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外出自粛映画野郎「博士の異常な愛情」

非常事態宣言も解除されましたので、外出自粛もおしまいかと思ったんですが、なかなかそうもいかないようですね。第2波がとかいわれてますので、もうしばらくの辛抱でしょうか。

というように世界中が疫病でびくびくしているドサクサに、トランプ大統領閣下がなにやら怪しい動きを見せています。あるいはウィルス対策が上手くいかない苛立ちのせいでしょうか。あちこちにチョッカイを出して火ダネを作っているように見えます。大統領選挙もあるからですかねぇ。

エンタメ業界とは縁も薄くない閣下だけに、ぜひともこんな映画を観てもらって、それこそ「自粛」をうながしたいところです。

【こんなことが起きるかも】←5年前の記事ですが、いまでもこの危険は存在しているんです。

と、閣下におススメするために、自分でも観なおしてみました。ちょっとひさしぶりです。

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なんといっても目立つのは、異様に長いタイトル。ここのタイトルでは省略して書きましたが、フルネームだと「博士の異常な愛情または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」 昔はこれを暗記して喜んでいたもんです。

いかにもスタンリー・キューブリック監督らしいシャレの効いた原題「Dr. Strangelove or : How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb」ですが、これを逐語訳の邦題以外は認めなかったあたりが、またキューブリックらしい。

おいおい「Dr. Strangelove」を「博士の異常な愛情」って逐語訳じゃないでしょ。でもこれはこれでシャレが効いてるし、座布団2枚くらいあげてもいいけど。

ちなみに、こういう無駄に長いタイトルの映画ってのはほかにもあるもんで、「マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺」(原題:Die Verfolgung und Ermordung Jean Paul Marats dargestellt durch die Schauspielgruppe des Hospizes zu Charenton unter Anleitung des Herrn de Sade)とか「ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう」(原題:Everything You Always Wanted to Know About Sex* (*But Were Afraid to Ask))とかあります。「マイドク/いかにしてマイケルはドクター・ハウエルと改造人間軍団に頭蓋骨病院で戦いを挑んだか」なんてのもあるけど、これは原題がDeath Warmed Upだけなので、長いのは邦題のみみたいですね。

これらの作品が凝ったゲイジュツ映画だったり、しょうもない駄作だったりするのにくらべると、「博士の異常な愛情(以下略)」はずっと大規模でちゃんと作られたエンタメ作品です(個人の感想です) タイトル以外は、あんがいフツーのサスペンス映画。

いま観ても、豪華なキャストがその象徴。

基地にいて巻き込まれる英軍将校、アメリカ大統領、ストレンジラブ博士と一人3役を演じるピーター・セラーズ(当初は4役の予定だったとか。なんでそんなことになったんだろう)をはじめ、タカ派将軍役のジョージ・C・スコット、狂った基地司令役のスターリング・ヘイドンら、クセの強い演技派が並んでいます。

私のイチ推しは、爆撃機の機長で、その名もキングコング少佐を演じるスリム・ピケンズ。「ブレージングサドル」でも観たばかりの名傍役ですが、演技そのものはほとんどアレと変わりがないぞ。まあそういう人ですから。

当初はこの役もセラーズが演じる予定だったとかですが、そうなっていたらまったく映画のテイストは変わっていたかも。

名曲「ジョニーの凱旋」に乗ってじわじわと破滅へ向かって進む爆撃機の恐怖は、この人抜きでは考えられないですね。

スリム・ピケンズは、ここまではそれほど目立つ存在ではなかったのが、1964年公開のこの映画を機にヴァリューを上げ、名傍役となっていくのですから、この少佐役は非常に重要な役だったということですね(余計なことですが、Wiki日本語版に出ている写真は、どう見ても別人のものです)

この爆撃機の乗員の一人に名優ジェームズ・アール・ジョーンズがいたのは今回まで気がつきませんでした。「スター・ウォーズ」のダースベイダー卿の声で有名ですが、このころはまだ若い駆け出し俳優でしたね。

ずっとこの映画は金のかかった超大作な気がしてましたが、考えてみたら大規模なセットは、米空軍基地の司令官室、アメリカ政府の危機管理室、それに爆撃機の内部の3杯くらい。飛行シーンは模型での特撮、戦闘シーンはアリモノのフィルム流用が多く、意外に安上がりだったかもしれませんね。

もっとも、凝り性のキューブリック監督のことだから、われわれの目にふれない部分で莫大な予算を食った可能性はありますね。撮り直しのフィルム代とか。

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「博士の異常な愛情または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」Dr. Strangelove or : How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb/1963年/監督スタンリー・キューブリック/脚本スタンリー・キューブリック、ピーター・ジョージ、テリー・サザーン/原作ピーター・ジョージ/出演ピーター・セラーズ、ジョージ・C・スコット、スターリング・ヘイドン、スリム・ピケンズ、キーナン・ウィン、ピーター・ブルほか/95分

原作はもともとのタイトルを「Two Hours to Doom」といいイギリスで1958年に刊行されていますが、その時の著者名はペンネームのピーター・ブライアント。邦訳『破滅への二時間』はそのタイトル、著者名で出ています。その後に「Red Alert」に改題され、映画にクレジットされているのはこちらと本名のピーター・ジョージですね。脚本にもその名前で参加しています。原作にはストレンジラブ博士は登場せず、ずいぶんと雰囲気の違うものですが、彼は映画の完成後に映画のシナリオをもとにしたノヴェライズ版の「Dr. Strangelove」をも書いています。

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『破滅への二時間』Two Hours to Doom/ピータ・ブライアント/志摩隆訳/ハヤカワSFシリーズ

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