見出し画像

ヒッチコック・カーニバル

何を思い立ったのか、NHKのBSでやたらとアルフレッド・ヒッチコック監督の作品を放送しています。いいぞ、もっとやれ。

外出自粛映画で観た「サイコ」の翌週には「めまい」、ついで「引き裂かれたカーテン」「ハリーの災難」とつづいています。

あれれ、このまま全作品放送に突っ走るのかい? いやいや、じつはその前にもチョコチョコ放送していたようですが、いままで気づかなかったなぁ。

まあ40年近く前の映画青年としては、ほぼ観たことのある映画ばかりなんですが、考えてみたらその後にあまり再見していなかったですね。

誰しも知るように、ヒッチコックといえばサスペンス。その作品のほとんどは犯罪スリラーなのだから、ほんとは私の大好物なはずなんですが、この空白はなぜなんだろう?

ちょっと反省してみたんですが、答えは「たまたま」しかないようです。

実際、今回観た諸作も面白かったし、特に不満を述べるようなものではないですからね、ヒッチコック先生。

画像3

うん、まあ、いちばん大きいのは「もう観たし」でしょうね。

私が映画を観始めたころは、すでにヒッチコックは大巨匠(亡くなった直後くらいだったかな) ほどなくして、あちこちの配給会社が次々とヒッチコック作品をリバイバル公開し、また日本未公開だった初期の作品が上映されたりしてその主要作品のほとんどが映画館にかかっていました。

そのころはマジメな映画青年だったので、せっせと観に行きました。

そう言えば当時、なぜかなかなか映画館に(名画座でも)かからなかったのが「サイコ」でした。だから私は、ようやく「サイコ」にたどり着いたころには、そのどんでん返しを知っていたようなわけです。 →【こちら参照】

そんなわけでご無沙汰していたヒッチコック作品にひさしぶりで浸っていたのですが、そこでこんなものがあったのを思い出したりして。

画像2

ヒッチコック作品5本組のボックスです。おまけに完全未開封。高く売れるかな?(笑)

NHKさんの放送が終わっちゃったら、これを開封しようっと。

さてそんなことを思わされたNHKのヒッチコック大会ですが、じつはその間にもう一本、見逃しがたい作品がありました。

ビリー・ワイルダー監督の「情婦」1957年のモノクロ作品です。

画像3

邦題に問題アリの映画ですが、原作はアガサ・クリスティーの戯曲『検察側の証人』(なぜ邦題が問題なのかは言えません)

これ、ご存知の方も多いのでしょうが、ミステリ映画の傑作です。

再三書いているように本格ミステリ(パズラー)の映像化は非常に難しいのですが、この場合すでにクリスティー本人が視覚化しているのですから、その点は大丈夫(もちろん、ワイルダー監督の脚色演出、出演者たちの名演も見逃せません)

未見のかたは、ぜひ一度どうぞ。

というところでふつふつと湧き上がるのが「なぜクリスティー+ヒッチコック」の映画がなかったのか?」という不満。

ヒッチコックが監督稼業をしていたのは1926年の監督デビュー作「快楽の園」から1976年の遺作「ファミリー・プロット」まで。いっぽうクリスティーが作家として活動していたのが、「スタイルズ荘の怪事件」でデビューした1920年から死去する1976年までだから、ほぼぴったりと重なっています

この間、クリスティー作品は多くの映画になり、一方ヒッチコックも、多くのミステリ小説を映画化しています。ベロック=ローンズの「下宿人」をはじめ、ジョン・バカン「三十九階段」、サマセット・モーム「間諜最後の日」、 ジョセフ・コンラッド「サボタージュ」、ジョセフィン・テイ「第3逃亡者」、エセル・リナ・ホワイト「バルカン超特急」、ダフネ・デュ・モーリエ「レベッカ」、 フランシス・ビーディング「白い恐怖」、パトリシア・ハイスミス「見知らぬ乗客」(脚色はレイモンド・チャンドラー)、ウィリアム・アイリッシュ「裏窓」、ボワロー&ナルスジャック「めまい」、ロバート・ブロック「サイコ」、などなどなど。

そもそもヒッチコックもクリスティーもイギリス人であり、同時期にともに人気があるクリエイターで、しかもこれだけ長いキャリアを持っていたのだから、どこかで一度くらい交差してもよさそうなものですが……

クリスティーにはスパイ小説やサスペンス、あるいはホラーに近い小説まであるのだから、ヒッチコックの興味を惹かなかったはずはないと思いますよ。

クリスティー作品の映画化権が高額となっていくのは1970年代以降だから、金銭の問題ではないでしょうね(ヤマ師っぽいハリー・アラン・タワーズですら映画化権を獲得できたのだから)

まあ単なる「縁」の問題なんだろうな。

でもたとえば、ヒッチコック監督版の「そして誰もいなくなった」とか観てみたかったよなぁ。

さてNHK・BSではつづいて「マーニー」も放送されるし、考えてみたらヒッチコック作品はまだまだ山のようにある。今後に期待しましょう

映画つれづれ 目次


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?