500円映画劇場「ザ・クローン」

トランプ大統領の誕生以来、アメリカではディストピア小説がベストセラーになって、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』など、かなり古い作品までもがベストセラーリストに顔を出したりしています。なぜだかは、考えるまでもなさそうですが。

『一九八四年』も過去に映画化されていますが、そもそもディストピアものはSF映画の得意技のひとつ。たとえば……メンドクサイので自分で調べてね。

ちなみに「dystopia」とは、ユートピア(理想郷)の正反対の社会を指す語で、要するに「暗い未来」のこと。試験には出そうにないので、この程度のことを覚えておけばいいでしょう。あんまり役に立つ知識じゃないから。

ということで、「ザ・クローン」です。2005年のアメリカ映画で、映画祭で上映された後、DVDで発売されたみたいです。原題は「CLONE」としているものもありますが、映画本体のクレジットでは「CL. ONE」 「CL1号」くらいな感じでしょうか。まあどうでもいいけど

どうでもいいと書いたのには理由があります。

この映画、ぜんぜんダメなんですわ。

世界的核戦争が勃発して国家が崩壊した未来(2104年だった気がする) 文明は壊滅し、放射能の害が迫っている。そんな世界で、放射能に耐性を持つ人類を作るためのクローン実験が秘かに進められているが、クローンの肉体は出来ても、そこに魂を込めることはできていなかった。だが、「軍事アカデミー」なる組織の研究により、非常にまれなDNAをもった人間を道具に使えば、魂のアップロードができることがわかり、そのDNAを持つ青年が狙われることになる。一方、彼らに反対する反体制グループも、阻止するために暗躍を始めるが……

いや。あらすじとかはどうでもいいんです。ストーリーが破綻していたり、設定が納得いかなかったりは毎度のことですから。

問題は、この映画のセンスが異常に古臭いことです。

今から100年ほど先の未来が舞台ですから、当然その風景などが出てくるわけです。

もちろんCGです。そのCGの出来ばえが、安っぽいアニメみたいだってのも、この際問題ではありません。

ただ、そこに描かれる風景そのもののデザインが、モンダイです。

高い塔のような円錐型のビルが林立し、エアカーが空中を自在に飛び交い、高速鉄道(モノレールかな)が都市国家間を結ぶ。ガラスと金属で出来上がったようなピカピカの室内には大型のデジタルモニターがたくさんあって、離れた場所の人々とも語り合える。人々は「宇宙大作戦」のようなピタッとしたユニフォーム風の服に身を包んでいる。

うーーん、20世紀に多くのSF映画や、手塚治虫先生が描いたようなマンガに出てきた「21世紀の風景」そのものじゃないですか。

仮にも21世紀の映画が描く「22世紀の風景」にしては、まことに情けない。

正直言って、ストーリーもくら~い話だし、画面も暗くて見づらいしと、あまりポジティブに見られない映画だけに、せめてこのへんに気をつかって、もっと斬新な未来図を描いてもらいたかったですねえ。

だいたい、「世界的核戦争」があって「すべての国家が崩壊した」後の世界なのに、こんなピカピカ未来都市、どうやって復興したんだろうね。

しかも「放射能の害が迫っている」はずなのに。

これじゃ「ディストピア」じゃないし。

はい、そんなわけで、なんか見ているうちにどんどん集中力が奪い去られ、ついには何を描いているのか、何が語られているのか、さっぱりわからなくなりました。ええと、ラストってどうなったんだっけな?

寝落ちしたのかも知れませんが、それも私のせいじゃないですからね。いま一度見直す気にもなりませんし。

中途半端にホラーっぽいジャケットイラストや、「クローン」といういかにもいかがわしそうなタイトルに惹かれて、この映画を手にしたり目にしたりしないように、「逆おススメ」しておきますね。

そういう意味で、ひさびさに「500円映画」にふさわしい作品でありました。

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