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外出自粛映画野郎「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」

「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」は、1987年に製作された(日本公開は1989年)香港ファンタスティック映画の最高峰の一本ですが、いま観てもまったく古さを感じない作品ですね。

ま、そりゃそうでしょう。

そもそもこの映画は、中国・清代に成立した怪奇小説集の古典『聊斎志異』の中の一編「聶小倩」を原作とした時代劇なんですから、いまさら古くなりようもないですね。

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旅の書生ツォイサンが一夜の宿を求めて古寺にとまると、そこにどこからともなく美しい女性シウシンが現われる。一目で恋に落ちる二人だが、じつは彼女は1年前に死んだ幽霊。悪逆な妖怪に支配されて犠牲者を探していたシウシンは、なんとかツォイサンを逃がそうとする。一方で寺に住むイン道士は彼女もろとも妖怪を滅ぼそうとするが……

貧しい書生と、美女の幽霊の悲恋を描いたというと、ロマンチックな物語を連想しそうですが、とんでもない。

恋路を邪魔するグロテスクな妖怪と、妖魔退散を生業とする道士のファイトがたっぷり詰め込まれ、ほとんどホラーアクション映画になっています。

香港アクションの伝統芸であるワイヤーワークを駆使して、幽霊も人もバンバン宙を飛ぶし、ストップモーションアニメやギニョールで描き出される妖怪どももたっぷり見られるなど、要するに「甘っちょろい恋愛映画」を予想して観ると、ビックリします。30年前に最初に観たときの私がそうでしたからね。

いっぽうで、当時も今も心に残るのは、書生を演じたレスリー・チャン(張國榮)と、幽霊役のジョイ・ウォン(王祖賢)の、ため息が出るような美しさでしょう。ことに、台湾出身のジョイ・ウォンはこの一作でトップスターに上り詰めたのですから、その美しさはまさに全盛期。一度見ておいて損にならない美しさですね。

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いま観ると少々心が痛むのは、若き書生を演じたレスリーが、もはやこの世に存在しないから。

この映画以前に、すでに「男たちの挽歌」(1986年)などで人気のあったレスリーですが、この一作で完全にブレイク。その後、引退騒動もあったものの復帰し、「さらば、わが愛/覇王別姫」(1993年)などで国際的な名声も獲得しています。ところが、2003年に投身自殺でこの世を去ってしまったのです。

「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」は、愛した幽霊との今生の別れを悲しむ彼の姿で終わるのですが、その彼が早逝したことを知った今では、なんとも意味深に見えるものですね。

ちなみに、ジョイ・ウォンのほうも近年はその姿をスクリーンで見ることはありませんが、彼女は2001年に引退しカナダに移住しています。

彼女の人気ぶりは、50本近くある日本公開または発売作品のうちで、邦題に「ジョイ・ウォン」の名を冠したものが10本ほどもあることでもわかりますね。「ジョイ・ウォンの時空伝説」とか「ジョイ・ウォンの 聖女伝説」とか「ジョイ・ウォンの紅い愛の伝説」とかね。伝説が多いな。ま、ほとんどはビデオ発売のみなんですが、それくらい彼女の名前は香港映画ファンの間では絶対的だったということでしょう。

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敢えてこの映画に文句をつけるとすれば(いや他にも瑕瑾はけっこうあるんですが)イン道士を演じる名優ウー・マのメイク。上のジャケット写真の右端のヒゲ親父がそうなんですが、このふさふさの顎髭がいかにもツケヒゲなんですよ。これくらいなら、ヒゲなしのほうがマシだったのではないでしょうか。彼の演技やアクションは素晴らしいだけに、なんとも惜しい!

その後シリーズ化されて続編ができたり、アニメになったり、リメイクされたりもしていますが、やはりこのオリジナル第1作にはおよばなかったようです。

「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」 1987年/原題:倩女幽魂(
A CHINESE GHOST STORY)/製作ツイ・ハーク/監督チン・シウトン/脚本ユエン・カイチー/出演レスリー・チャン、ジョイ・ウォン、ウー・マほか

最初にこの映画を観たころから、いつか原作の『聊斎志異』を読破しようと思っているのですが、いまだに果たしていません。この自粛期間にチャレンジしてみようかな。

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