見出し画像

ジャッキー・チェンと勝負する・追撃戦(24)

前回とは一転して、今回は正真正銘のジャッキー映画

「プロジェクトV」は、中国や香港では2020年秋に公開されたが、日本では遅れて2021年5月の公開。

コロナ禍で公開の遅れや、公開時の上映館の減少があり、正直いって大きな話題にはならなかった。それどころではなかったのである。

画像1

ちなみに「プロジェクト」はジャッキー映画のブランドみたいなもの。もちろん、それまでのカンフー映画からアクション映画への転換点となった大ヒット作「プロジェクトA」(1984年)のイメージゆえだ。

その後、「プロジェクトA2/史上最大の標的」(1987年)、「プロジェクト・イーグル」(1991年)、「プロジェクトS」(1994年/ジャッキーは製作のみ)、「ファイナル・プロジェクト」(1996年)、「プロジェクトBB」(2006年)があり、シリーズものと間違えそうだが「A」以外は互いに無関係な作品。

面白いことに、中国語題ではこのすべてに「計劃」がつけられているので、日本の配給会社の暴挙ではない(英語題ではそうではないが)

だが今回の「V」に関していえば、これは純日本製の邦題。中国語題は「急先鋒」、英語題は「Vanguard」だからね。

冒頭はロンドンから。中国系大富豪をテロリストが襲撃。だがそれを水際で阻止するのが民間警備会社。この会社が「ヴァンガード社(Vanguard)」で、そのボスがジャッキーなのだ。

その後、テロ組織の資金を横領したために狙われる大富豪を守り、誘拐された人質の奪還を目指すヴァンガード社と組織の攻防が描かれる。舞台はロンドンからアフリカ、そして中東、最後はドバイへと展開。最新の近代兵器を駆使したアクションが炸裂する。

問答無用のアクション映画で、いかにもジャッキーらしい映画だ。

監督はスタンリー・トン(唐季禮) 監督デビュー作の「ポリス・ストーリー3」(1992年)以来の仲で、これが5本めのジャッキー映画監督作となる(ほかに「ライジング・ドラゴン」の製作・脚本とかジャッキー製作の「プロジェクトS」の監督なんかもある)

ジャッキーが自身以外でもっとも多くの作品をまかせている監督なので、彼を起用しているということは、この作品にジャッキーの気合いが入っている証拠。その点では期待を裏切らなかった。さすがは唐大人。

画像2

ヴァンガード社は警備会社とはいっても、最新機器を装備した、ほとんど民間軍事会社。国境も気にせずに兵器をどんどん持ちこめるんだから、それなりのコネもあるようだ。

うん、この前調べたピンカートン探偵社の現代版みたいなもんかな。

とにかくアクションありきなので、細かいことは言いっこなし、ドンパチとドッカン、それにカンフーのつるべ打ちだ。面白くないわけはないだろう。

もちろんいまの映画なので、CG合成も多用されている。エンドタイトルのNG集(ちゃんとあるよ)でもグリーンバックを背景にした撮影風景が多い。

しかし、ジャッキー映画らしく体術もきっちり織り込まれていて、そのへんの撮影はかなり大変だったようだ。ジャッキー以外の俳優たちには格闘技の特訓もほどこされたようだし、ビクトリア滝での水上アクションではジャッキー自身溺死しかけたらしい(実際には滝はCG合成らしい)

画像3

とは言ったものの、では文句なしのジャッキー映画かというと、そうもいかない。

前記したように、文句なしのアクション映画ではあるのだが、ではジャッキー映画としてなんの不満もないかというと、そうではない。そしてその原因は、ほかでもないジャッキー自身にある

あらすじをもう一度よく見ていただきたい。

ジャッキーが演じるのは、ヴァンガード社のボスである。

ハッキリとは描写されないが、ジャッキーよりも偉そうな者はおらず、ジャッキーは誰の指示もあおがずにすべてを自分で決している。外国での軍事行動に等しい作戦も、彼の腹ひとつで決めてしまうところを見ると、たぶんヴァンガード社のトップなのだろう。社長だかCEOだかオーナーだかはしらないがね。

これまでのジャッキー映画で、ここまでえらいジャッキーを見たことはないのではないか。

いままでのジャッキーの役柄は、たいていはボスではない。ポリスアクションならば刑事くらいで、部長や署長や、ましてや警察長官などは演じない。カンフー映画でも、師匠や兄弟子を演じることはほとんどなかった。

ジャッキー・チェンは基本的に弟子キャラなのだ。

だがこの「プロジェクトV」でのジャッキーは、ボスそのもの。香港映画ならばティ・ロンとかロイ・チャオとか「ポリス・ストーリー」シリーズのトン・ピョウとかが演じそうな役。今回のストーリーならばサモ・ハン大兄あたりが演じそうな役でもある。

私のイメージにあるジャッキー・チェンの役どころに従えば、ヴァンガード社の若いエージェントで大富豪の娘とともにテロ組織に誘拐されるロイ(ヤン・ヤン)か、中年以降ならば家庭持ちのベテラン・エージェントのチョン(アレン)あたりがジャッキーの役だろう。最前線で体を張ったアクションを見せる若き中国出身の俳優たちに、かつてのジャッキーのキャラを見ることができる。

いや、わかってますよ。

いかなジャッキー・チェンといっても、もう60代も後半。ジャッキーよりも5歳下の私自身のことと較べてみれば、そりゃあアクションなんか無理だろうよ。むしろ、それでもこれだけのアクションをこなしているほうが驚きだよな。

象徴的なシーンがあった。

ドバイのショッピングセンターでのアクション。逃げる犯人を追って吹き抜けの階上からヤン・ヤン演じるロイがスーパーダイブ! 下に置いてあった車の屋根に見事に着地すると、それを見たジャッキーが続けてダイブしようとする。と、傍らにいた地元警察長官が「あっちに階段が」と示すと、ジャッキーは思い直してそちらへ走るのである。

かつてのジャッキーならば、先頭切ってダイブしただろう。もちろん、激しいアクションシーンの中にこうしたちょっとした笑いを交えるのもジャッキー映画ならではなのだが、やはり「ジャッキー先生も寄る年波が」とか思ってしまうシーンなのだよ。

画像4

ま、そうは言っても、映画の中心は譲らないのだから、さすがはジャッキーである。ほら、このポスターでも真ん中はジャッキーでしょ。

画像5

ここのところ、ジャッキー映画の公開が遅れがちになっているのが気になる。ぼつぼつ興行的にはキビシイのか。これからは劇場公開が減って、DVDスルーとか配信先行とかが増えるような気がする。ま、それも時代の流れかな。

ジャッキー・チェンと勝負する 目次


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?