私をどこかへ連れてって

「ジャッキー・チェンと勝負する」で取り上げた「飛龍神拳」のところでもちょっと書いたが、「誰かをガードして目的地まで連れて行く」というのは、アクションやサスペンスのスタンダードな設定のひとつ。

ギャビン・ライアルの冒険小説『深夜プラス1』(ハヤカワ文庫から新訳版が出たばかり)がこの「誰かをガードして目的地まで連れて行く」(DGMTと呼ぼう)の典型。

『深夜プラス1』の主人公は、元・英国情報部のキャントン。腕利きドライバーでもある彼が、わけありの大富豪を護衛して、フランスの大西洋岸からフランス、スイスを越えてリヒテンシュタインまで連れて行く依頼を受ける。彼らを阻止しようとして敵方が腕利きのガンマンを放って来るし、依頼人の大富豪はフランス警察に追われる身。深夜のハイウェイを突っ走り、銃撃戦をくぐり抜け、国境を突破して、タイムリミットまでに目的地に到着できるのか?

この『深夜プラス1』自体は映画化されたことはないんですが、同様のパターンを持つ映画はけっこうたくさんあります。

「飛龍神拳」を見た時に、これをウェスタンに翻案したら面白かろうと書きましたが、これよりずうっと前にそうした作品がありました。

1954年の「ベラクルス」がそれ。

革命戦争中のメキシコを舞台に、フランスへ渡る伯爵夫人を護衛して、元南軍将校のゲイリー・クーパーとならず者集団のボスのバート・ランカスターが、メキシコシティから西岸の港町ベラクルスまで敵中突破する物語。もちろんその依頼には「裏」があって……という仕組み。

クーパー×ランカスターの共演に、名脇役シーサー・ロメロがからみ、さらにはアーネスト・ボーグナイン、チャールズ・ブロンソン(当時の芸名はブチンスキー)、ジャック・イーラムらの個性派が顔をそろえ、さらにロバート・アルドリッチ監督が得意とする豪快なアクションとあいまって、西部劇の名作のひとつに数えられる傑作。未見のかたはぜひどうぞ(発売中のDVDの邦題は「ヴェラクルス」)

次々に襲いかかる敵をいかにして突破するか、そしてその裏に何が潜むのか、はたして期限に間に合うか……アクション/サスペンス映画が面白くなる要素がこの「DGMT」にはバッチリ内包されているのがわかるだろう。

クリント・イーストウッドが主演・監督した1977年の「ガントレット」も、「DGMT」のひとつ。

重大裁判の証人である娼婦(ソンドラ・ロック)を証言のために護送するのがイーストウッド演じる刑事。ところが彼女の証言を阻止しようと、殺し屋が次々と襲撃してくるばかりか、警察内部にも裏切り者が……というお話。クライマックスは、敵の謀略でお尋ね者となった二人が、大型バスで裁判所に乗り込むのを阻止しようと、警官隊が雨アラレと銃弾を浴びせる名シーン。余談だが、このシーンで浴びせられる銃弾は、当時の宣伝で「45000発」といわれていたが、誰が数えたんだろうか?

ヒロインを演じたソンドラ・ロックは当時、私生活でイーストウッドのパートナーだったので息ピッタリ。「DGMT」では突破する側のチームワークも重要な要素なのである(その後この二人は別れてゴタゴタしちゃったけど)

日本でも黒澤明の「隠し砦の三悪人」(1958年)が「DGMT」だろう。戦国時代に、滅びた大名のお姫様を同盟国へと逃がそうとするストーリー。上原美佐のお姫様を護衛して隣国へ逃げるのは、三船敏郎、千秋実、藤原釜足の三人。もちろん、その「裏」もちゃんとある。

この「隠し砦の三悪人」にオマージュをささげたというのが、あの「スター・ウォーズ」(最初のやつ)で、千秋実と藤原釜足のコンビがあのC3POとR2D2のモデルだそうだ。

こちらはまあ完全な「DGMT」にはなってなかったけど。

むしろ、デイジー・リドリーとジョン・ボイエガの2人が、おんぼろのドロイドBB-8を送り届けようとする「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015年)のほうが、ずっと「DGMT」だったね。

他にもいろいろあるが、さて、では「DGMT」のプロトタイプは何なのだろうか?

諸説あると思うけど、私はこれだと思う。

三匹の妖怪が、高名な僧の弟子となって、はるばる天竺へとお経を取りに行くオハナシ。

そう、「西遊記」こそが「誰かをガードして目的地まで連れて行く」の、最初の例だと思うんですよ。いかが?

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