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歯の恐怖

ここ最近、私の知り合いで複数の人たちが「親知らずを抜く」という難行に挑まれました。みなさん、ご無事だったようで何よりです。

私、こと親知らずの抜歯については一家言を持つ資格があると思っています。

私はなんと4本もの親知らずを有していましたが(いや誰でもそうだと思いますが)、歯並びが悪く虫歯率も高かったため、最初の一本が出現した時点で「これは抜いた方がいいでしょうね」と歯科医先生のご託宣が出ていました。

生来が素直な私はその言に従い、親知らずが顔を出すそばから抜歯することに。

最初の一本は、拍子抜けするくらいにすんなり抜けました。思えばこれこそ「親知らずの神」が私に仕掛けた「罠」だったのでしょう。

2本目の時は歯科医大苦戦となり、けっきょく「割って抜きましょうね」ということに。ただ、この時はそれでもすんなりと除去できました。

問題の3本目。左側上顎の親知らずであります。

レントゲンで見た歯科医が「これは無理」と即断し、病院への紹介をしてくれる事態に。紹介されたのは、偶然にもわが母校であるN大の歯科病院。

前の経験があったので、そんなに大変なことになるとは思ってなかったんですが、甘かった。

わが第3親知らずは、余程ひねくれていたらしく、病院側もそれなりの覚悟と準備をしていた模様。麻酔が効いたと見るや、ただちにインターンや学生と思しき助手が数人駆けつけてきて、背を倒した椅子の上でほぼ上下さかさまになっている私の頭を、てんでにがっしり押さえます。

そこで先生が出してきたのは、どう見たって彫刻家か金属加工屋さんが使うような、銀色に光るごっつい「タガネ

で、その鈍く輝く刃を私の歯にあてがうと、タガネの尻をハンマーでゴンッ!

もちろん、麻酔が効いていますから、痛くはありません。痛くはありませんが、麻酔というのは「衝撃」までは消してくれないのです。

ハンマーが一撃するたびに、私の脳天までその衝撃波が突き抜けます。

おまけに、第3親知らずそのものが砕けるメリメリッという「感触」も、そのまま感じられるのです。

逃げることも止めることも出来ぬまま、その衝撃と感触を味わい続けること数度、意識が混濁し回数もわからなくなるころ、ようやくわが第3親知らずは私の歯茎から立ち去ったのでありました。

いやいや、あの衝撃と感触は、いまだに忘れられるもんじゃありません。

その後約1週間にわたって患部が腫れあがり、顎が動かなくなったため流動食しか摂取できなかったというオマケもついてきました。

怖い話でしょう(笑)

まえに映画「マラソンマン」に出てくる歯科的拷問の話を書きましたが、歯に関しては他にも嫌な映画があります。

1975年の「弾丸を噛め」もその一本。

20世紀初頭のアメリカ大陸横断乗馬レースを描いたウェスタン映画で、なかなか重厚な作品。ジーン・ハックマン、キャンディス・バーゲン、ジェームズ・コバーン、ベン・ジョンソン、ジャン=マイケル・ヴィンセントという私好みのキャストが揃っていたので、封切りに駆けつけて見ました。

その中で、大荒野をレース中に、参加者のうちの一人が歯痛で悶絶するシーンがあります。

なにせ周囲数百キロに誰もいないような場所です。もちろん歯科医院なんてものもありません。そこで、苦しむ患者をみかねて、ほかの参加者たちがなんとかしてやろうとします。

まずは銃の弾丸を取り出し(これはみな豊富に持ってますからね)弾頭の鉛を薬莢から取り外します。次いで薬莢の中の火薬を焚火に注いで焼却(パチパチと花火のような火が上がるのがキレイだった記憶が) そしてその空薬莢を歯のサイズに合わせてガンガン叩いて成形し、即席の金属冠を作るのです。

まあそれだけで歯痛がおさまるかどうかは疑問ですが、映画の最後にくだんの男がにかっと笑うと、その金属がきらっと光るので、まあ役に立ったんでしょう。レースが終わったら、ちゃんとした歯科医院に行ったほうがいいと思いますが。

原題も意味は同じ「BITE THE BULLET」なので、ここからそのタイトルをつけたんだなと納得しかけました(ほんとうは「苦難を耐えしのぶ」というような言い回しなんだそうです)

映画そのものは爽快感に欠け、豪快なウェスタンを期待した私にはやや期待外れでしたが、この部分はよく覚えていたりします。

もうひとつ、最近の映画ですが、やはり虫歯を治す戦慄映画が一本。

2013年のデンマーク映画「特捜部Q/檻の中の女」がそれです。

詳しくはネタバレになるので書けませんが、監禁された女性の虫歯が痛みだすシーンがあります。彼女は必死で痛みを訴え、監禁犯に歯科医か、せめて鎮痛薬をと懇願します。

冷酷非情な犯人は、歯痛で苦しむ彼女を冷たくあしらい、そこで恐るべき治療法を施します。

彼女の前の床に投げ込まれるのは、一丁のペンチ

うああ、これは出来ないよ。

このシーン、原作小説にもちゃんとあるのですが、まさか映像化するとは思っていなかった私は、映画を見ながら悶絶しました。

これから歯科治療にかかろうという方にはおススメできない映画ですね。

さ、今夜も寝る前には、歯をちゃんと磨かなければね。

そして、恐ろしいことですが、私にはまだ1本、親知らずが残っているのであります。

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