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嗤う繊月  ⑦

第三章 古木陽毅


視えてしまうから


オレねえ、学校の教師やってんですよ………。えっ、学生だと思った?

そんな幼く見えるのかな。

やだな。

これでも社会人になってもう何年ですよ。

古木陽毅 ふるきようきと申します。

仕事疲れの、ベンチ仲間ですネ。


唐突ですが、オレってば、人には視えてないものがよく視えるのです。


自分に何かが憑いてるのかって……?

それは、いえないなぁ。
オレの口からは、とても、とても。


………………オレの勤める学校の生徒たちはね、眼を凝らしてみると、皆、ほぼ、皆。何かを引き連れてるんです。


大抵は、大した問題がないものなんですけど。

中にはギョッとするようなのがいて。

生徒の命を虎視眈々と狙っているようなのがいるんです、たまに。

こう、頭の上に被さるような形で、頭が乗ってるんですよ。
手で、生徒の頭を押さえてね、目だけを覗かせて、その目は、生徒の顔をギョロリと見て、覗きこんでいる。
………血走った目で
早く死なせようとして、見ている。


話は変わりますけど、目と言えばね。
オレの目を見てください、ホラ。

右目。


こっちの目全然視えないんですよ。
視力、0.00いくつかしかないの。
これね、父親に殴られて、眼底出血を起こし、網膜剥離を起こして以来、ほとんど見え辛くなっちゃったんです。

医者にも行かず、ほっといてましたからね……。子供だったから、寝てれば治るだろうと何も対処せず。

そのかわり、この右目は、得体の知れないものばかりが映るようになってしまったんです。

まったく、視えてるんだか、視えてないんだか、分かんない状況の、オレの右目ですよね。


オレは哲学科の大学出で、生徒達に公民を教えてるんですが、そうです、公民。
政治・経済・倫理・社会を教える、その公民ですね。

地歴も教えてますけど。

最近やっと副担任から、担任として一つのクラスを持たされるようになりましてね。嬉しいんですよ。

仕事がやっと楽しく感じられるようになってきて。

んっふっふ。

うーん、それまでですか?正直、あんまり楽しくなかったな。

仕事内容もさることながら、当時の人間関係が……ううん、#霊関係__・__#といったほうがいいですね。
それがよくなかったものだから……。

当時、オレが副担任をしていたクラスなんですが……。

学級全体を担当していたわけじゃなく、俺の場合は、とある一クラスを副担任として任されていたんです。

そこの担任教師に憑いていた霊と、生徒達に憑いていた霊とが、凄かったんだ、こりゃまた……。





教師の霊と生徒の霊の戦争の話



オレが副担任を務めていたクラスのね、担任の中年教師はね、第二次世界大戦時代の、アメリカ軍の司令官の霊が憑いていたんですよ。

それでクラスの生徒達には……
総員玉砕した、日本軍人達の霊が、全員に憑いていた。

想像するだに、地獄。っですよ!

授業中もずっと睨み合ってるわけだから。
霊と霊同士が。

教室の中がずっと異様な雰囲気。ここはまるでパラオか、ルソン島か。生きるか死ぬかの貪欲な息遣いが。今にも銃撃の音が降り注ぎパラパラと響き渡ってきそうなね。

たまに担任の霊が、数の力に負けて、教師ごと昏倒して倒れる。

叫びながら倒れるんですよ。
英語を。
国語教師なのに。英語を。

ピリピリとした激戦の空気の間に挟まれてるオレは、居た堪れない。

ここは学校ではない。
針のむしろ気分でした。

針といえば。


オレの右手、見てください。


五本の指の、爪の付け根の部分全てに、黒い丸点がデカいほくろのようにある。


これ、小さい頃に、父親に釘で開けられた痕なんです。穴を。

穴は全部塞がったんですが、こうして黒い痕が残り続けてしまっている。
今でも。

だからか、オレの指はたまにオレの意思とは異なり動き始めたりするんですよ……。

こないだも、コンビニから出たら、鞄の中に、知らない物が入っている……。
買ったはずのない、商品が……。


……生徒達ですが、ある日教室に入ってみたらね。


どうも変なんだ。


全員、無口で

彼らの眼は獣みたいに眼光らんらんと光っており、殺気走っている。
数人が集まってヒソヒソと何かを話している。
オレが入ってくるなり、こっちを一斉に向いて、どうも、変。穏やかじゃない、空気をして。


それにいつまで経っても担任の教師が出勤してこなくってね、仕方なくオレが担任の代打ちをしてね、結局最後まであの担任教師はちっとも姿を現さなかったんだ。


………あの、担任教師は、一体どうなったのかなぁ?


選択肢

⬜︎逃げ出した  ↓下スクロールして進む

⬜︎食べられた  →次話に飛ぶ






そう!朝早くに教室に向かっていた彼は、………オレが登校するより早く登壇していたんだ。
そして同じく朝早くから登校していた生徒達と、大喧嘩を繰り広げてしまった。

怒りに煮えたぎった彼は、教室を飛び出し、とうとう彼の中の軍人の魂が、覚醒してしまったんでしょうね、そのまま校長室に出向き……

マジックで書いた退職届けを投げ渡し……


そのままの足で航空チケットを買い……


飛行機でアメリカに飛んで行っちゃいましたね。

現在、アメリカの民間軍事会社の、傭兵隊長に就任しているという話を聞いたんですよ。

まさか取り憑いたものによって、ここまで、人生が方向転換されちゃうものだとはネ…………。

おや………、あなたの後ろに、霊が近寄ってますけど!?


ジェームズ・ディーンの霊が……!!

━━━……私の中で、何かが勢いよく覚醒した。
噴火のように、湧き上がる想い、衝動。
いますぐ、アメリカに渡り、映画俳優を目指さなければ。
すぐさま振り返り、男が呼び止めるのにも構わず走り、タクシーで港に向い、アメリカ行きらしき船に飛び乗った。
貨物の中に紛れ、密航した。
新天地は太陽があまりに眩しく、日本より何もかもが巨大だった。
道路も、食べ物も、人も。
私はとりあえず路上から大道芸生活をスタートさせ、その内に映画「サムライ・バットマン」のスカウトマンからお声がかかった。
今夏、日本でも公開が決定され、上映されれば日本の夏をより楽しく賑わせること間違いなしだ。

まさか私についたジェームズ・ディーンの霊のおかげで、ここまでアメリカン・ドリームを掴めるなんて……。

だが私は、銀幕デビューから半年後、突然の自動車事故によってこの世を去ってしまった。そう、かのジェームズ・ディーンの最後とまったく一緒だ。

ジェームズさん、これはひどい━━━



バッドエンド  ジェームズのお導き



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