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500円映画劇場「シャーケンシュタイン」

ひさしぶりの500円映画劇場であります。

前回が2020年8月のアイス・プラネットなので、2年以上ものご無沙汰でした。「アイス・プラネット」? もうどんな映画だったかも覚えてないぞ。

なんでこんなことになったかというと、500円映画というジャンルがどうやら絶滅したらしいからです。

そもそもこの500円映画劇場がどんなコンセプトだったかというと……

ホームセンターの隅によくある、DVDの安売りワゴン。そこは、ここでしか見つからないような「迷画」の宝庫だ。ワンコインで手に入るが誰も買わない、そんな映画を見てみたんだが……

この「ホームセンターの隅によくある、DVDの安売りワゴン」がなくなっちゃったんですよね。

じつはこの2~3年でヤスモノ映画の市場は大きく変化しました。その原因は、配信ビジネスが大きく発達したことです。アマゾンプライムとかネトフリとかディズニープラスとか。

コロナ禍での外出自粛で、自宅で暇を持て余したみなさんが、テレビ(やパソコンやスマホやタブレット)で映画でも観るかと思っても、DVDやブルーレイを買いに出たり、レンタル店に出向いたりするのもままならなかった。その間隙をついて、外出不要、他人との接触もいらない「配信」というものが一気に勢力を拡大したわけです。

ということで、そのあおりを食ったのが、わが500円映画ビジネス。いまや安売りワゴンだけでなく、レンタル店も中古ソフト店も激減してしまいました。

しかし、それでやすやすと滅亡するほどヤワな業界ではありません。

私はアマゾンプライムを利用しているのですが、膨大な配信タイトルを眺めていると、けっこうアレレな映画が配信されています。おまけにその大半をプライム会員は無料で視聴できるときています。

なるほど、棲息地を追われたヤスモノ映画たちは、これからはこの世界で繁殖していくんですね。よかったよかった。

現物が手元に残らないのがコレクターとしては不満ですが、まぁぼちぼちと生き残りのヤスモノ映画たちを狩り集めていきましょう。

で、この「シャーケンシュタイン」であります。

スキモノの間では絶対的な人気があるサメ映画(「ジョーズ」の子孫たち)の一本。2016年の作品だそうです。

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じつはこの映画、ある界隈ではけっこう有名な作品だったりします。どの界隈かは、いうまでもないでしょう。かつて「フランケンジョーズ」なるポンコツな邦題でDVD発売されていて、今回は原題「SHARKENSTEIN」そのままの邦題で再リリースされました。

現在は入手困難かも(別に欲しくないけど)

どんな映画かというと……

第二次大戦末期のドイツ、人工生命を作ろうとするフランケンシュタイン博士(だろうと思う)の研究を親衛隊が没収。人工生命体の脳と心臓がUボートで秘かにアメリカへ運ばれる。それから60年後、ナチの残党のマッドドクターの手によって作られたサメの怪物が海岸で観光客たちを喰いはじめる。折から休暇でやってきた男女3人組は怪物に襲われ、なんとか脱出したがマッドドクターに捕らわれてしまう。辛うじて逃げ出した3人は地元警官とともに怪物退治に乗り出すことになる。

どうですか、ストーリーは(オリジナリティはないし陳腐だけど)悪くないでしょう。脚本担当のJ・K・ファーリューは、自作シナリオをこんな映画に仕立てあげた連中に怒っていいと思うよ。

さてこの映画のどこが悪いかというと、何よりもまずCGの出来栄え。冒頭のファーストショットで登場するナチスのUボートのCGで、すでにガッカリムードは高まるが、そのあとすぐにニョロっと登場してしまう(この登場の仕方は500円映画では恒例)怪物ジョーズの姿で、完全に萎えます。

数々のヤスモノ映画を観ることで、この手のガッカリには相当の耐性ができているはずの私でも、この怪物ジョーズのデザインとCGの完成度にはヤラレマシタ。CGがどうだとか以前に、そもそもCGにすら見えないんです。私は懐かしのモンティ・パイソンのアニメーション(テリー・ギリアム)を想起しました。いやそれじゃ名手ギリアム師匠に失礼か。

この出来栄えでヨシとした、プロデューサーや監督には逆の意味で脱帽です。いい度胸じゃねえか。

ぜひとも画像検索して、この怪物くんの雄姿をひとめでも見てみてください。

アメリカでも誇大広告でしょ、これ

もちろん、出来栄えが悪いのはCG班だけではありません。ライブシーンの俳優陣も相当なモノです。

この点にはハナから期待なんかしてませんが、大いに落胆させられたのは、ヒロイン役のグレタ・ヴォルコヴァ。容姿が私好みでないこともありますが、彼女のこの映画に取り組む姿勢に疑問を感じたからです。

サメ映画といえば、基本的には海が舞台。となれば、主演女優に期待されるのは、なんといっても水着シーン。ドーンとグラマラスな肢体をファンタスティックな水着に包んで観客の目を楽しませるのは、マストでしょう。

なのに、このグレタ嬢、まったくその期待に応えてくれません。

いや私だって、意味もなく水着を楽しませろとはいいません。でもこの場合、怪物ジョーズに襲われて立ち往生した船から陸地に脱出する必要に迫られ、彼女を含めた一行が海を泳ぐシーンがちゃんと用意されているのです。必然性あるでしょ。

ところが、このシーン、水着姿になったグレタ・ヴォルコヴァ嬢、まったくその姿を画面上にさらしません。彼女がTシャツを脱ぐシーンにはカメラが向かず、泳いでいるあいだは透明度の低い海水から出ず、上陸するとなぜか男性陣の影になって、その姿はカケラも見ることがかないません

彼女が見せたくないのか、撮影陣が撮りたくないのか、監督が出し惜しみしたい理由でもあったのか、これでは盛り上がりようもありませんな。

ついでにいえば、その演出面にも相当な問題があります。

サメ映画の定番である、海上で孤立したり、サメに追われてボートで疾走したりする船上のシーン、人物のアップになると、とたんにスピード感が喪失します。背景の海がぜんぜん動いてないからです。

監督やカメラマンが船酔いに弱かったのか、どうやら船上シーンは全部止まった船の上で撮影されたようです。

おまけにそれらのシーンの背景には、ほとんどの場合、ばっちり陸地が写りこんでいます。近すぎだよ。これでは海の、そしてそこに潜む怪物の恐ろしさは感じられません。ちょっとカメラアングルを工夫すればすむことなのに。

どうやらこの映画の関係者は、全員が海や船に弱かったようですね。それでなんでこんな映画撮ろうと思ったんだか。

日本版ジャケットも凝ってますね

というわけで(他にもいろいろあるけど)ポンコツ映画に成り下がった「シャーケンシュタイン」ですが、いちおう褒められるところもあります。

画質は美しいです。ハイビジョン・クオリティです。そして、空撮や水中撮影もちゃんと使っています。そういう意味では、500円映画にしては上質の画面が作られています。

でもこれは製作陣のお手柄というよりは、時代の流れのおかげでしょう。カメラの性能はデジタル時代になってドンドン良くなり、いまやスマートフォンでもこのくらいの画質の映像は撮影できるようになりました。水中でも大丈夫なカメラも安価になってます。そしてドローンのひとつも飛ばせば、空撮も楽々と実現できます。

かつてはコストがかかり、ヤスモノ映画製作のハードルとなっていた数々のハード上の困難が、今はほとんど解決しているんですね。ありがたい時代になったもんです。

そのぶん、そういう恩恵に浴していない、脚本とか演技とか演出とかいったソフト面のアラが、逆に目立つようになっているのは、皮肉なものですかね。

さてさて、映像配信という新たな荒野、どっちに向かって歩けばいいんだい?(笑)

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