しようとはしなかったな。

という具合に男の子大好きアイテムのひとつの高圧線鉄塔。ベつにわが家が特殊だったのではないらしく、そういえば『鉄塔武蔵野線』なんて小説もあって、映画にもなっていたっけ(観てないけど)

鉄塔が出てくる映画といえば、私がいちばんに思い浮かべるのは、やはり最初の「ゴジラ」だ。

上陸したゴジラの東京進攻を阻止するために構築される高圧電流柵。「シン・ゴジラ」でいうと、多摩川の河川敷に戦車を並べて迎撃する「タバ作戦」に相当する部分か。もちろんたやすく突破されてしまうんだが、ゴジラの吐く放射能炎の高熱にぐにゃりと溶ける鉄塔の描写は強く私の印象に残った。

あのシーン、ぐにゃりと溶ける鉄塔は、飴で作ったモデルにライトだかの熱を当てて溶かして撮影したそうで、いにしえの「特撮」のこうした工夫ばなしは、いろいろと面白いものである。CGの普及で、今後はこんな逸話はもう生まれないんだろうか。

アメリカに行った時にも鉄塔を見かけたことがある。

何もないような広大なアメリカの平原を、点々とつなぐ高圧電線の風景は、ああいかにも「大陸」だなと感じたものだ。

私の大好きな泥棒映画「オーシャンと11人の仲間」で、ラスベガスのカジノ襲撃作戦の重要なキーとなるのが、こうした高圧電線だ。

砂漠に点在する5カ所のカジノに電力を供給する高圧電線は、ただ一本。そこでその線を遮断し、停電でマヒしたカジノを襲撃するのだ。

そのため、大晦日を前にした夜、夜陰に乗じて砂漠のさなかに立つ鉄塔に赴いたサミー・デイヴィス・ジュニアとヘンリー・シルヴァのコンビが、鉄塔に時限爆弾を仕掛けるのだ。

あの映画のオーシャン・チームはリメイクの「オーシャンズ11」とは違って、第2次大戦時の空挺部隊の帰還兵。そりゃあ、爆破なんてのはお手のものなわけだ。そんな妙な説得力もあったんだな、この映画は。まあ演じたシナトラ軍団の面々は、正直、単なる遊び人にしか見えなくて、とても歴戦の勇士には見えないけど。

もうひとつ、忘れがたいのが「トレマーズ」だ。

荒野のただなかに孤立したスモールタウンが、謎の地底生物に襲われる怪獣映画の傑作だが、その異変の最初の兆候になるのが、鉄塔なのだ。町はずれの鉄塔を通りかかった主人公コンビ(ケヴィン・ベーコン とフレッド・ウォード )が見上げると、その上に町の住民の老人がしがみついている。なんと老人はそこで餓死していた! なんで彼は鉄塔を下りようとしなかったのか?

何もないような荒野の真ん中の高圧線鉄塔というのが、何かただならぬ孤立感を覚えさせる、すぐれた一幕だった。この「トレマーズ」が傑作たりえたのは、こうした描写が映画全編に詰まっているからなのだ。

重要なライフラインであるこの高圧電線だが、航空関係には危険物であり、また景観を壊すとかもあって、近年都市部では姿を消しつつある。息子と踏破したラインも地下化されたりしてなくなってしまったものがある。

撤去される意義もわかるが、一抹寂しい気がするのも確かだな。

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