見出し画像

#37. 「英語」と言っても色々あるので


先日ふっとこんなツイートが TL に流れてきた:

一般的に教わるような英単語だとか英語表現に対して、「ネイティヴはそんな単語つかわない」とか「もうそんな言い方いまはしない」とか「だから覚えても意味ないよ」みたいなことを言う人はたくさんいる。

もちろん、そういう人たちもただテキトーに言っているのではなく、多くの場合は、自らの留学経験だったり、英語圏における滞在経験をもとにしてそのような発言をしているのだろうけれども、

やはりそのような意見は、参考にはしても、あまり鵜呑みにしない方がいい。

理由は(上のツイートでも示唆されているように)「『ネイティヴ』とひと口に言っても、そこにはさまざまな国や地域、世代、人種、社会階級、教育レベルなどのバリエーションがあり、『ここでは使われない/あの人たちは使わない』からと言って『ネイティヴは(だれも)使わない』とは言えないから」である。

たとえば、1 年や 2 年アメリカに留学していた人が、その間一度も耳にすることのなかった単語や表現を、「ネイティヴは使いませんよ」と言ったとしても、

それは、たまたまその 1, 2 年の間にそれを使う状況がなかっただけかもしれないし、話し相手が「これを使っても理解できないだろうな」と手加減していたから聞かなかったのかもしれないし、もしくは現地で属していた若い世代はまだ使わないような「大人の英語」だったのかもしれない。

それに、万が一本当にアメリカ人にはほとんど使われないような言葉や言い回しだったとしても、「イギリス人は使いますよ」みたいなことはザラにある。(「イギリス」のところを、アイルランド・カナダ・オーストリア・ニュージーランドなどに代えても同様)

次の動画では、アメリカ人が理解できないイギリス人の使う日常表現(chin wag, chuffed to bits など)が取り上げられている。

ここで挙がったイギリス人の表現を、アメリカで英語を学んだ人が「ネイティヴはそんなの使いませんよ」などと切り捨てたとしたら、それは乱暴だろう。

倒置や強調構文といった文法や、英検一級レベルの語彙なども、「使われない意味のない英語」として挙げられる筆頭格だが、

倒置や強調構文は、英語で書かれた本を読んでいると本当によく出てくるし、英検一級レベルの語彙も、(書き言葉では言わずもがな)ポッドキャストで聞かれるような雑談レベルの英語でも頻繁に登場する(というか、なんなら一級レベルの語彙力があっても、知らない単語はポンポン飛び交う)。

「有害な,弊害をもたらす」という意味の detrimental も、おそらく英検一級かそれ以上のレベルとされる形容詞だが、こういう単語でもふと曲の歌詞に出てきたりするのであなどれない。(下の動画は Carly Rae Jepsen の This Kiss。1:18 のあたりで "You make so detrimental" と歌っている)

繰り返しになるが、国や地域、世代、人種、社会階級、教育レベル、また「話し言葉か書き言葉か」などによって英語はかなり異なってくるので、その全てを代表しつつ「そんな英語は使いません」と言い切れることなどほとんどない。

その言い回しや単語が、本や単語帳に載っている以上、たとえどこかの誰かが「使わない/知らない」と言ったとしても、「それはその人の界隈だけの話かもしれない」「実際には広く使われているかもしれない」、あるいは「頻繁には使われないが、状況によってはよく使われるのかもしれない」という風に想定するのが妥当なように思われる。

以前ある本で、人間は「何かが少し起こると、氷山の一角を見たと思い、それがよく起こることだと信じてしまう」ということを読んだが、これはそういった幻想の逆パターンと言っていいだろう。

自分の周りで聞こえないことは、そもそも存在しないものだと思ってしまう。

その「周り」というのがいくら小さなコミュニティだろうが、またそこに属していた時間がどれだけ短期間だろうが、そういったことはあまり加味せず発信する人は少なくない。

だから、「そんな単語/表現、ネイティヴは使いません」という文句をどこかで見かけたら、「それはあくまで、その発言者が英語を学んだ国や地域や年齢層に限った話かもしれない」ということを、常に念頭に置いておく方がいいだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?