500円映画劇場「デビルズ・レジェンド」
TVムービーやDVDオリジナルの作品が多い500円映画界だが、たまには劇場用に作られた映画も現われる。
2005年のスペイン/イギリス合作の、この「デビルズ・レジェンド」も、劇場用に製作された作品だとか。ちゃんとドルビーサウンドだったりするし、レーティングもある。
ただし、映画祭での上映と小規模な劇場公開にとどまったようだ。まあ見てしまえば、納得いくのだが。
めずらしく(?)ちゃんと知っている名前が製作にからんでいる。あの「ゾンバイオ/死霊のしたたり」を作ったブライアン・ユズナが製作・監督しているのだ。80年代のスプラッター映画ブームの一翼をになった、まぁビッグネームだよね。だからといって期待はしないが。
映画はスペイン北部の田舎町、1965年にはじまる。
建設されたダムによってまもなく水没する、無人のはずの村に忍び込んだ2人の少年が、そこでこの世のものならぬ怪奇に遭遇し、ひとりは命を落とす。それから40年後、ふたたびその怪奇が浮上するときが来た。
ダム湖に水没した町ってのは、そそるねえ。怪奇好きにはけっこう受ける設定で、ここには座布団を進呈しよう。
ただ、その後に展開する、復活しそうな怪奇との闘いを描くストーリーは、控えめにいっても、混迷をきわめるシロモノ。
劇場公開ベースの予算があったせいか、けっこう登場人物も多く、水中撮影なども駆使しているのだが、それがまったく活かされていない。
複数の登場人物がそれぞれに怪奇に立ち向かうという構成そのものは大作ホラーの定石なんだが、なんか整理ができていないんだよね。なので、ゴチャゴチャ感が先に立って、ストーリーの厚みに繋がっていない。
冒頭で怪奇に遭遇したメガネの少年(ハリー・ポッターみたいな風貌)が、当然40年後の現代パートにも登場するはずなのだが、それが数多い登場人物のうちのどいつなのか、いっこうにハッキリしないので、イライラする。
他にも、息子を事故で失った潜水夫、娘とうまくいかないシングルマザーのテレビ記者、数か月前に死んだ祖父のメッセージを受け取ってしまう少女、なにかに憑りつかれているダムの管理人、町の観光振興にのみ熱心な町長、頑固な保安官、子どもたちをベビーシッターにまかせっきりにする母親、片思いの恋人を失った女学生……こうした多彩な人物のドラマが、互いに噛みあわないまま進むのに、全体を納める映画の長さはたったの98分。
そりゃゴチャゴチャもするわな。結果としてすべてが中途半端な感じになってしまっている。
これは、なんといっても、脚色のまずさに由来する。原作の持つ要素を、脚本に取り入れすぎているのに違いない。
そう、500円映画では稀有なことに、この映画にはちゃんと「原作小説」があるのだ。こんなの初めてだ。
原作者はマシュー・J・コステロという作家で、じつはけっこうな作品数もあり、また数多くのビデオゲームのストーリーも手がける作家である。邦訳作品もあり、1994年の「See How She Runs」が『逃亡者』のタイトル(有名なテレビや映画のあれとは違います)で、また『ザ・セブンス・ゲスト―異界からの招待状』(自作ゲームの小説化)とかファンタジーシリーズの『ムレムの書』(全8巻のうち、なぜか4と5だけを執筆)とかが、日本でも出版されている。
ホラー界の巨匠F・ポール・ウィルソンとの共著もあったりするし、ピーター・ジャクソン監督版の「キング・コング」のオフィシャル前日譚も書いている。また、あのチャッキーが登場するホラー映画「チャイルドプレイ」シリーズのノヴェライズも手がけた。ただし「2」と「3」だけだけど(いずれも未訳)
ううむ、メジャーなんだかマイナーなんだかよくわからないが、少なくとも小説の作品数は20作以上ある、いっぱしの作家なのである。権威あるブラム・ストーカー賞の候補になったこともある。受賞してないけど。
この「デビルズ・レジェンド」の原作は、映画の原題と同じ「Beneath Still Waters」といい、1989年と、ずいぶん以前の作品だ。もちろん邦訳はない。
あれ、原作も原作者も、なんか立ち位置がメジャーなのかマイナーなのか、中途半端な感じだな。
この中途半端感が、500円映画へのパスポートになってしまったことは想像に難くないね。
ホラーのキモとなる、血みどろの殺戮シーンや、悪魔に憑りつかれておかしくなっていく人々のゾンビっぽい振る舞いとか、惜しい部分もある。そういったシーンだけ見たいムキには、あんがい向いてるかも(おススメはしないよ)
ま、そんな映画なんだが、悪の総元締めである、悪魔の化身と化した(らしい)男を演じたパトリック・ゴードンだけは、けっこうよかった。
その風貌は、名優・天本英世とか、テレビドラマ「ワンス・アポン・ア・タイム」でルンペルシュテルツキンを演じたロバート・カーライルに似た容貌魁偉ぶり。この人の迫力だけは、認めてあげよう。
ただ、ラストの倒され方がショボすぎるんだよな。
そんなわけで、けっきょく最後まで、中途半端の呪縛から逃れられない映画でありました。
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