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未発売映画劇場「ワンス・アポン・ア・タイム2/黃飛鴻傳・續集」

前にこの未発売映画劇場で見た、決定版・關德興(クワン・タッヒン)による黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)シリーズの歴史的第1作「ワンス・アポン・ア・タイム/黃飛鴻傳

これが大ヒットしたので、そこは世の東西、今昔を問わず、映画屋さんの発想は同じ。さっそく続編が作られる。

ということで、翌年には「黃飛鴻傳第三集:血戰流花橋」が公開された。

前回も触れたように、前作は香港では上集・下集(日本風にいえば前後編)に分けて公開されていた。その下集の香港公開は1949年10月21日なのだが、本作は1950年4月13日にはもう封切られている。ずいぶんな早ワザだ(ちなみになぜ第三集かといえば、前作の上集「鞭風滅蠋」と下集「火燒霸王莊」を1と2にカウントしたから)

これまたテレビ放送時のものらしき全長版がYouTubeに上がっていたので、さっそく拝見。

前2作ではいちおうストーリーが完結していたんだが、そんなことはおかまいなく、「火燒霸王莊」のラストの宴会シーンから、地続きではじまる。

まあ仕組みは前作とほぼ同じ。悪いやつらを黄飛鴻・師父が一門を率いてやっつけるという勧善懲悪モノ……と思ったが、意外なひねりが。

黄飛鴻の一番弟子である梁寬(曹達華〔チョウ・ダッハー〕)がほぼ主役格に躍り出るのだ。

師匠の忠実な弟子だった梁寬が、女の色香に迷い、師のもとを出奔してしまうのが中心ストーリー。おかげで梁寬は破門されてしまう。その間にも、黄飛鴻一門は、前作でも敵役だった他流派と対立抗争をするのだが、それを知りつつも手助けできない梁寬が悶々とするのが物語のメインストリーム。まあこの手の師弟ものでは定石パターンだろう。のちのカンフー映画でも多く見られるし、たいがいはめでたく元の鞘に戻る。

で、今回も、梁寛が改心して師父のもとに戻る感動のシーンが……ない。

そう、この第三集、お話の途中までなのだ。おいおい。

前回よりも露骨に「つづく」 ちなみにタイトルにあった「血戰」は見当たらなかったぞ。

なので、次なる第四集も続けて鑑賞してみた。

こちらは、同じ1950年の4月16日公開……3日しか違わないじゃないか。当時の香港映画の公開形態って、いったいどうなっていたんだろう。逆に興味が湧いてきたぞ。

で、第四集をラストまで見て、さらにビックリ。

黄飛鴻の一番弟子で今回は主役っぽかった梁寛が、なんと死んでしまったのだ!

出奔していた梁寛は、悔い改めて師父のもとへ戻る。だが病を得、しかし体調不良を押して対立陣営との果たし合いへと臨み、その時の負傷がもとで、師父に見守られつつ、息を引き取るのである。

これ、ネタバレじゃないですよ。だって第四集のタイトルは「黃飛鴻傳第四集:梁寬歸天」 「歸天」って、死んじゃうことですからね。「梁寬死す

しかし、梁寬=曹達華といえば、この黄飛鴻シリーズのレギュラーで重要なキャラ。言ってみれば、水戸黄門の助さん(か格さん)あるいは子連れ狼の大五郎、西遊記の猪八戒みたいなもので、欠くことのできない存在のはず。

それが、死んでしまうんだから、唖然である。

しかも梁寛の死のあと、師父・黄飛鴻の痛恨の表情で、映画は終わってしまったのだ。

はい、じつはこの後、さらにお話は第五集「黃飛鴻傳 大結局」へと続くのである。これは見てみなければ……と思ったが、この第五集、いまのところ見ることが出来そうもない。ソフト化はもちろん、ネット上にも動画のひとかけら、写真のひとつも見つからないのである。これは困った。

なので推測になるが、その後の展開は、たぶん師父が梁寛の仇を討つのだろう。で、めでたしめでたし、なのかな。

そして、シリーズは続いてゆく。

これまでの諸作と同じく、關德興=黃飛鴻の主演、そして胡鵬の監督で1953年に第6作「黃飛鴻一棍伏三霸」 、そして1954年には「黃飛鴻初試無影腳」と「黃飛鴻與林世榮」が作られているが、そこには「曹達華=梁寬」のクレジットはない。どうやら、ほんとに梁寛抜きでシリーズは続いていたようだ。

その間の1952年に曹達華の主演で「黃飛鴻血染芙蓉谷」という作品が作られている。監督は胡鵬だが、關德興は出演していない。これ、別タイトルで「梁寬外傳」とあるので、どうやら梁寛を主役に据えたシリーズ番外編、今ふうに言えばスピンオフみたいなものらしい。そんなものが作られているところを見ると、曹達華の梁寬はけっこう人気があったんだろう。

(この広告には「上集」とあるが、どうも「下集」はよくわからない)

そんなこんなで、やっぱり梁寛が必要だねとなったのか、こうした諸作を経た1955年に「黃飛鴻正傳」が公開され、そこでは再び、關德興=黃飛鴻と曹達華=梁寬の組み合わせが実現しているのだ。

どうやら、ここでいったんシリーズがリセットされたようだ。つまり、第四集での梁寛の死は「なかったこと」になったんだろう。

そしてこれ以降、1980年の「黃飛鴻與鬼腳七」に至るまで、シリーズはこのコンビで続いていくのである。

長い長いシリーズでは、途中で配役が変わったり、ストーリーがリセットされるのはちょくちょくあること。「最長シリーズ」としてギネスに登録されたこともある黄飛鴻シリーズだけに、そんなことがあっても不思議ではないが、その初期にこんな経緯があったのもまた興味深いね。

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