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嗤う繊月  ④

今度こそ、現れる霊の話


そうだな。トンネル霊。トンネル霊。まーた、そんな怒ったように言わないでくれるか。

トンネルには最近不気味な現象が起こってると、役場に電話報告がよくかかって来るんだ。

なんでも……「うめくような不気味な声が、トンネルの奥から響く」「女の霊が現れる」「半身しか無い女が這いつくばって後ろから来る」……

てけてけさんやひきこさんの二番煎じみたいだな、とその顔は思ってるな!思った、思った、俺も思い浮かべた。

いつかどっかで聞いたことのあるような懐かしさがジワリと滲み出てくる話。そう、ランドセルを背負ったあの日に。

トンネルは怖ぁいもんなぁ。
いるだけで怖い。あるだけで怖い。

何で怖い?それはね、赤ん坊が初めて世の中に這い出るあの空間を無意識の記憶が呼び覚ますから!


つまり放送禁止用語の空間なんだよな。
「あそこ」は。

はぁ……、すいませんね。

そんな睨まないでも……。


たむろする暴走族連中のいたずらでは?

そう…………疑うよねー。ははははぁ。

………………はぁ、これは実際にそのトンネル霊を見た人の話だ。


雑草が生い茂るトンネルの入り口。
#佇立__ちょりつ__#する、真っ暗の底知れぬほら穴。どういうわけか、友人に連れられてここまではるばる肝試しに来てしまった東京在住の高校生の女の子は、恐る恐る、このトンネルに足を踏み入れたそうだ。しかも夜になって。

今も夜だけどね。


友達は携帯のライトを持ちつつ、女の子の手を引いて、おじける女の子を励ますように……。


ポンポン

びくっ 

肩を叩かれた女の子は思わず友人を見る。


「心配しないでも、突き当たりに当たったらすぐ帰るんだから」

明るく、笑って声をかけてくる友人。


女の子は、ほっと胸を撫で下ろし、安心する。彼女は、信頼している友人だから。

トンネルの中はうるさいくらいに足音が反響しあって奥まで響いてねぇ。


まるで、本物以上に長い距離を歩いているように女の子に錯覚させた。

言い知れぬ圧迫感と緊張が心の臓を遅く締め付け、洞内を満たすどこにも流れていかない、滞留し澱み切った空気がビリビリと感じられる。まるでミリアンペアの電流が、トンネル内を流れて自分の心臓と繋がっているかのように。
体内のオーム値が一瞬跳ねあがっては、湿り蒸した空気と汗ばんだ肌によってすうぐ小さくなってしまって……。


女の子はトンネルの奥へと進んでいるはずなのに、気持ちはトンネルの入り口へと、負の加速度的に帰りたがっていた。

ポンポン

びくっ 

「心配しないでも、トンネルの向こうは別世界よ」


明るく、笑って声をかけてくる友人。


トンネルの中は一部ひび割れていて岩肌が剥き出しになっている。
おいおい、崩落してしまうんじゃ無いのと、女の子は益々緊張を果たした。


おかしいなぁ。こんなに長いのかな……。女の子は歩きながら段々心配になってきた。
思ったより、随分歩いている。


トンネル中の景色も入り口の辺りからとは大分違い……段々、素掘りのトンネルのような岩そのままの壁面に変わっていた。


そうさなぁ。
トンネルの内部形状も、近代的な弓張り状のドーム形状の天井ではなく、五角形の、「観音掘り」形状になっている。天井が尖っている、将棋の駒のような形。

これはまぁるで……明治時代や、大正時代に出来たトンネルじゃ……。

そして雑草があちこちに生えてるんだよ。ひび割れた土から顔を出して。

いくら閉鎖トンネルといえども、現代技術で作られた何層構造にもなるはずの設計のトンネルになぁ、そんなのあるか?


高まった不安を察したように

ポンポン

びくっ 

「心配しないでも、トンネルの向こうに抜ければ、いっぱい人が待ってるわ」


明るく、笑って声をかけてくる友人。


………………そして、気付いたんだ。さっきから反響して複数のように聞こえていた足音は、よく聞いてみたら、足下から鳴ってる足音が一足しかないって。


自分の足音しか鳴っていなかった。


女の子の手を引っ張っていたのは当然友人じゃなかった。…………目は赤々しく、顔全体の皮膚が剥がれて爛れていた女に、腕を掴まられていた。


「逝きましょう……向こうに……トンネルを抜けて……」


どうしてもトンネルの向こう側に連れて行きたいようだった。

既に死出の道へと、トンネルの中は変わってしまったのかもしれない。


女の子は、女を突き飛ばし、慌てて入り口まで走るが、女はトンネルの中をトカゲやヤモリのように、半身のみの体で這って、追いかけてくるんだ。

とても早く。

必死で、走る女の子……。


途中で、友達が意識を失い倒れているのを発見した。
慌てて頬を殴り、叩き起こして一緒に走る。
そうこうしている内に女は目と鼻の先まで来た。


「キャアアーーー!!!」

やっと出口まで、走り抜けられた。


抜け出たトンネルを振り返ると誰もいない。


ホッとして友人の顔を見ると、友人は恐怖に震えた口唇で、トンネルの中を指差してこういう。

たくさんの顔が浮かんで、手招いている…………と。




トンネルの向こうとは(R15)



………どういうこと?おお、そんな顔をして。
女の霊の正体は?たくさんの顔は何?

そう言いたげだなぁ。はぁ。


ヒントはぁ、2つあるんじゃない。

一つは、女の霊の顔。

真っ赤な目をし、顔は爛れ……。

これは、火傷死だろうな。

もう一つ、半身がないのは、崩落事故か車の事故だろうな。
でも……古いトンネルの時代だな。多分死んじゃったのは。じゃあ、崩落だ。

崩落のショックで、可燃性ガスが発生して、坑内大火災のようになったんじゃないかぁ。

女の霊は犠牲者だ……。


それとなぁ。沢山の顔はさ。

このトンネル、今は閉鎖されてるけど、昔はある村まで通り抜けられたんだ。

もうそこの村は無いんだ。

訳あって、ダムの底になってる。
150戸の集落が水没し、ここら一帯の大事な貯水域になってるよぉー。

彼らは仲間を欲しがってるんだなぁ……。


はははぁ。辛気臭い話になってきた。


この話、これがこのトンネルの大まかな心霊現象だ。後の報告も、似たり寄ったり。

よおし、じゃあ、あんたに頼みたいことがある。
このまま二人でもう一度、トンネルに入ろうじゃないか。


……そんなにぃ、ビビッちゃってぇ、まあ。

上司への報告書に「二回に分け、トンネル内部の状況調査に及んだものの、報告にあるような不可思議な異常事態は認められず」と書いて安心させなきゃならない。

何?一人で行けよぉ?

ここまでぇ、話に付き合っといてぇ、そんなつれないのは、ないんじゃないか?

選択肢


⬜︎トンネルに随伴する  →次話に飛ぶ

⬜︎吉岡の嫁探しの相談に乗ってあげる  ↓下スクロールして進む






?そうだ。
んんん?何で俺が婚活してることを、……あんたは、知ってるんだ?

んんん?


確かに、最近、結婚相談所にWeb登録したよ。
入会金、15万円取られて。
はぁ、あんなもんに、高い金かけるだけ無駄だって?

はははぁ、一理ありだなぁ……。確かに、いい女が一人もいないんだ……。写真に載るのはタコやヒトデの魚介類ばっか。
もう、婚活遭難中だ。

なぁなぁ、なぁ……。姉ちゃんはいない?女友達は?妹は?手っ取り早く、結婚したがってるいい女いない?


山も土地も畑も持ってるよ。

俺一人じゃどうにも管理なんかできやしない。早く結婚して、面倒な管理は妻にやらせ、安心して、役場仕事だけに専念したいんだ。

なんだってぇ?
あんたのような男に紹介できる女はいないぃ?
いい女なら尚のこと、紹介したく……ない?

…………俺に一生独身で、死ねと言うんだな?

━━━急に男の瞳の色が変わった━━━


俺に一生精子を使わせず、玉を枯れ果てさせて死ねというんだな?

ほほーん。ほう。ほう。ほー。ほーう。
そんなに俺に精子を使わせたく無いとはね……。
俺の玉に、じゃあなんか、何か、怨みでもあるのかぁ?

そんなに使わせたく無いなら、あんたん中に使ってやるよぉ!!!

━━━男は物凄い形相で、襲い掛かってきた━━━


いい肌してるじゃないか……男の癖に……。吸い付いてやる……。吸いまくってやる……。


うおおっ。男の肌を舐めているのに、ずっと誰にも使えてない俺のあそこが、喜んできているよ。

これもしかすると、あんたと相性良いんじゃないのかぁ??

試してガッテン!

前をいじりながら入れてやるから怖く無いだろぉ。

何?怖い?やめてくれ?

俺に女を紹介しないからだ!!

山村集落嫁不足の悲哀を体に八つ当たりされろ!!


おおぉーっ、吸い付いてくる吸い付いてくる。
きっついな。

ギュウギュウくるな。

何?病気が怖い?

あー、大丈夫、大丈夫。コンドーム付けてるから。


ウッソぴょん。中に出すぴょん。

もし俺が病気ならごめんぴょん。


暴れるなよ!せっかく中に出そうとしてんだから!!

ハァハァ、ハァ。


あー……締め付けてくる。

あぁー。いいわこれ。


まわりのシワシワが生き物のように動いてる。


たまらんっち。


腰が勝手に動くわぃ。


いやぁ、イイな!


もう、女じゃなくてイイな!男でイイなっ!

決めた、もう、あんた。嫁代わりになれ。

ウチに連れて帰って、これからは……やりまくる!


もう挿入日照りとはおさらばだ!!

はははぁ。あんたのトンネルを掘削して精子ダムの完成だぁ。


━━━……二度とあの家に帰れなくなってしまった━━━


吉岡智弥END 「結びついたご縁 ~ゼクシィは精子ィ~」



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