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未発売映画劇場「ゼロ・アワー」

外出自粛中に航空パニック映画の元祖と思っていた「恐怖のエアポート」を見たのですが、その際に調べると、なんとエアポート一族の元祖だと思っていたこの映画が、じつはリメイクだったことが判明してビックリしました。その作品のほうが、航空パニック映画の元祖により近いわけですからね。日本ではまったくの未公開作品なのですが、アメリカではDVDが発売中でしたので、さっそく取り寄せてみました。

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1957年の「Zero Hour ! 」 前に書いたように、この映画自体が1956年のカナダのテレビドラマ「Flight Into Danger」のリメイクで、その脚本を手がけていたのが、のちにベストセラー小説で、映画化されてエアポート一族の開祖となった『大空港』を書いたアーサー・ヘイリーである。はい、基本講座はここまで。

映画の骨組みは、いうまでもなく「恐怖のエアポート」と同じなのですが、じつは映画のテイストはやや違いました

いきなりオープニングは第二次大戦中の戦闘機ファイト。英軍編隊を率いるストライカー大尉(ダナ・アンドリュース)だが、独軍機との戦闘を経て多くの機体と部下を失ってしまう。戦後になって、カナダの民間航空会社でつとめるストライカーだが、その体験がトラウマとなって操縦桿を握ることは出来ない。そのストレスから家庭不和を招き、妻子が家を出てしまう。後を追って妻子の搭乗する飛行機に飛び乗るストライカーだが、その機の機内食が……(以下は「恐怖のエアポート」とほぼ同じ)

ということで、「恐怖のエアポート」でダグ・マクルーアが演じた元ヘリコプターパイロットよりも、この元戦闘機乗りのストライカーのほうが映画のなかでの比重が大きいのです。彼の家庭問題が盛り込まれることで、主役感は大幅増だし、よりドラマチックではあります。

ただし、彼の妻子が搭乗していることで、戦時のトラウマを乗り越えて操縦桿を握るというドラマはありません。自らの妻子を救うためですから、ストライカーはいやもおうもなしに操縦をします。この操縦すべきかどうかのドラマ部分は「恐怖のエアポート」のオリジナルだったんですね。


さすがはエアポート一族の先祖(に近い)らしく、キチンとそれなりの厚みのあるキャストで大作感を出しています。

主役のダナ・アンドリュースの妻を演じるリンダ・ダーネル(「荒野の決闘」ほか)、息子が子役のレイ・ファレル、ストライカーを地上から無線でアシストするのがスターリング・ヘイドン(「博士の異常な愛情」)、たまたま乗り合わせていた医師がジェフリー・トゥーン(よく知らない)……ま、よく知らない名前が多いけど、なにせ半世紀以上前の映画ですから。

なかでもCAいやこの頃はまだスチュワーデスか、その役を演じたペギー・キングは、けっこう可愛い。もともとは歌手で、テレビや映画で活躍した人だが、日本ではあまり知られていないようですね。

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こちらがペギー・キング女史。なかなか凛々しいです。

ちょっと注目したいのは、機内食を食ってぶっ倒れる機長を演じたエルロイ・“クレイジーレッグス”・ハーシュ(Elroy 'Crazylegs' Hirsch) 倒れるまでは出番も多いしね。異変が勃発してから彼が倒れるまでが、サスペンスの第一段階なのです。

クレイジーレッグスとはいったいなんぞやといった感じだが、じつはこの人、1946年から1957年までNFLで活躍し、殿堂入りしているアメリカンフットボールの名プレイヤー。クレイジーレッグスという仇名は、なんでも彼のランニングフォームが風変りだったことからついたのだそうです。

名のあるアメフト選手が引退後に俳優に転じた例は、のちにO・J・シンプソンジム・ブラウンといった例がありますが、クレイジーレッグスさんはその先達でもあったわけです。

もっとも俳優キャリアはそう長くなく、その後は本業の解説者や指導者に転じていますので、この作品が彼の俳優キャリアの代表作になっているようです。

そういえば、ずっとのちにこの作品(そして「恐怖のエアポート」)を元ネタにしてコメディ化した「フライングハイ」で、やはり機内食で食中毒を起こすパイロットのひとりがカリーム・アブドゥル=ジャバーでした。われわれには「死亡遊戯」でブルース・リーと死闘を繰り広げた男という認識ですが、もともとはバスケットボールNBAの伝説的プレイヤー。ひょっとしたらこの配役、偉大なる先人クレイジーレッグスを意識したものだったのかもしれませんね。

ついでに気づいたのですが、エアポート一族の興隆を招いた直接の功労者である「エアポート'75」で、ジャンボジェットに激突する小型機を操縦していたオッサンを演じたのは、何を隠そうダナ・アンドリュースその人なのでした。この配役にも、ひょっとしてこの映画へのオマージュかなにかが仕込まれていたんでしょうか。ぜんぜん知らなかったけど。

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ということで、のちのちのエアポート一族に多くのネタを提供した元祖・エアポートくんであるこの「ゼロ・アワー」ですが、けっこうよく出来た映画なのになぜか日本では完全に未公開らしいのは解せませんね。そのせいで、まったくと言っていいほど日本での知名度はありません。あなたも知らなかったでしょ?

1957年当時の日本人には、まだ空の旅はそれほど身近でなかったとかいうことでしょうか。いまとなっては、なんとも不可解なことですねぇ。

まだまだ、われわれの知らない映画って、世界にはいっぱいあるんですね。

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