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外出自粛映画野郎「ああ爆弾」

大学生のころ、いまはなき(ないよね?)五反田東映シネマで「独立愚連隊西へ」を観て以来、ずっと岡本喜八監督作品のファンです。もう主だった作品のほとんどを観ていて、かなりの作品をDVDで持っているのですが、未見の作品が残り少なくなってからは、もったいなくてなかなか観られないくらい好きです。

さてそんな喜八監督の作品群のなかで、1960年代の諸作は傑作ばかりなのですが、なかでも「殺人狂時代」とならぶ異色中の異色がこの作品。

1964年に公開された「ああ爆弾」です。

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ええと、文芸地下で見たんだっけな。初見の時は「原作はコーネル・ウールリッチの短編ミステリ」くらいの予備知識しかなかったんで、ぶったまげました。なにしろ和製ミュージカルですから。

今回ひさびさに観なおしたんですが、いま観ても、けっこうインパクト強いですね。

原作短編「万年筆」からは「爆弾仕込んだ万年筆が人から人にわたってゆく」部分が使われているだけですが、私はこのウールリッチという作家の短編はたいへん好きなので、それもこの映画の評価が高くなる原因のひとつ。ちなみに私が生まれて初めてちゃんと読んだミステリ小説は、このウールリッチの『黒いカーテン』の児童書版だったりもするのです。

もともと喜八監督はこの作家が好きで、かつてどこかのインタビューで「ウールリッチの『睡眠口座』をやりたいんだよね」と発言していました。なので私はずいぶん期待したのですが、1979年に「夢一族/ザ・らいばる」として映画化されてしまったので、けっこうガッカリしたものです。

喜八映画といえば、快調に刻まれるリズムこそが、その背骨。これも喜八監督がインタビューで「編集の時にはコマ数を数えてリズムを作る」などと語っていました。

ですが、私が観てきた名画座での上映では、フィルムの損傷が多くてけっこうブツ切りになっていました。それではリズムも乱れるし、作品の真骨頂を味わえたとはいえないんですが、それでも面白かったんだから凄いものです。

「ああ爆弾」はレンタルビデオの時代にもなかなかビデオ化されず、その後の販売用ソフトはけっこう高価だったので、私はDVDの時代になるまで再見する機会があまりありませんでした。

考えてみたら、ようやく手にしたDVDで、ようやく完全な形に近い「ああ爆弾」を観たことになります。ありがたやありがたや

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その後、何回も観ているわけですが、そのたびにこの映画に魅了されてきました。劇中で使われるこの歌なんか、いまでも時々口ずさみます。

 松原とうちゃん 消えゆくかあちゃん

 とうちゃんとかあちゃんでケンカする

 とうちゃん得意の空手チョップ

 かあちゃん得意のハンマー投げ

 見よ このケンカ 見よ このケンカ

さてこの映画、けっこうロケ撮影が多いようなのですが、あれどこの町なんでしょうか? 東宝の撮影所があったか、成城あたりの町なんでしょうか。だとしたら、私も少々住んだことのある町なんだけど、よくわからないですねえ。町並みも変わってしまったから、いまとなってはもうロケ地めぐりもできないだろうなぁ。

気分もふさぎがちな自粛生活ですが、喜八映画のような心楽しくなる映画をぜひとも観たいものです。

「ああ爆弾」(1964年/岡本喜八監督・脚本/伊藤雄之助、越路吹雪、砂塚秀夫、中谷一郎ほか/95分)

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原作の「万年筆」はウールリッチの短編集『ぎろちん』(早川書房)に収録されていますが、現在は古書でしか入手できないのが残念ですね(稲葉明雄訳)

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