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外出自粛映画野郎「ウォリアーズ」

夜のニューヨークを舞台に、ストリートギャングたちが繰り広げる壮絶な闘争と逃亡劇。

1979年に公開された「ウォリアーズ」は、こんな単純な話を要領よくまとめたアクションの小品……というのが公開当時の印象でした。実際のところ、それほど大きな話題性のある映画ではなく、日本公開も夏休み映画が終わった後の9月という、さほどいい時期ではなかったかと(アメリカ公開はその年の2月)

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ところが、当時この映画を観た大学ぼんくら映研のわれわれは、強烈な印象を受けたのです。最初に見た誰かが「あれはスゴイ」みたいなことを言いだして、その影響を受けた会員たちが次々と劇場に駆けつけ(単純だったんだねえ)みるみるうちに信者を増やしていったのです。まあ局地的な現象だったんでしょうが。

われわれがどんだけこの「ウォリアーズ」入れこんだかというと、すぐに額を寄せ合って「ブリヤーズ」なるシナリオを書き上げたことでもおわかりになるでしょう。新宿の公園での集会がトラブルになり、追われる立場になったブリヤーズのメンバーが地下街づたいに本拠地へ逃げ帰ろうとするという、およそヒネリのない「ウォリアーズ」の真似。パロディというのも恥ずかしいですね。もちろん、撮影が実現することはありませんでした。

その映研とほぼ同じメンバーがやっていた学生プロレスでも「ウォリアーズ」は使用されました。わたしのタッグの相棒が入場テーマに「ウォリアーズ」のサントラを使ったのです。音源は私提供のサントラ盤(ちなみに私は「ゾンビ」のサントラを使ってました)

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そんなしょうもない思い出のある映画ですが、久々にDVDを引っ張り出して観てみても、やっぱり面白かったですね。

冒頭で「単純な話」などといいましたが、よろずシンプルな映画は面白いもの。この「ウォリアーズ」はその好例といってもいいでしょう。まあ、シンプル過ぎるきらいがないでもないですけど。

なかでもオープニングは素晴らしい。

私も数多い映画を観てきたのですが、この映画の冒頭……まだまだ汚くて危険だったころのニューヨークのサブウェイに、NY中から続々とストリートギャングの代表たちが集結してくる様子をテンポよく描き出す、この映画の開巻は、素晴らしいの一言しか出ないです。

チームごとに統一されたユニフォームをまとった連中が次々と登場するとワクワクしてきます

本物のストリートギャングにも、あんなのはいないだろうという感じはするものの(そもそもそんなのがホントにいたかどうかも知りませんが)、この描写で一気に映画の世界に引き込まれるのは保証済み。

中でも人気ナンバーワンはこのかたたち。

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ベースボールフュリーズですね。ユニフォームがヤンキースの柄なのに地元愛を感じますし、まだ金属バットが普及していない時代なんだなということもわかります。顔面のペイントはたぶんKISSでしょうね。まだ顔面にペイントをするプロレスラーは出現していなかったはずですから。ペイントレスラーの元祖といわれるグレート・カブキは、この映画の2年後の1981年のデビューだから、むしろこちらがヒントになっているのかも。ちなみに名タッグチームのロード・ウォリアーズは1983年のデビューだから、これもこの映画が先祖かな。

まあ、ことほどさように多方面に影響を残し、監督のウォルター・ヒルの出世作となった「ウォリアーズ」ですが、なぜか出演した俳優たちには、その後大出世した人はいなかったりします。

公開当時、無名の俳優ぞろいなどといわれていましたが、そのときはそれが映画に微妙なリアリティを与えていた気がします。あのなかに人気俳優でもいたら、映画のバランスが崩れていたでしょうね。

でもその後、この映画を足掛かりに大スターにのしあがったものはいません。

主演のマイケル・ベックはその後「ザナドゥ」とか「メガフォース」くらいしか目立った作品はないし、ヒロインのデボラ・ヴァン・フォルケンバーグもピンとくる作品は残していません。途中で逮捕されるジェームズ・レマーと、悪役チームのリーダーで変質的な凄味を見せたデヴィッド・パトリック・ケリーが辛うじてキャリアを積んでいますが、いずれも大スターとはいえませんね。

うーん、この映画の印象が強すぎて、彼らのその後のキャリアを殺いだということでしょうか。だとしたら気の毒な気もしますが、一方でこれほどの作品にその名を刻んだんだからラッキーでもあるのでしょうか。

今回観ていて感じたのが、いまも残るアメリカの格差社会

ヒロインのセリフ「近所のおばちゃんたち、デブデブに太って子どもが5人もいる。あんなふうになりたくない」 そして地下鉄で逃亡中の彼女が、ちょっと上流っぽい(でもたぶん中産階級)に対して複雑な視線を送るシーン。

このまま生きていても一生この境遇からは逃げ出せないであろう彼女の(そしてほかのメンバーの)絶望みたいなのが感じられるシーンですが、これは今もアメリカ社会に厳然として存在している格差そのものでしょう。ここ最近のニュースでもそのことはわかりますよね。

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「ウォリアーズ」The Warriors/1979年/監督ウォルター・ヒル/脚本デヴィッド・シェイバー、ウォルター・ヒル/原作ソル・ユーリック/出演マイケル・ベック、ジェームズ・レマー、トーマス・G・ウェイツほか/93分

公開当時もあんまり話題にならなかったけど、この映画に原作小説があるというのもピンとこないですね。ソル・ユーリックのデビュー作で1965年の作品。1970年にすでに翻訳が出ていて『逃げる』という邦題でした(講談社) 映画の公開にあわせて『夜の戦士たち』と改題されて講談社文庫で文庫化されていますが、現在は品切れ状態。そもそもここまで視覚的に優れた映画だと、活字で再体験しようとは思わないものなんですかね。ちなみに私も未読のままです。

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