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嗤う繊月 ③
乗り過ぎ注意
あの女将かぁ。
多分……人間なんかじゃあ……ないですよね。
だって!人間なら、大人の女二人を掴んで、手早く立ち去れますか?
癇性な性格といい、初めから人間世界に紛れ込んだモノノケの類だったんでしょうね………。
ほら、旅館は、山の中にあるんだから。
人間に化けた何者かと誤ってうっかり結婚しちゃった末路なのかもね。
姿形だけは化けても、人間世界に馴染むのは色々ストレスだったんだねという話ですよ。これ。
…………おや。そうこう話してる内に、もうすぐ、あなたの降りるバス停ですよ。そろそろ。
さっさと降りないと乗り過ごしますよ。
はい。さよなら。また、お会いしましょう。
また?変なことを言うねって?……ふふふ。
→閑話を挟んで第2章へ続く
閑話 トンネルにて
…………昨日出会した男から聞いた奇怪話には、何とも面食らった。
いいや、話をした、あの男そのものに面食らったんだろう。
何とも異様な……面妖な……雰囲気がしたからだ。
まさか、バスの中でいきなり怪談話を隣り合わせた人から聞かされるとも思っていなかった私は、それでも話に不思議な吸引力を受け、男の語りにいつの間にやら惹き込まれていってしまっていた。
いつしかバスは降車しなきゃならないバス停に着いていて、降りて、私の足は家に帰り着いた。
私一人のこの家に。
古民家が流行りだというが、私の家は正しく古民家だ。
屋根なんか、ガルバリウムでも、瓦でもなく、茅葺きだ。
築100何年になるだろうか。外観から受ける文化遺産価値は贔屓目に見ても高く、取り壊すには勿体なさが生まれる。
それでか、中々手放せずにいる。
かといって高く売り払えるような資産価値は無い。
両親は私が成人し、大学卒業すると共に、一挙に仲良くあの世に旅立ってしまい、それからは一人寂しくこの家で暮らしている。
茅葺き屋根の家は、夏が過ごしやすく、冬は隙間だらけでとても寒い。
灯油ストーブをいくつも一気に点け、やり過ごしている。
ここらへんは夏でもコタツを入れるなんて当たり前の気温の地域だ。
冬なら尚のこと、身に沁みる寒さが体を覆う。
リフォームも、葺き替えもかなりの高額がかかる。
もうそろそろ茅葺きはやめて、瓦にでも取り替えなきゃならないし、家のあちこちだって改修工事が必要になる。
いや、いっそ、この家は手放さなきゃならないのに、どうしても、中々手放せないでいる。
理由は…………。
私はどうして、未だにこの村を、離れないんだろう?
この過疎が進んだ空洞のような村。
昔は人がまだまだ住んでいた。
過去の懐かしさをこの限界集落に私は引きずっているのか……。
それとも、両親の思い出か。
自分自身でも、定かでは、なかった。
今日は仕事がないため、麓の町には向かわなくていい日だった。
雨も降っておらず、いい天気だ。
そうやって気を抜くと、雨は簡単に降り出し始めるのも、この辺りの特徴的な山の天気だ。
顔を洗い、家の外に向かった。
誰が管理しているのか、間違いなくそいつは老人であろう、田んぼや畑をくぐり抜け、私は裏山へと向かう。
里山の景色の中、農道を歩き、山へと向かう。
裏の山の野草を採り、野菜炒めのように炒めるためだ。
なずなやつくし、ヨモギ辺りを採りたいが、季節のため今の時期は採れないだろう。
ミゾソバやツユクサあたりが好きだ。
ツユクサを野菜炒めに、おひたしに、サラダや酢の物や、天ぷらにする。
とても食べやすく美味しい味わい。
山に着き、しばし野草採りに夢中になりビニールにひたすら詰め込んでから帰ろうとすると、ふと、封鎖されており使われていない林に覆われたトンネルが目についた。
車は通れないトンネルだ。
だが完全には封鎖されておらず、人が入ろうとすれば入れるそこに、人の姿が動いて見える。
あたり、太陽の日は落ちかけている。
なんだか気になり、トンネルまで近づいてみた。
近くに行ってみると、誰もいない。
中に……いるのか………?
中は暗く、真っ暗だ。
中に入って、人がいるか、確かめてみようか?
やめとけばいいのに、こけむした入り口から、私は足を踏み入れた。
暗く、コンクリートの地面。
狭くて、車一つ分の長さ。
照明なんか完全に無い。
ずうっと向こうに行っても、打ち付けられていて、通り抜けられないはずだ。
トンネル内の、何となく湿った空気の中を歩いて、突き当たりについた。
「…………………」
誰もいないな。帰ろう。
とした瞬間、後ろから腕を掴まれた。
思わず叫んでしまった。
腰を抜かした私につられて、腕を掴んだ誰かも飛びのいて倒れてしまった。
「うわあ!ビックリしたなあ……!!もー!!」
声の主は軽装の作業ジャンパーを着込んだ、20代半ばあたりに見える男だった。
「驚いたのはこっちですよ」
負けじと言い返すと、相手は笑った。
「トンネルの先の村に行きたかったのか?あんたも」
と問いかけてきた。
「村?」
私は思わず背後の封鎖された壁を見つめた。
二人してトンネルを出ていき、何とか光の下に帰ろうとすると、外はもう既に日が完全に落ちきり、残念なことに光芒の欠片などは一筋も残っておらず暗かった。
野草を入れっぱなしにして地面に置いてあったビニール袋を腰を屈めて拾うと、私は男に自己紹介をした。
「俺は、こん村の役場に勤めている吉岡智弥と申します。もしかしてあんたも心霊スポット荒らしじゃないだろうね?」
「心霊……スポット……?」
「はぁ、知らない?ここはね、心霊スポットとして全国に紹介されてるんだって」
まったく、初耳だった。吉岡と名乗る男は思わせぶりに続けた。
「不気味な声が聞こえてくる、なんてなぁ。心霊の報告を一杯受けるから、上から、調べてこいとね。はぁ、やれやれ。聞きたいか?このトンネルの怖い話を……」
そう言って男は私の返答も聞かず、勝手に語り出した……………。
第二章 吉岡智弥
トンネルに現れる霊の話
初めまして。俺の名は、吉岡智弥という。
こん村の、村役場に勤めている。
一体全体まーた、こんな場所をウロウロしてるから……てっきりぃ、心霊スポット目当てのアホかと……。
はぁ、失敬。
後を経たないんだよ、それくらい。
このトンネルには。
面白がって観にきて、騒ぐような、うんざりの連中がさぁ。
そうさなぁー。
殆どが暴走族や若者達だなぁー。
使用済み花火やスナック菓子袋のゴミは散らかしていくし、落書きは残していくし、ひどい時にはゲロまで置き土産に残していって、役所の人間に片付けさせるんだから。まったく。
なんだよ、あんたも、結構若いじゃないかって?…………いっちゃなんだけど、ほとんど中年以上のおじさんおばさんしかいないなんていう職場に囲まれて働いているとねぇ、自分の年齢なんてのは、ちっとも、意識しなくなるから。
ははぁ。嫌々役所勤めしてそうだね、て?その通りの大正解。
俺は、本当は、東京に暮らして、夢のモテモテバンドマンになりたかったんだよ。…………ウッソぴょん。
はははぁ、まぁ俺が、本当は何になりたかったのか、なんて話は、やめておこう。
ともかく、最初から安月給地方公務員なんて、誰も目指してないんだよ!
職員数が絶対的に少ない我が職場は、一人の職員が目まぐるしく色んなことやらされる。得手不得手関係なくただの村の便利屋。人使い荒過ぎ。
その上給料も安い。更に副業は禁止されている。
この村はジジババばっかりだが、役場職員すらお迎えがそろそろ声をかけにくるジジババばっかりで人間関係ももーめちゃくちゃ。
役場にかかってくる電話はほとんどがうるっさいジジババからのクレーマー。
はぁ……。やめたい……。
何?そんなに言うならやめてしまえばいいじゃないか。って。あんた、そりゃ、ねえ。
やめたらご飯食えなくなるじゃないか。こん村でまともな職場は、指で数えられる程に僅か限られていて……
まともにボーナス支給される職場なんか他に、ない。
そうさなぁ、村役場と唯一肩を並べられる職場は田舎のパチンコ屋くらいかなぁ。
実に酷いもんだなぁ。
先週は、役場環境課にまわされて野生動物の死骸処理、そのまた前週は、農業委員会の事務雑務班にまわされるし、たくっ、農業委員会は役場とは別自治体のはずなのに……
そして今週は………まぁ、心霊処理とは!
何で俺にまわすかなぁ……。
選択肢
⬜︎そんなに愚痴愚痴言うならとっとと退職してしまえ ↓下スクロールして読む
⬜︎トンネルの話を早く聞かせろ →次話に飛ぶ
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なんだ……それは、つまり、俺には物食わず死ね、って、ことか?
━━━急に男の瞳の色が変わった━━━
ほー。ほー。ほー。ほー。ほー。ほん。
はーん。はーん。はーん。
俺が生きるためにしがみついている職業を、俺から引きちぎって、お前なんかもう、死んでしまえと、そう、言いたいんだな?
その顔色、やっぱりかぁ……!
マイカーのローン、月々三万円。
俺のローンなんか、どうでもいいっていうのかぁ。
俺に嫁がこの先来なくてもいいと?
長男なのに………?
━━━男は物凄い形相で急に私に襲い掛かろうとした!!怖くなって私は走り逃げ出したが、更に追いかけ回してくる━━━
固定資産税!!!!相続税!!!!
親から受け継いだ借金500万円!!!!
結婚相談所の月会費二万円!!!!
━━━意味不明な叫びをあげながら凄い足の速さで追いかけまわしてくる。
「ウワッ!ウワーっ!!!」
ゴロゴロゴロゴロ!
私はすっ転び、山の斜面をコロコロと転がり、切り株に頭を思い切り打って、そのまま二度と帰らぬ人となった━━━
ハァッ………はぁ………。
結婚式費用の平均360万円……。
…………あららぁ、死んでるなぁ、こいつは………。
………………。どうする。
ああ、確か、この先に湖があるから、重り付けて沈めとくことにするか……。
仕事増やすなよなぁ。……ったくもう。
終
バッドエンド ウェディングならゼクシィ
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