ジャッキー・チェンと勝負する(49)

アーリー・ジャッキー・チェンはまだ続く。今回は1978年の「飛龍神拳」(中国語原題は「飛渡捲雲山」英語題は「Magnificent Bodyguards」)

このへんの作品は製作順や公開順が不明瞭なので、どの作品がどの作品に先行するのかよくわからなかったりするのだが、まあ大雑把に言えば「スネーキーモンキー」あたりと同時期に撮ったが公開は後に回ったといったところか。香港では1978年の4月に公開されている。

日本ではついに劇場未公開。テレビ放映(タイトルは「ヤング・ボディガード/神拳」)やビデオ発売(「ジャッキー・チェンの燃えよ!飛龍神拳/怒りのプロジェクト・カンフー」など)で見ることはできた。

前回の「ファイナル・ドラゴン」と同じく、中国武侠小説の大家・古龍の原作・脚本で、ロー・ウェイ御大がメガホンを取っている。

凄腕の用心棒であるジャッキーは、病気の弟を一刻も早く医者に診せたいという金持ち美女の依頼を受ける。病状は一刻を争うので3日以内に都の医師に診せねばならないのだが、そのためには山賊が支配する危険地帯・捲雲山を通り抜けねばならない。そこで二人の仲間とともに、美女一行をガードして捲雲山の悪党一味と対決することになるのだが、その裏には驚くべき真相が……

ハッキリ言って、これまでのアーリー・ジャッキー・チェンのなかではいちばん面白かった

香港にはあんまり山がないので台湾でロケしたそうだが、森と山に囲まれた風景がけっこう美しく、それを背景に、大勢のスタントを動員したスケールの大きなファイトが展開される。

ジャッキーの2人の仲間に、この時期のジャッキー映画ではお馴染みのジェームズ・ティエン(田俊)と、一時はブルース・リーの再来ともいわれたブルース・リャン(梁小龍)を配した布陣が頼もしい。実際この3人のファイトが存分に楽しめるのだから、豪華だ。カンフーだけでなく剣戟や暗器を駆使したファイトもある。

風景のせいか、あるいは壮大な音楽(一部は「スターウォーズ」の曲を無断借用)のおかげか、なんとなくハリウッド製のウェスタン映画を見ているような気がしてきた。いやマジな話、これそのままウェスタンに移植したら、今でもけっこうどころでなく面白い映画になると思うよ。さすがは古龍先生、大したもんだ。

ついでに言っとけば、タイムリミットまでに依頼人を敵からガードして目的地へ運ぶってのは、ギャビン・ライアルの名作冒険小説『深夜プラス1』ともよく似ている。カンフー版『深夜プラス1』! 古龍先生、ひょっとしてそこからヒントを得たのかも? 

ラストのどんでん返しの連続もけっこう見せたし、単純に楽しく見られる映画でありました。

ただ前半は健気に活躍する依頼人の金持ち美女と、その両腕ともいうべき美人姉妹剣士が、映画の終盤であまりに悲惨なことになるのは、ちょっと引いた。このへん、古龍先生は容赦なさすぎだよなぁ。

さて、この映画で見逃せない点は、今のところこの作品が「ジャッキー・チェン唯一の立体映画」であることだ。

最近また「3D」がブームになっているが、世界映画史的には、1950年代前半の立体映画草創期(「ブワナの悪魔」とか「大アマゾンの半漁人」とか「肉の蝋人形」とかヒッチコックの「ダイヤルMを回せ」など)、1980年代初頭(「13日の金曜日Part3」とか「ジョーズ3」)と大きなブームが2度あって、現在は3度目のブーム中といったところだが、この「飛龍神拳」は1978年の作品なのでこうした世界的ブームとは無関係。

前年の1977年に台湾で「空飛ぶ十字剣」なる立体映画が大ヒットしたので(日本でも上映された)、その影響で作られたのだろう。「空飛ぶ十字剣」は、公開時にはけっこうゲテモノあつかいな映画だった印象があるが、残念なことに私は見ていない。一度立体映画で見てみたいものだが、いまではもう無理かな。

もちろん今回のDVDでは立体効果は楽しめない。まあそれは仕方がないが、そのせいで、立体映画の弊害がはっきりと目につくだけになっているのが惜しまれる。

ファイトシーンに最中に、いきなりこちらに向かって突き出される棒や剣や拳や足(立体映画ではやりがちな演出)が鼻につくのだ。それも無理やりカメラ(つまり観客)に向かって突き出すのだから、角度が不自然で、せっかくの高度なファイトの流れをいちいち断ち切ってしまう。なんとも惜しい。

さらに、立体映画向きに撮影したせいか、全体にフォーカスが甘く画面周縁部が暗い。なので、どうにも安っぽく、見づらくなってしまっている。これも残念な点だ。

さて、そんな映画のなかでのジャッキー・チェンはというと、アーリー・ジャッキー・チェンではしばしばあったあの現象「ジャッキー目立ってない」にまたしても陥っている。ボディガードとしては兄貴分のティエン大兄と「耳が聞こえないのにスゴイ足技の使い手」リャン賢弟の間で、存在感が薄い。いちおう最後にビックリな設定をカミングアウトするが、ちょっと伏線が弱くて印象も薄い。なんか損な役回りに終始しているのだ。

前回同様「作品は面白いけどジャッキー映画としてはいまひとつ」という残念な結果になったが、まあジャッキー・チェンが出ていたおかげで、こうした映画が埋没せずにすんでいるのだから、メデタシメデタシということにしておけばいいだろう。

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