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500円映画劇場「ランドシャーク/丘ジョーズの逆襲」

もうたくさんだ、二度と見ねえぞ、毎回そんなことを決心するのに、気がつけばまた見ているのが、ご存知サメ映画。

だいたい、元祖の「ジョーズ」以外ほとんど面白いと思ったことがないのに、なぜか見てしまうのはなぜなのか。やっぱりサメには何か人知を超えた魔力があるんじゃなかろうか。

というわけで、アマゾンのプライムビデオで何か観ようかなと思っただけなのに、吸い寄せられるように見てしまったのが「ランドシャーク/丘ジョーズの逆襲」という、タイトルを一瞥しただけで充分中身がわかってしまう底の浅そうな作品。ちなみに原題も「LAND SHARK」とじつにわかりやすいシロモノ。

ジャケットデザインもわかりやすいぞ

これだけおびただしい数のサメ映画が作られていると、さすがにネタ切れにもなってくる。海の上でのアクションにはもう新味も出せないし、サメと人間が対峙する設定もどっかで見たようなのになってしまう。空を飛んでくるとか宇宙から飛んでくるとかまでやってるんだからね。

そこで思いついたのが、じゃあ陸上でサメ映画作ればいいというコペルニクス的転換。まあ誰でも思いつきそうだけどね。

でもそのへんまでは考えついても、その突拍子もないアイデアをまともな映画に着地させるのは至難の技だろう、と思うのはズブの素人かまともな映画屋さん

わがヤスモノ映画の住人には、そんな悩みは存在しない。ヤスモノ映画の秘奥義があるんだから。

その秘奥義とは、「理屈なんか要らん!

あとはいつものヤツを使えばいい。そう、「遺伝子操作」「生物兵器」「極秘実験」「秘密研究所」……ほうら、一丁上がり

このとおり脚本はテキトーでいいんだし、面倒な水中撮影も不要だし、コイツは安く作れるぞ

と、思いついたのは、たぶん監督・脚本のマーク・ポロニア。ああ、こいつか。

覚えてないと思うけど、すでに本欄では「シャーケンシュタイン」「エイリアンVSジョーズ」とつきあってきた、あのヘッポコ監督だよ。

しかし今回は、そこにさらに途方もないシン・アイデアを思いついちまったぞ。

いままで見てきたサメ映画には、ある程度共通する欠点があった。それは「CGの安っぽさ」だ。

貧者の撮影技術ともいえるCGは、いっぽうでヤスモノへのフリーウェイでもある。多額の予算と製作期間が用意されるハリウッド大作ならともかく、普通のヤスモノ映画の現場にそんな贅沢は許されない。制限された時間と予算の行き着く先は、平板的かつリアル感なし、動きも同じアクションの使い回しばかりというシロモノ。

ポロニア監督、今回はこの点に大胆に切り込んだ。「CGは使わないぞ!

ということで導入された画期的手法が、ギニョールだ。平たくいうと、着ぐるみ

いやいやそれじゃ映画特撮の進化を逆戻りしてないか。いやいまどきの若い世代はかつての着ぐるみ特撮をもう知らないだろうから、かえって新鮮に見えていいのか……ホントにいいのか?

それがよくないことは、すぐにこの映画自身が証明してくれた。

映画冒頭、サメ映画の常道である水着美女(異議あり!)の襲撃シーン。定番中の定番、背ビレが画面を横切る! ん? 安物でシワだらけのグレーのウレタンの袋がヌル―っと画面下部を移動しているぞ!

その時点である程度覚悟はしたが、続いて赤い液体を気の毒な出演者にぶっかけるだけのヤスモノ流血シーンを経て、ついに姿をあらわす丘ジョーズの雄姿たるや(絶句)

いままでずいぶんなヘッポコモンスターを見てきたが、これはまた特級品のヘッポコジョーズだ。なんかコストコあたりでもこんなぬいぐるみが売られているのを見たような気がするぞ。

もうそんなことでガッカリするような初心なメンタルなどなくしたものと思っていたわが脳ミソも、さすがにコイツにはノックアウトされて、おかげで映画の結末が記憶から失われてしまった(なぜか思い出せません、サメ人間がどうとかだった気がするが)

例によって嘘八百のジャケットイラスト

しかしここまで来ると、この映画のスタッフがどこまで本気でこのサメ映画に取り組んだのか、真剣な疑問が湧いてくる。

ひょっとして、最初からサメ映画としての勝負を投げてたんじゃないか?

いくらポンコツ映画監督&スタッフだって、この着ぐるみジョーズで勝負できるとは思わないだろう。それなりに経験だって知識だってあるんだろうから。

なのに、この出来ばえ

これはもう、どこかの時点で(ヘタしたら最初から)この映画はあかん、もうどうしようもないぞ、と悟ってしまい、あとは、とにかく納期までに完成すりゃいいじゃん、出来ばえなんてのは二の次でさ、とっとと済ませてもっと有意義な(あるいは儲かる)仕事に移ろうぜ、なんてところだったんじゃなかろうか。

その際の言いわけとしては、「いいよツッコミどころ満載のZ級映画として作れば、映画マニアを自称するバカどもが見るだろ」

これは映画作りとしては許せない姿勢だ。

ヤスモノ映画をたっぷり見てきた身として言わせてもらえば、マジメに作った結果としてZ級映画になるから、そこに語るだけの価値が(小なりとはいえ)生じるのであって、最初からZ級映画を目指して作るなんてことはありえない。そんなのは映画作りではない。

この「ランドシャーク」がそうだと断じる根拠も確証もないから、決めつけるつもりもない。けれどこのヘッポコ映画に限らず、劇場公開せずにDVD発売のみだとか、ネット配信専用だとかの映画に、そうした製作姿勢が垣間見えたり匂ったりすることが、ここ最近は増えてきたような気がする。

映画を作ることへのハードルが低くなって、質の低下を招いているのかもしれない。まぁ、それが由々しきことだというほどシビアな世界でもないんだけどね。

そんな文句を言いつつも、今日もサメ映画をまた見たくなる、そんな日々を過ごしているんであります。

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