美しい物語を創り出そう!

2011年4月。
東日本大震災と福島第一原子力発電所事故により、日本中が重苦しい空気に覆われていた、その最中。NPO法人ハイテンションは、音楽とアートで地域福祉をデザインしていく事業所を、こっそりスタ-トさせました。
<こっそり>と敢えて書いたのは、まさに言葉通りで、夢や希望を大声で叫ぶのがはばかれる空気が、当時、人々の中に、あまねく蔓延していたからです。想像を絶する破壊を前に、この現実をどう受け止め、どう対応していったら良いものか、誰もが口を閉しうつむくばかりでした。音楽やアートの出る幕など全くなく、そのような行為は自粛するべきとの声が、大多数を占めたのです。しかし、ハイテンションは、音楽やアートがもたらす楽しさを、自粛せず、わずか数人の仲間たちと、こっそり始めました。なぜかと言えば、あまりにも明快ですが、他にやりたいことがなかったからです。
歌うことが描くことが、この非常事態に対して、即効性のある解決手段だと
信じていたわけではありません。
ただ、この時期に湧きおった、
夢と希望の胎動を止めたくなかった。
日本中で、唯一、この場所だけでも、
ハッピーな種火を灯し続けていよう!
そんな内なる衝動に駆り立てられ
太鼓を叩いたりダンスしたり絵筆をとり始めました。

あれから丸１０年。

あの時に、こっそり灯った種火は、
その勢いを絶やさず燃え続け、
その暖を求めて、たくさんの方々が、
ハイテンションに集まってくださいました。
その方々と創り出した美しい物語を、
今ここで記したら、それだけでもう紙面が尽きてしまいます。
(それはまた、別の機会に〕

そして、2022年4月。

NPO法人ハイテンションは
福祉事業所<カムカム!>を、新たに開設しました。
皮肉なことに、今回は、
コロナ禍と悪夢のような戦争勃発という、
日本国内はもとより世界中が絶望に打ちのめされる
その真っ只中でのopenです。
なんということでしょう・・・振り出しもどったどころか、さらに悪い方へ、世界は転がり落ちてしまいました。
我らがハイテンションは、よくよく巡り合わせが悪いとため息まじりに苦笑してしまいます。と同時に、

何やらとてつもなく気高いミッショを託されたような気がします。

<さあ、10年前と同じように、とびきり明るい歌や絵画を今度は、こっそりではなく、堂々と拡げておくれ!絶望が深まれば深まるほど、夢と希望の濃度を誰かが高めてくれないと、世界はほんとうの闇につつまれてしまう>

そのような声が聞こえてきます。
その声に、私たちは、応えます。

<わかりました。
  私たちがそれをやります。
  でも10年前と違うのは、他にやりたいことがないからではなく
  どんなときでも、夢と希望が、美しい物語をもたらせてくれることを
  私たちは、何となくじゃなくて、この心と体で知ったからです。

  世界は完成図の無いジグソーパズルのようですね。
  私たちは、10年前よりも、たくさんの仲間たちといっしょに
  平和<Peace>な断片<Piece>を拾い集めて
  美しい物語の一場面のような絵を
  みんなでワイワイ歌いながら、創り上げていきます>

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この記事を書いた人

かしわ哲
NPO法人ハイテンション代表。1950年6月9日東京生まれ。1981年4月より、NHK「おかあさんといっしょ」に5代目うたのおにいさんとして出演。「きみのなまえ」・「すずめがサンバ」・「ブー！スカ・パーティー！」など番組内で歌唱される楽曲の作詞・作曲も手掛ける。1991年、講談社青い鳥文庫『アイシテル物語』で作家デビュー。
1994年、知的障がい者と共にロックバンド「サルサガムテープ」を結成。1996年には同バンドでスウェーデンでの海外ライブを実施。1997年、著書『あったかさん』で第1回報知ドキュメント大賞を受賞。
2011年、神奈川県厚木市に福祉事業所・NPO法人ハイテンションを設立。2016年11月　AI　presents「みんながみんな主役 Night」で念願の日本武道館ライブを実現。現在も「福祉×ロックンロール」な現場の第一線に立ち続けている。