見出し画像

見えない恐怖

デング熱やらエボラ出血熱やらのニュースで騒然としてる間に、そろそろインフルエンザの季節。人類の生存を脅かすのは、こうした目に見えない恐怖たちなんでしょうか。

エボラに関しては、水際での侵入防止が肝心と言われていますが、デングにはそこを見事に突破されているので、水際よりもその後ろの態勢を整える方が肝心だと思うんですがね。

さて、謎の疫病が勃発するパニックものは、サスペンス映画では定番……のように思えて、意外に成功した例は少ないもんです。

このテの映画で私がぱっと思い浮かべるのは、「アンドロメダ…」(1971)

画像1

「ジュラシック・パーク」の原作者マイクル・クライトンのデビュー作『アンドロメダ病原体』を映画化したこの作品は、宇宙から飛来した謎の病原体をめぐるサスペンス。落下した人工衛星を拾った町の住民が全滅するところから始まり、こうした事態に対処する秘密研究所での病原体との戦いが描かれます。ね、感染勃発後の対処のほうが大事でしょ。

画像2

この作品、小説では図版やグラフ、当時はまだ珍しかったコンピュータ・データなどが小説内に取り入れられることによって迫真性を増し、その圧倒的なリアリティが素晴らしかったのですが、映画はそうした手法を「目に見えない」病原体の姿を描くのに応用して、見事な効果を上げていました。

病原体そのものは見えなくても、それが空気中に「ある」ことを示すネズミの実験などは、見ていて戦慄を感じさせますし、実験室の気密が破れて病原体が漏れると同時に鳴り響く警報など、見えなくてもその「存在」を強く感じさせてくれました。「病気サスペンス」のジャンルでは、今のところ最高傑作でしょう。

そう、細菌とかウィルスとかは「目に見えない」つまり、敵の姿が見えないわけで、そこが恐ろしいんですが、じつはこれは視覚で楽しませる映画というメディアにとっては、究極的に「向いてない」題材なんですね。逆にそここそが、映画屋の腕の見せ所なわけですが。

画像3

たとえば、細菌兵器によるバイオテロを描いた(たぶん)最初の映画「サタンバグ」(1964)では、「目に見えない」細菌を、小さなガラス瓶に入った液体という目に見える存在に集約し、そのやりとりで視覚的なサスペンスを盛り上げました。細菌の入ったガラス瓶がヘリコプターの床を転がって落ちそうになるシーンのスリルは、さすがは巨匠ジョン・スタージェス監督とうならされる迫力。

一方で、こうした点が不充分で盛り上げそこねたのが、わが日本の「復活の日」(1980)。まあ話のスケールはまったく違いますが、こうした小技がないと、スケールがいくら大きくても、大味になってしまうもんです。ハリウッドの大物スターを投入した割には大作感が薄れたのも、小説から映画に仕立てる際のこの辺の視覚的な工夫が足りなかったからでしょう。すぐれた小説がそのままですぐれた映画になるわけではないということです。

画像4

エボラのニュースが流れてからしばしば脳裏をよぎるのは「アウトブレイク」(1995)

画像5

これは逆にこうした視覚化でミソをつけた感のある映画でした。視覚化しにくい敵を描いてサスペンスを高めるため、便宜的に人間の悪役を設定せざるを得なかったのですが、かえって病原体の恐怖を薄める結果になったようです。病気そのものよりも人間のほうが「敵」ってことになっては、ふつうのサスペンスものに過ぎません。ところで、これはエボラ出血熱じゃなかったっけ?

病気と真っ向の戦いを描く偉人伝的な感動物語ならともかく、病気を敵役にしたエンタテインメントには、相当の手腕が必要ですよ、というお話しでした。

【2020/1/28】 その後もSARSやらMERSやらと感染症は次々とあらわれて心配の種をふりまいてくれましたが、ここ最近中国の武漢に端を発する「新型ウィルス肺炎」とかでまた騒然としてきました。SARS騒動に関しては、こんな映画を見ると……まぁあんまり参考にはなりませんねぇ。

500円映画劇場「サーズ・ウォー」

【画像のリンク先はamazon.co.jp】

映画つれづれ 目次


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?