見出し画像

未発売映画劇場「ドラキュラ対フランケンシュタイン」

未発売映画劇場がお送りする「夏の納涼怪奇映画大会」というわけで、前回までに「ビリー・ザ・キッド対吸血鬼ドラキュラ」「ジェシー・ジェームズ対フランケンシュタインの娘」という2大怪物の映画をお送りしてきたわけですが、ここまで来たら決勝戦を行なうしかないでしょう。

ということで伝説の映画「ドラキュラ対フランケンシュタイン」をご紹介しましょう。え? 前の2本の映画で、ドラキュラもフランケンシュタインも勝ってないって? まあいいじゃないですか。

あらすじですか? タイトルそのまんまとご理解ください(笑) 日本では劇場未公開、テレビ放送はあったものの、ソフト化はされたことがないようです。その理由とは……

ご存知のかたも多いでしょうが、これ伝説的なダメ映画なんです。何がダメって、ストーリーが破たんしてるとか、ヒロインにぜんぜん魅力がないとか、意味わからないシーンが多いとか、悪役たちがみんな自爆するとか、ヒーロー(と思われていた男)がトートツに死ぬとか、2大怪物の最後があまりにも情けないとか、いろいろ言いたいけれど、なんといっても「肝心なモンスターがカッコ悪い」につきますね。

フランケンシュタインの怪物は、まるで顔がクシャおじさんの大男にしか見えないし、ドラキュラはメイクが濃すぎて、まるでコメディアンの鉄拳そっくり。これじゃ演芸大会じゃないですか。見てるだけで笑えますよ、まったく(それじゃダメじゃん)

ただ、この作品、じつはある重要な歴史的意味があるんです。

2大怪物の激突が画期的? そんなのとっくの昔にユニヴァーサル映画がやってるし、わが東宝が大怪獣組み打ち映画をはじめたのは、本作よりもずっと前ですよ。

そうではなくて、このダメダメ映画が「ひょっとしたらドラキュラを現代劇に持ち込んだ最初のアメリカ映画」なのかもしれないってことです。【こちらを参照】

これ、1971年の作品だから、前に書いた「事件記者コルチャック」よりも先なんです。

まあ、そうはいっても、もともと暴走族映画かなんかを撮ろうとして、途中で方向転換してフランケンシュタインとドラキュラを撮り足したというトホホな経緯のある映画だけに、そんな歴史的価値を与えてやるにはあまりにも志が低すぎる気もしますが、まあやむを得ないでしょう。

でも、むかしテレビ放送でちょこちょこっとつまみ食い的に見た私は、これが現代劇であるとはまったく記憶していなかったくらいですから、歴史的価値といってもその程度ってことですね。

あと、もう一つ問題なのがここ。

はい、2大怪物の著作権をクリアしているのか

たぶんまったくクリアしていないと思うんですがね。

で、調べてみました。両怪物の著作権を。

「フランケンシュタイン」も「ドラキュラ」も、民話とか伝説とかではなく、著作者のハッキリした著作権物です。いずれも最初に小説の形で世に出ています。

前者はメアリー・シェリーが1818年に書き、後者は1897年にブラム・ストーカーが書いた『吸血鬼ドラキュラ』がその祖先。ドラキュラのほうがだいぶ若いのはちょっと意外。

そんなに古いなら、とっくに著作権切れだろうって? それがそうでもないのです。

著作権保護期間は著者の死亡時からカウントされます。アメリカやイギリスなどでは、その保護期間は著者の死没から70年間(ちなみに日本の法律では50年間) もちろんこの期間に勝手に映画や何かに使ってはいけません。

メアリー・シェリーの没年は1851年。死後70年だとすれば、1921年までは保護期間でした。まあこちらは映画化に関しては問題になるケースではなさそうです(ただ、あのエジソンが作らせたという最初の映画化作品は1910年製作なので微妙)

問題はブラム・ストーカー。この人は1912年まで生きていました。20世紀まで生存していたんですね。なので、アメリカやイギリスでの著作権保護期間は1982年まで

あれれ、じゃあ往年のユニヴァーサルの「魔人ドラキュラ」(1931年)やハマー・プロの「吸血鬼ドラキュラ」(1958年)は?

ここはメンドクサイので大幅に話を端折りますと、ユニヴァーサル社のドラキュラ映画は、きちんと原作者ブラム・ストーカーの妻(そのころは存命だった)に版権料を支払っていたそうです。たぶんハマー・プロもそうでしょう。

ただし、アメリカでは著作権保護のルール違反があって、かなり早くに原作小説『吸血鬼ドラキュラ』の著作権保護は切れてしまっているそうです。

というわけで、1971年製作のこの「ドラキュラ対フランケンシュタイン」は、本来ならば著作権所有者に支払わねばならなかった原作料も払わずにすんだのでしょう(たぶん「ビリー・ザ・キッド対吸血鬼ドラキュラ」も同じ) まあこんな三文映画にドラキュラ伯爵が出演することを、そもそも原作者サイドが許すはずもないでしょうけど。

もちろん現在では、フランケンシュタインもドラキュラも著作権は切れていて、誰でも自由に使うことができる、まことに重宝なキャラクターとなっています。日本でも誰か作って見ないかね?(日本では死後50年なので、ドラキュラは1973年に著作権切れになってます)

閑話休題。前の2作品と同様、この「ドラキュラ対フランケンシュタイン」も三文映画の域を出ず、これではちっとも「納涼」にはならなかったというお話でした。

  未発売映画劇場 目次

〔追記〕 書き忘れたが、フランケンシュタイン(元祖ヴィクター博士の孫かなんからしい)の助手を演じたのは、往年の怪奇映画の大物であるロン・チェイニー・ジュニア。まあ、あまりにもあんまりな役どころと死にざまだったが、調べてみたら、これが彼の最後の出演映画、つまり遺作だったのだ(1973年没) 狼男役などで出演作品多数。父親ほどの名優にはなれなかったが、いや、最後がこの映画とは、それもまたあんまりな気がする。気の毒に。まあそれも仕方がないか。

【2019/3/26】 2019年4月26日に国内版DVD発売のようです。日本語吹き替え収録。いやいや、だいじょうぶなのか(笑)

【リンク先はamazon.co.jp】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?