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大西部ストレンジャー列伝

ちょっと前まではやたらとヒッチコック監督作品を放送していたNHK-BSPの映画劇場が、ここんとこはせっせとアラン・ドロンとオードリー・ヘップバーンの映画を流していた。美男美女強化月間だったのかな。

基本的にロマンスっぽい映画は好みでない私はヘップバーンの映画にはそんなに気を惹かれないし、ドロン映画はというと、私はそもそもフランス語の映画があんまり好きではないので、そんなには見ていない。

とはいってもまったく全部に興味が無いわけではない。

だいたいこの映画劇場のチョイスはどういう方針なのか、けっこうな変化球が入っていたりする。

なかでも私が飛びついたのはドロン映画の「テキサス」(1966年)だ。

前にも書いたが、アラン・ドロンがハリウッド進出を期して出演した、純然たるアメリカ製の西部劇映画。興行的にも批評的にも成功せず、ドロンのハリウッド進出は頓挫した。

私は根の明るいこの手の映画は好きなのだが……

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まあ、確かに不発気味のコメディではあるが、そんなに不出来ではないと思うぞ。

ここでのドロンは、どうしたわけか西部に迷い込んだスペイン貴族。婚約のゴタゴタから騎兵隊を敵に回してしまい、彼を利用しようとするヤマ師のディーン・マーティンとともに、当時独立国だったテキサスへと逃亡を図るのだが……というお話し。天然っぽい貴族をかる~~く演じるドロンは意外なくらい面白いと思うのだが。

こうした、「西部劇に異分子を投入する」映画は、じつは意外に多い。異分子の投入は作劇の基本のひとつではあるが、荒野の風景にカウボーイやガンマン、保安官、インディアンといった基本フォーマットのハッキリした西部劇は、そこに異分子を投げ込むことで生み出すギャップを作りやすいのだろう。

そこで、大西部に、本来なら存在しなかったようなキャラクターを登場させると、あらら不思議と面白そうなストーリーが生まれるんだよ(いつも面白いとはいってない)

そんなわけでなのか、じつはドロンはこの「テキサス」のあとにも西部劇に挑んでいる。よっぽど悔しかったんだろう

ただ残念ながらハリウッドは無理だったようで、正統派ならぬマカロニ風味のヨーロッパ映画になった。フランス、スペイン、イタリアの合作レッド・サン(1971年)だ。

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今回もまた異分子投入ウェスタンなのはどうしたわけだ。ドロンはそういうのが好きなのか?

もっともここでの異分子はドロンではなく、いうまでもなく三船敏郎が演じるサムライ。

大西部にサムライというのは、いかにも思いつきそうだが、ここまで豪華な配役を組まれては文句は言えまい。フランスのドロンに、アメリカのチャールズ・ブロンソン、スイス出身で初代ボンドガールのウルスラ・アンドレスに世界のミフネ。う~ん、当時日本で人気があった面々を揃えたような気がせんでもないが。

西部劇に異分子を投入する際に、成功を期したいのであれば、そこに必要なのは「異分子でない側」すなわち、西部サイドのキャラクターだ。

「テキサス」でいえば、ディーン・マーティンのヤマ師、ジョーイ・ビショップのインディアン、ピーター・グレイヴスの騎兵隊長といったあたりが、いかにも西部劇な配役にハマっている。「レッド・サン」はそこが弱く、ブロンソンはともかく、ドロン、アンドレス、ミフネはいずれも西部劇的じゃない。そのへんがマカロニ臭が濃くなった原因か。

という具合で、異分子投入ウェスタンを成功させるには、受け入れ側の西部人がしっかりと伝統的な必要があるのだろう。

その点をしっかりと受け継いでいたのが、「カウボーイ&エイリアン」(2011年)

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大西部にエイリアンという、まぁそんなに斬新ではないアイデアですが、意外ときちんとした印象になったのはキャスティングが豪華なゆえ。

エイリアンを演じたのがイギリス人で6代目ジェイムズ・ボンドのダニエル・クレイグなのに対し、それを受ける西部側にハリソン・フォードを配したことだろう。ほかにキース・キャラダインなども顔をそろえ、ちゃんとウェスタンの雰囲気を出していたのは褒めてやっていいと思う。

と、ここまで上げた作品はいずれも「西部劇に異分子を投入する」映画だが、じつは逆パターンもある。

別ジャンルの映画に西部劇を投入する」のがそれで、シリーズものにしばしば使われる手。

もっとも有名なのが「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3」(1990年)かな。

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前2作で活躍したマーティとドクが西部開拓時代にまぎれこむというこの映画、舞台は西部だし、登場人物も背景もがっつりウェスタンだけど、映画そのものはご安心の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」第3部。ここでは安定のストーリーラインにウェスタンのほうがまぎれこんでいる。だからラストでは【以下ネタバレにつき自粛】

あるいは私の大好きなトレマーズ・シリーズの第4作「トレマーズ4」(2004年) 怪獣映画の傑作である第1作「トレマーズ」の舞台となったパーフェクションの町の100年前を舞台にしている。

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原題のサブタイトルに「The Legend Begins」とあるが、まぁ要するにこれまでのストーリーを、西部開拓時代に焼き直しただけのもの。手段としては「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3」と同じといえば同じだよな。

ついでにもうひとつ。1997年の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ&アメリカ/天地風雲」 こちらは香港映画の人気シリーズである「黄飛鴻シリーズ」の第6作。

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カンフーの伝説的マスター黄飛鴻がアメリカに渡ってというお話。原題「黄飛鴻之西域雄獅」どおりなのだが、実在の人物である黄飛鴻がアメリカに渡ったという史実はないよなぁ。ま、そのへんはカンケーないか。

こうした「別ジャンルの映画に西部劇を投入する」もけっこう多いもんだね。もちろん他にもたくさんある。

ジャッキー・チェンのハリウッド進出作「シャンハイ・ヌーン」(2000年)もカンフー+ウェスタンだが、こちらは微妙なところ。

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アメリカへと連れ去られた王女を連れ戻すべくアメリカへと送りこまれる中国の近衛兵ジャッキーが、大西部の地で大活躍する。

のちに続編も製作されるが、基本的にはスタンドアローンの単独作。だから「西部劇に異分子を投入する」にあたる。じっさい、ジャッキーの相棒を演じるオーウェン・ウィルソンはガッチリとウェスタンしているし、そもそもハリウッド製だから、全体的にはわりと正統的ウェスタン。そのなかにジャッキー・チェンというストレンジャーが現われるのだから、「西部劇に異分子を投入する」で間違いない。

ところがこの映画、しっかりジャッキー・チェンの映画になっている。いつものジャッキーらしいキャラクターだし、アクションも豊富だし、その中にはちゃんとカンフーアクションも盛り込まれている。ジャッキー映画として違和感なし。【こちら参照】

そうなると「いつものジャッキー映画に西部劇を投入する」にも見えるんだよなぁ。

まぁ。このへんに深入りすると、最大の問題作「ブレージングサドル」のことを語らねばならなくなって収拾がつかなくなりそうなので、ここまで。

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これはそもそも「西部劇」なのか「異分子」なのか、さっぱりわからない怪作だからね(笑)

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