500円映画劇場「ファイアーボール」

2009年のTVムービー。原題も「Fireball」 よく似たタイトルのタイ映画とお間違いなきよう。

薬物スキャンダルとDVでマスコミに追われる元フットボールのスター選手ドレイブン(アレクス・ポーノヴィッチ)は、妄想にとりつかれてカリフォルニアの田舎町で暴れ、留置場へ。その夜、留置場が火災にあい、あわれ元スター選手は焼死……と思いきや、なぜか驚異的な回復を見せたドレイブンは、強烈な熱エネルギーをあやつるミュータントとなり、自分を陥れようとした(と勝手に思い込んでいる)関係者と全人類に復讐するために、火の玉を飛ばして大暴れをはじめる。

偶然などから特殊な能力を取得した人間がテーマとなる映画、TVは数知れない。「スパイダーマン」「アイアンマン」などや、「ウルトラマン」も「仮面ライダー」もそうだよね。

こうしたスーパーヒーローに対し、アンチヒーローやモンスターになってしまうミュータントものも多い。

元祖は、H・G・ウェルズの「透明人間」だろうか。以降、「4Dマン」や「X線の目を持つ男」あるいは「原子人間」「戦慄!プルトニウム人間」「溶解人間」などなど。いやスマン、なんかB級っぽいのばかりだな。わが国にも「ガス人間第一号」とか「美女と液体人間」とかがある。

そうした物語の場合、多くは「自ら望まない能力を得てしまった人間の悲劇」といった方向に行くことが多い。そのほうがまともなドラマに見えるからだ。

ところが、この「ファイアーボール」の中心人物である、火炎男ドレイブンは、まったくそんなことは考えない。そもそもが薬物で壊れかかったスポーツバカなのだから、脳ミソよりは筋肉、そして感情の赴くまま、暴れまわるだけ。おかげで映画は歯止めなき暴走を続ける火炎男ドレイブンと、それを阻止する人々という、ほとんど怪獣映画の図式になっちまってる。考えたら、ひどい迷惑男だよな、こいつ。

まあ、それはそれでスゴイ設定かもしれないが、この「火炎を操る超能力ミュータント」の設定を考えた連中は、火炎男ドレイブン本人以上に、考えが足りない奴らだったようだ。

この手の映画で重要なのは「なんでそんな能力を身につけるか?」だろうと思う。そこの理屈が(なんとなくでも)納得いかないと、すべてが絵空事になってしまうからだ。

ところが、この映画では、その点がきれいにスルーされる。一応の説明は「筋肉増強剤の飲みすぎ」だそうだが、説得力ゼロだぞ。なんか細胞の再生が以上に速くなるからとかいうが、それと手のひらで「ドラゴンボール」のかめはめ波みたいな火の玉を飛ばす能力って、ぜんぜん関係ないんじゃないか。

そのうえ、ラストではドレイブンが(ちょっと差しつかえありそうだが)原子力発電所を襲うのだが、ええと熱を加えれば原発って吹っ飛ぶのか? そもそも核燃料それ自体が熱を発しているのに、そこをさらに熱するって、意味あんのか?

原発そのものの描き方も、うーん20年以上前の感覚だよな、これ。緊急停止のために二つのカギを同時に回してって、核ミサイル発射と混同してないか?

かように、いちおうSFなのに、「科学的」な部分がひどく脆弱なストーリーなのだ。

対して、たいがいの500円映画ではおざなりになる人間ドラマに関しては考えているようだ。

殉職した消防士の父親に近づくために頑張る女性火災調査官(レクサ・ドイグ)、自らも子供時代に虐待を受けた経験からDV犯を追い詰めようとする連邦捜査官(イアン・サマーハルダー ちょっと高良健吾に似てる)と、(500円映画にしては)人間ドラマ的に、妙にしっかりした性格づけがされている。

うーむ、力の入れどころが違うぞ。

多発する火災場面の特撮は悪くない。デカい爆発がCG頼りになるのは仕方ないが、自動車くらいのものが炎上するのは、ちゃんとホンモノのを燃やしていてポイント高い。

総じて見ると悪くない部分があっただけに、もうちょっとSFマインド、いやせめて科学的理屈づけにもうちょっとだけ気を配れば、もっといい作品になっただろうになぁ。

もともとSFスリラーを作る気はなかったんだじゃないか、このスタッフたち。だとすれば、あきらかに題材を間違い、おまけにそのジャンルを舐めていたってことなのか。不慣れなスタッフが、不慣れなジャンルに中途半端に手を出すとこうなる?

と思ったら、監督は「宇宙戦争ZERO」などのクリストファー・タボリじゃないか。ううむ、そうすると、原因はスキルじゃなくって、単なる手抜きなのか。そのほうが悪いぞ(笑)

  500円映画劇場 目次

映画つれづれ 目次



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?